#4-1 虚時の過行
シンがいなくなってから、もうすぐ1年が経とうとしていた。
寒い寒い12月。
……春休みに入ってから、俺は何度か警察のやっかいになった。
犯罪をおかしたわけじゃない。
シンの父親撲殺事件について、普段のシンやら、シンとの関係やらについて問いつめられた。
重箱の隅を、突いて突いて突き破ってしまうくらいに。
俺も容疑者の一人とされたようだ。
シン他殺犯人として、シンの父親撲殺犯人として。
もちろん、俺じゃない。
シンの父親とは面識すらない。
だが、それでも警察は俺を嗅ぎまわった。
シンのお腹にいた赤ちゃんについてだろうか。
シンを無理矢理孕ませたのが俺で、それが苦で自殺した、と。
シンを強姦し、子供ができてしまい、面倒になったから屋上から突き落とした、と。
クソったれな話である。
だが、それが警察の仕事だ。
責めるわけにはいかない。
責めたところで、何が変わるわけでもない。
それに、そこまで警察もバカではないだろう。
赤ちゃんを検死して、その父親が少なくとも俺ではないことくらい突き止めているはずだ。
まともな、警察ならば。
シンは素行不良の女子高生としてメディアに大きく取り上げられた。
学校にきてもまともに授業にでない、友達もいない、笑わない、何を考えているかわからない。
あるラジオ番組では、DJが視聴者からの「私も赤ちゃんを無理矢理作らされた」という投稿に対してコメントをしていた。
ある雑誌では、有名評論家が現代教育社会の崩落と嘆いていた。
あるテレビ番組では、人気タレントが若者の本来の生きる姿と同情的で偽善な言葉を延々と喋っていた。
何も、わかっちゃいない。
どこかの女性紙は、独占リポートと名をうって、生前付き合っていた男性について細かく調べ上げ、記事にしていた。
女たらしで、すぐに手をあげて、教師の言うことも聞かず、どうしようもない生徒だそうだ。
――どうやら、俺のことらしい。
本当に、バカバカしい。
それで同情を請い、女性客を集め、男性批判やら現代性教育やらそんなものについて書くのだろう。
偏った意見を貫き、主観に走る。
自分のオマンマのために。
もっとも、そういう人間に客観性という言葉があるはずもない。
時は流れる。
メディアからシンが消え、代わりに政治家の汚職や俳優の浮気が紙面を飾るようになった。
暑い、暑い、夏だった。
一度、シンのお墓参りにいった。
すでに花が添えられ、綺麗に掃除してあった。
誰がやったかは知らない。
シンに同情した高校生かもしれない。
誰か身内が――とにかく、その花の横に、俺の持ってきた花を添えた。
見晴らしのいい墓地だった。
高台にあるため、街が眼下にひろがる。
あの広場のような夕焼けが望めるのだろうか。
ひぐらしが鳴いていた。
空がほのかに赤い。
だが、俺は夕日を見る前に、その場から立ち去った。
見たく、なかった。
そして、冬に、なる。
「夕焼け、綺麗ですね」




