#0 ハジマリトシテノオワリ
いつも、独りだった。
はじめから望んでいたわけではない。
しかし結果としてそうだった。
結果として。
貼られたレッテルはあまりに強く、あまりに大きいものだった。
周りの人間がしっかり洗脳されるほど、深く突き刺さった心の刃。
本当は、こんな人間になりたいわけじゃなかった。
ただ、周りの目は『俺』という全てを束縛した。
身動きもとれず、周りに流され続ける日々。
抗えども理解されず、理解してもらおうとしても蔑まれる。
繰り返される徒労と絶望。
何度試してみても、解決には至らない虚無感。
「違う、そうじゃない」訴えかけても期待通りの答えは返ってくることもなく。
「僕はそんな人間ではない」あるのは否定的な視線、態度。
はじめは、涙した。悔しくて涙した。
感情を抑えきれず、しかしその姿さえも冷たくあしらわれ。
人前での感情を抑えると、さらに強くレッテルがすべてをきつく縛りつけ。
――そして。
いつしか、そこには変わり果てた自分が佇んでいた。
髪も服装も、煙草も人も、見える街並みも。
温もりも、安らぎも、愛情も、見上げた空も、吹きつける世間の風も、心動く情景も、何もかもが違う。
夢ではない。
だが自分にとっての現でもない。
そこにはオーウェンを片手に紅茶をすする自分がいて、部活が終わって仲間と一緒に談笑をしている自分がいるはずだった。
否、そこにいなくてはいけなかったのだ。
だけど、いない。
いくら泣いても叫んでも騒いでも嘆いても疎んでも慟しても、本当の自分の声は誰にも届かない。
いつしか自分にすら聞こえなくなるかもしれない。
怖い。
だけど、どうしようもない。
どうしたらいいかわからなくなる。
死にたくはない。
死ぬことの方が、もっと怖い。
どうしたら、いいのか。どうすればよかったのか。
自身で自身に苦しみ、傷つけ、もがいた。
何も解決しない、堂々めぐりの思考スパイラル。
考えても、何も変わらない。
だから、何かに抗おうとし、それは一種の破壊行動になり、阻害的思考となり、周囲の人間にとって劣悪的人間に陥らせるには十分だった。
ますます、孤独となる。
もう親すらも見向きもしない。
見向くことも、ない。
いつしか社会――『学校』という名の監獄と『教師』という名の独裁醜悪神による『教育』という名の差別が蠢く濁った世界――にいることすら拒まれた。
そこでは、自分は、ゴミでありカスであり犬畜生にも劣り価値もなく意味もなく公害としか成りえず最低位人種として扱われる。
吐き気がするほど腐った閉鎖的世界。
『真面目で模範的な生徒』と認識された者のみが優遇される学校制度。
ひとたび教師に目をつけられると、二度とヒトとみなされない。認められない。
しかし公に阻害はされず。
代わりに陰で行われる陰湿な排他的行動。
侮辱という言葉だけでは表現のしきれない――すでに考えることも億劫になってしまうほど繰り返された現実――日常。
そう、指導という口実で暴力は黙認、段階的教育という名目で差別すら普遍的になり得てさえいた。
……もともと、学校と刑務所は、同じ原理から出発している。
少数が多数を支配し、番号によって識別化され、規則によって被支配層を束縛する。
子供が不必要とされた中世社会における革命の副産物。
こじつけと歪曲理解の通用しえる不条理。
そんな世界は心地よいはずがなく。
自分すら見失いそうにさせる。
――いくら皮肉を言っても無意味なのはわかっている。
だが、そうせずにはいられない。
空虚さの漂う校舎。
うわべだけの笑顔と悪意を持った生徒たちの駆け引きが行われる場。
人と出会い、傷つけ、腐らせるために分けられたクラスという集団。
くだらない。
本当に、くだらない。
逃げることもできた。
しかし自分には、これしか選択肢がなかった。
勇気がなかったのもあるだろう。
逃げた後に残された、自分がいたという事実を冷笑されることが許せなかったのもあるだろう。
いつしか自分の話題があがらなくなる、それも怖かったろう。
だから、それでも、俺は抗いたかった。
今を否定して、いつか理想の自分になれることを夢みていた。
夢くらい、みさせてほしい。
きっと、いつか、その日が来ると。
普通の一般人として、普通に扱われて、普通の生活ができる。
たった、それだけでいい。
それすら許されなかった自分に、堕ちて何も見えなくなっている自分に、光を。
許されるだろうか。
何もない、何もできない自分は。
許されるだろうか。
愛を忘れ、温もりを忘れた自分は。
きっと、許されるはずもない。
ただ、もし、許されるのなら。
それは、その時は――。