第壱話 其々の異能
「初めまして、僕の名前は江戸川乱歩。全ての異能力の原点に存在し、推理作家の憧れとなるであろう人物である。おっと、君は異能力者だね。」
「……」
空気を読まずに、ズカズカと人の私事に入ってくるこの男児の名は、江戸川乱歩。
私の担任するクラスに転入してきた、一人の少年であった。瞳はエメラルドグリーンの様に澄んだ緑で、その眼に映る姿がどんな物なのかは、長年教師を遣って来た私にも判らなかった。
彼を担任してきて判った事と云えば、教師の云う事は訊かない、人の挑戦もを簡単に完璧にこなすことが出来ていた。勿論、技術面では断突一位。文句無しまでの天才否、奇才であった。余りに天才過ぎる上、クラスでは浮いた存在でも有った。
まるでそんなことは御構い無しの様に振舞っていた彼だが、何かと私を馬鹿にしてきた。
「君、そんな事も判らないのかい?其の様じゃあ、教師失格だね。今すぐ、辞任すると善い」
等と愚等かつ忌まわしい発言までしていた。
そんな彼にも、仲間という存在が欲しくなってきたのかは全く判っていなかったが、彼は「少年探偵団」を結成したい、と私に謂い寄ってきた。
他人には興味の無いような彼だったから、多少愕きながらも、其の場は何時かね…と有耶無耶にさせていた。勿論、奇才であるという事を知りながら。
おっと、紹介が遅れたようだね。
私、否僕の名前は、明智小五郎。異能力「D坂の名推理」。自分自身では解決する事の出来ないどんな難事件でも、解決する事が出来た。異能力には条件が存在する。僕の異能「D坂の名推理」の場合は、殺人事件であるということが条件の一つでもあった。
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自分自身は間違っていないと自分で呟きながらも、夕焼けに向かって少年は、足早に帰っていった。
少年の名を、江戸川と云った。超明細の解析者。どんなに困難している難事件でも、たった数分で、誰が容疑者なのか、どんな手口なのか判る事が出来た。しかし、彼は異能力者では無かった。どんな難事件でも解決彼にとって、日常というのは謎よりも不可解なものであった。
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「あら、此処は何処かしら、ルイスちゃんは何処に居るの?」
廃ビルの中に、一人の少女が現れる。
ルイスちゃんと呼ばれた子供を見付けられないと言う事が判ると、ポシェットから紅い髪の毛を出して、自分の体の前に置く。
「私は、何時だって此の髪の毛を頼りに生きてるわっ!異能力『孤独のアン』。」
紅い髪の毛の中から、お下げの赤い髪の毛をした少女が現れる。
「モンゴメリ、御機嫌よう。今日はどの様な御用時で?」
まるで、決められたのかのような声でモンゴメリと呼ばれた少女を向き、用事事を訊く。
モンゴメリ――、L・M・モンゴメリ。異能力「孤独のアン」。十センチの紅い髪の毛の中からどんな命令でも訊く赤毛の少女、アンを呼び、任務を果たす異能力。但し、その髪は自分の髪の毛で、毛根から十センチのみとされている。
「ルイスちゃんを探して、そして――敵の組織を抹消して」
「命令を受理。任務を遂行します。」
そう云った少女、アンは足早にその場を立ち去ると、髪の毛の中から、二つの武器を出す。
ものの五分で、遂行終了のアラームがなり、奥から、フラフラと少年が現れる。
「やァ、モンゴメリ。心配させて、悪かった――おっととと…」
「大丈夫?――それで、任務は遂行できた?」
ふら付く少年をゆっくりと座らせようとするモンゴメリは、心配した顔で訊く。少年は、嗚呼勿論だとうなずき、モンゴメリの表情が柔らかくなる。