5話 そうだ、明かりをつけよう!(後編)
「その様子だと、あっちの市場の方にも素材が一つもなかった……っぽいな」
カラナ・カムラ姉弟をアドナイの森に送った後、陽翔とノエルは二手に分かれ、必要になる素材集めを開始していたが……工房を探しても、市場を探しても、必要となる素材は一つも売っていなかった。
「火変換鉱石は入荷待ち。雷変換鉱石はあったけどトルザ鉱石だったからダメね。ハルトが言う『電気』を使うには変換効率が良過ぎて合わないわ」
そう、変換効率が良過ぎると余分な電気は熱に変わり、やがてそこで絶縁しているゴムごと焼き切ってしまう可能性が高くなる。単純に本物の雷の電圧や電流がそのまま電線の中に入ってくるのを考えただけでも後はどうなるかは予想できる事を実践する気にはならない。
その問題の解決方法である変圧器などといった電圧や電流を小さくする機器を作るにしてもこの世界でそのような装置を作るのは非常に困難だとノエルは言った。そのため、最初から変換効率の悪く弱い雷に変換出来る鉱石を集める必要があったのだが、そういった俗に言う『不良品』が出回ってるわけでもない。ここを解決しない限り、アドナイ村(仮名)の発展や交流などはまず無理だろう。
「……採掘するしかないのか」
「市場には出回ってないからそれが一番効率がいいのかも知れないわ」
探している鉱石はビリル鉱石。万素を変換しても人体に危害が及ばない程度の雷にしかならず、限りなく電気に近いモノにしてくれる鉱石である。それは陽翔達がいる街から近い場所で取れるのだが……。
「採掘道具が足りないわね」
「あぁ、それに知識や経験もない」
そう、ノエルは長く世界にいるが採掘などとは無縁の生活で送ってきた。一方で陽翔はつい最近まで日本にいて学生生活を送ってきており、こちらも当然、採掘などとは無縁の生活を送ってきたのだ。
「詰んだな」
陽翔は呟く。最も呟いたところでどうにかなるわけでもなく、鉱石の知識はあっても、採掘が出来なければ意味が無い。だが、この状況で陽翔は見逃していたモノがある事に気が付く。
「……そう言えば、俺達って工房の方は探してなかったよな」
「確かに見に行ってなかったわ」
その事を確かめると陽翔とノエルはすぐさま工房へと向かう。案の定、そこにはビリル鉱石が売り出されていた。
「鉱石とかはこっちに分類されてるのか、地図も宛にならないな」
「普通は市場に置いてあるものもこっちでの扱いのようね」
目的のモノはあっさり見つかかり、ビリル鉱石と火へと変換できる鉱石の一つであるビャカ鉱石を手に入れてアドナイの森へと帰っていった。
◆◇◆◇
「おかえりなさいハルトさん、ノエルさん。それとハルトさん、これで大丈夫ですか?こういうのは初めて作ってみたので上手くいってるかどうか……」
陽翔達が鉱石を持ってアドナイの森に帰るとカラナが出迎えていてくれていた。陽翔は街に行く前にカラナに筒状のテミコンを八つ作ってもらえるように頼んだのだ。
遮断率は工房街で見かけたものとほぼ変わらず高く、カラナの工夫なのか電線を通したテミコンとクリスタル状に加工したビリル鉱石繋いだ時にビリル鉱石がほとんど動かないように固定する場所を作ってあった。
「うん、上出来だ。これでこの暗い森にも明かりが灯せるぞ!あとは電線と灯台だけだな」
関連した知識を教えるのに一週間が経ち、こうして作られたテミコン、電線、灯台を約一ヶ月かけて、全体に設置し終え、森に明かりが灯る。
綺麗だと騒ぐ者もいれば、自分たちの家以外何もない事に驚く者もいて、リアクションは人それぞれだった。
「とりあえず、明かり問題は解消したな。次はコンロでも作るか」
陽翔は次の目標を考えながら明かりが灯った森を散歩した。