表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第壱鬼 百鬼繚乱編
11/94

第拾壱巻 今度こそ、気を楽に待とう♪ ……微妙な雰囲気

第拾壱巻 今度こそ、()を楽に待とう♪ ……微妙な雰囲()


「うちらも混ぜておくれでないかい」

 その声と共に典人のりとたちがいる地下の広間『牢獄核ろうごくかくの間』に通路の奥から二人の女の子が姿を現した。

 一人は黒髪ショートカットで肩につづみを担いだ白い法被の様な衣装に(たすき)を絞めた、典人のりとと同じくらいの年頃の活発そうな見た目の少女。胸はそれなりに大きそうなのに(さらし)で巻いただけでおへそは丸見え。それどころか下乳が見えそうである。更にそれを襷で腕周りを絞っている為より強調されて歩くたびに揺れている。

 もう一人がさらに扇情的せんじょうてきであった。

 年のころはやはり典人のりとと同じか少し上といったところか。すず色、言い換えれば銀灰色ぎんかいしょくの長い髪を後ろで水引の様に結び、両手両足には鈴が付けられている。

 ここまではいい。

 問題は衣装の方であった。

 典人のりとの第一印象で言うなら「際どい水着」である。全体的に包帯で水着の様に巻いた様な作りで、下は腰のところから股のところにVの字に巻かれ、上は首のところでクロスさせた布がそれぞれ胸を包むというより抑えるといった程度で後ろに回っているだけである。隣の少女の胸の大きさは典人のりとの見立てでは垢舐あかなめや小豆洗あずきあらいと同等。それが襷によってより強調されているのに対し、この少女は明らかに前の三人より大きい。絹狸きぬたぬきには及ばないまでもあれは扇情的というより圧巻と評した方がよいものであるから今は置いておくとして、それに良く引き締まった腰に肉感的なお尻から太腿までのラインが情欲を掻き立てるには充分であった。それが歩み寄ってくる度に柔らかそうに形を変える。ともすれば零れ落ちそうな危うさだ。

(はっ、鼻血が出そう)

 典人のりとは思わず鼻を抑えるべきかと考えたが、思い止まり、首の後ろをトントンと軽く叩くだけにした。

虚空太鼓こくうだいこだよ。これから頼むね」

 あっさりとした清々しい口調で挨拶あいさつをする虚空太鼓こくうだいこ

 こちらも先の三人同様、典人のりとは後で知ることになるが、『虚空太鼓こくうだいこ』は安芸の宮島の軽業師の一行が運悪く瀬戸の荒潮を渡ろうとした際、嵐に重なり船諸共海中へと飲まれたとき、沈みゆく船の上で最後まで助けを求めて太鼓を叩き続けていたという悲劇から生じた妖怪で、旧暦の6月ごろになると瀬戸の海上で、何処とはわからない場所から太鼓の音が聞こえてくるというものである。

 どうやらこの虚空太鼓こくうだいこという少女はやんぼしと違い、見た目通り正真正銘体育会系活発少女で間違いなさそうだ。

「初めてご挨拶させていただきますわ。鈴彦姫すずひこひめと申しますの。以後、よしなに」

 虚空太鼓こくうだいこに続いて鈴彦姫すずひこひめが文字通り鈴を転がしたような声で典人のりと挨拶あいさつする。

「あっ、二人ともよろしく」

 こちらも同様に典人のりとは後で知る事となるが、『鈴彦姫すずひこひめ』は神楽鈴かぐらすずの妖怪で、あま岩戸いわとこもられた天照大神あまてらすおおみかみいさめるために岩戸の前で妖艶な舞を披露して周囲を魅了した芸能の神の天鈿女命あまのうずめのみこととの関連を示唆されている。

 その鈴彦姫すずひこひめ優雅ゆうが所作しょさで一礼している。だが、そのせいで、典人のりとの位置からの角度的には大変なことになっていた。

(見ようによっては限りなく着てないに近い!)

 典人のりとはそれを食い入るように見ている。健康的な高校生の典人のりとが拒否する理由は何もない! 断言しよう。断じて何も無い!

「で、今から一興行ひとこうぎょう打つんだろ? あたいたちも混ぜておくれでないかい?」

 虚空太鼓こくうだいこが肩に鼓を担いだまま白い歯を見せ尋ねる。美少女ではあるがそれと同時に気風の良さも伺わせる動作である。

虚空太鼓こくうだいこさん、興行ではありませんわよ。御館様おやかたさまの御前での奉納ほうのうですわ。御捻(おひね)りとか期待しても無駄ですわよ」

鈴彦姫すずひこひめこそ奉納ほうのうは違うだろ。鈴彦姫すずひこひめの方こそ、ここでいきなり脱ぎだすんじゃないよ」

「脱ぐの!」

 その言葉に典人のりとが食い付いた。繰り返そう! 健康的な高校生の典人のりとが拒否する理由は何もない! 断言しよう。断じて何も無い!

「ええ、御館様おやかたさまの前でしたらいますぐにでも。なんでしたらこの場で音楽と共に舞いながら披露いたしますわ」

「マジで!?」

 その言葉にも典人のりとが食い付いた。再度繰り返そう! 健康的な高校生の典人のりとが拒否する理由は何もない! 断言しよう。断じて何も無い!

 思わずいろいろな意味で前かがみになってしまう典人のりとであったが、不意に鈴彦姫たちの後ろから声が掛かる。

「およしなさい!」

 見れば、そこには鈴彦姫すずひこひめのすぐ後ろに川天狗かわてんぐが腰に手を当てて折角のおだやかな表情をかたくして立っていた。

鈴彦姫すずひこひめさん、はしたないですよ。御館様おやかたさまは皆に話があって牢獄核の間にお集めになられたのですから」

 川天狗かわてんぐはズンズンと鈴彦姫すずひこひめのもとに歩み寄る。

「あら、話し合いでしたらやはり、裸の付き合いが有効ですわ」

「どこがです!」

「そうですわねえ。例を挙げるなら、扉を開いたり、道を開けてもらったりでしょうか。心を開いてもらうには胸襟きょうきんを開いて語り合うのが一番でしてよ。なんなら昨夜にしても心を閉ざされた御館様おやかたさまを……」

「そんな話し合い方がありますか!」

 対峙する二人。

 山伏やまぶしの流れを引き、厳しい修行や戒律かいりつとする川天狗かわてんぐと、肌を露わにはだけさせることに忌避感きひかんの無い鈴彦姫すずひこひめでは相性が悪すぎるのであろう。

「まあまあお二方共、今回はあたしが琴古主ことふるぬしちゃんと琵琶牧々(びわぼくぼく)ちゃんに弾いてほしいって頼んだんだよ。だから、鈴彦姫すずひこひめ虚空太鼓こくうだいこも、ざるなら演奏だけにしておいてくれないかな」

 やんぼしが二人の間に割って入り妥協案だきょうあんを提示する。にしても割って入るとはいっても、典人のりとの隣にいた筈のやんぼしが、一瞬のうちに二人の足元に出来た影から出現して割って入ったのには典人のりとは素直に驚いていた。これがどうやら彼女、やんぼしの妖力による能力の一つらしい。

「仕方ないですわね。そう言う事でしたら」

「……分かりました。収めましょう」

 やんぼしの説得により一応はその場が収まる。

「露出狂め!」

 少し離れてから川天狗かわてんぐつぶやく。

「いやあ、昨日、御館様おやかたさまに自分たちが魑魅魍魎である事を証明するためとはいえ、いきなり服をはだけさせようとした川天狗かわてんぐっちが言うのはどうだろうね」

 後ろを見ればニタニタしながらそれでも人懐っこい笑みと呼べる表情を浮かべてろくろ首が経っていた。

「あっ、あれは、勢いと言いますか、雪女さんに触発されたと言いますか……」

「私のせいにしないでほしいですね」

 見れば、さらに後ろから雪女が楚々とした足取りで着いてきていた。

「あっ、その……御免なさい」

「ふふっ、冗談です。構いませんよ」

 雪女が薄く微笑みながら川天狗たちの元に歩み寄る。三人が輪になったところで、

「まったく、これから御館様を盛り立てて日本への帰還の道を探らねばならぬという大事な時に」

 再び川天狗が不満の声を漏らす。

「川天狗っちは生真面目だねえ」

「あの鈴彦姫がふしだら過ぎるんです!」

 憤懣遣ふんまんやる方無いといった表情でチラリと鈴彦姫を見る川天狗。

「同感ですね」

 そこに一人の少女が加わってくる。

 年のころは見た目典人(のりと)と同じくらいだろう。青白い髪をショートボブにし、肩にはボア付のショールの様な物をはおり、足には同じくボア付のレッグウォーマーの様な物を履いている。

「なまはげさん」

 雪女が反応し少しスペースを開けて招き入れ、4人で輪を作る形となる。

「私たちの大半は基本的に何かに執着しているが故に妖怪化したものですからね。無念、怨念、執念、心残り……神や精霊から変化したものも、その念の強さは折り紙付きですよ。異世界に跳ばされてきて容姿や能力、性質が多少変化したとはいえ、その本質はそうそう変わる物ではないでしょう」

「それが故に相容れない、ですか」

 なまはげの言葉に雪女が続ける。

「ええ、縄張り争いにはじまり、種族間の不和、性質の相違、果ては国津神くにつがみ天津神あまつがみ確執かくしつに類するものまで、ここには無秩序に跳ばされてきた魑魅魍魎が存在する事による様々ないわれ・因縁いんねん・故事来歴による問題が生じるのは、ある程度致し方ない事でしょう」

「それはそうだろうが、あれは御館様に悪影響が出かねぬ。昔であれば御館様の年頃であれば問題もなかったが現代ではそうはいかぬ。我々が日本に戻った時に御館様に悪影響が出ていたらどうするつもりだ?」

「本当、川天狗っちは生真面目だねえ。その時は川天狗っちが面倒を見て上げればいいんじゃない? あたしも手伝うからさあ。鈴彦姫にも手伝わせれば良いし」

「それじゃ何も解決になってないでしょうが!」

「ほらほら川天狗っち、折角のいやし系が台無しだよ」

「だから!」

「こらっ、言ってる傍から我々が不和を起こすわけにはいかないでしょ? 川天狗、あなた自身御館様おやかたさまを盛り立てて行かなければと言ったばかりではありませんか。今は悪影響ばかり気にしてないで、我々を知ってもらうことから始めましょう」

「はあ、本当に個性が強い分、まとめるのはかなり難しいでしょうね。御館様おやかたさまのこれからの気苦労が忍ばれますね」

 雪女がその幼げな顔立ちに、文字通り白い溜め息をらす。

「さっきの川天狗っちと鈴彦姫ちゃんみたいにね」

「ろくろ首!」

 からかうろくろ首に抗議の声を上げようとした川天狗だったが、ろくろ首の表情を見てその言葉を飲み込んだ。

「さっき、呼びに来たさとっちから聞いたんだけど、御館様はこれからのことについて悩んでいたみたい。昨日は自分が成り行きで仕切ったみたいになってたけど、それでいいのかって? 自分には何が出来るのかって?ただの高校生じゃあ、何も出来はしないんじゃないか? って」

さとりさんが……それは……牢獄核ろうごくかくを作った者の意図は測りかねますけど、御館様おやかたさまわたくしたちにとって大切なお方であることは間違いありません」

「そうだね。でも、本人はたまたま偶然呼ばれたと思ってるみたいだよ」

「そんな筈はありません! 何らかしらの御役目を背負って来られたに違いありませんから! それをご理解いただければ必ずや……」

「何らかって、何ですか? それ、証明できます?」

「それは……」

 雪女の短いが鋭い質問に川天狗は言葉を失ってしまう。

「あたしたちが理解していないんだ。それを御館様に納得してもらおうと思っても無理が出るんだよ」

「川天狗、あなたのそういう怠惰たいだを良しとしない気質は好ましく思いますよ。ですが今までは皆バラバラだったのです。一先ずは焦らずゆっくりやっていくのが良いと思います。御館様にはその間で少しずつ成長していって頂きましょう」

「とは言っても鈴彦姫ちゃんや絡新婦(じょろうぐも)ちゃんとかだと淫蕩いんとうの世界にひたみそうだけどねえ」

「ろくろ首!」

「雪っちだって、何やかんやで甘やかしそうだよねえ」

「なっ! 何を根拠に」

「ツンクーデレ」

「なんですかその呼び方は!?」

 皆の緊張をほぐそうとしたのか、ろくろ首の表情は先程までの真剣な面持ちは鳴りを潜め普段のからかう気満々のそれでいてどこか憎めない笑みに戻っていた。

 そんなやり取りをしているうちにも牢獄核の間の入口からは、続々と女の子たちが集まってきていた。

 典人のりとの近くでは琵琶牧々(びわぼくぼく)琴古主ことふるぬし虚空太鼓こくうだいこ鈴彦姫すずひこひめが演奏を開始している。

 本来なら和楽器といっても琵琶、琴、鼓、神楽鈴といった変則的な楽器の取り合わせで演奏するのはかなり難しいと思われるが、流石はそれぞれの妖怪と言うべきか、見事に組み合わせて調和の取れた演奏を披露ひろうしていた。

 不思議なもので、典人のりとが日本人だからかもしれないが、琵琶と琴、それに鼓と鈴の音を聞いていると、心が落ち着いて来る気がした。

 どことなくさっき気味悪いと思っていた空間が清浄な空間へと変わった気さえする。

 そうして、4人の演奏が始まり……

 その演奏は女の子全員が揃うまで続いた。

 心が洗われるような演奏が繰り広げられている最中ではあったが、その演奏を聞きながらも典人のりとは先程の鈴彦姫すずひこひめの姿を思い出していた。まあ、これも一応、『心があらわれている』と言えなくも無い。

(取り敢えずこれは今日のウイニングショットだな。……ウイニングショットは一日に何回あっても良いもんだ!)

 そして、先ほどの素晴らしい光景はしっかりと心のアルバムに加えることを忘れなかった典人のりとであった。

 川天狗の懸念は案外手遅れで、この先も続いていくのかも知れない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ