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4話 金りんごを換金して情報を得る

 目を覚ませばもう見慣れた天井が広がり、隣を見ればノエルが寝息を立てている。この程度では驚かなくなった辺り、そういう耐性が付いてきたのだろうと陽翔は思う。原因は決してそれだけではなくノエルとは既に恋人同士(カップル)の関係である。きっとそれも相深まって驚きもしなくなったと考えるとが妥当かもしれなかったが陽翔はそこまで気にしてはいなかった。

 陽翔は少しノエルの顔を覗く。スヤスヤと寝息を立てながら眠っている顔を見れば誰がこの娘を魔族であるというのだろうかと思うほどの造形美な顔立ちはまるで天使だった。そんなノエルの顔を見てニヤけるもそれが続くのは三秒まで、陽翔は真剣な表情に戻る。彼女の寝顔を堪能するよりも優先すべきことがあるからだ。


「服の生地の素材……本当にどうしよう」


 アドナイの森の中に一つの村と呼んでもいいほど家が建っていた。ゴブリン達やナダ村の人たちのわだかまりは無くなってきた頃、陽翔は数日前から悩んでいる事を解消しきれないでいた。

 それは衣服だった。陽翔やノエルの服は破れたり汚れたりしてないのでまだいいが流石に毎日同じ服という訳にはいかず、ナダ村の人達やゴブリン達の服は破れている上に毎日同じ服だ。

 そんな状況だったために陽翔はそろそろ服を調達するべきだと判断せざる負えなかったのだ。


「服の生地は確か、天然繊維と化学繊維の2つだったような……化学繊維は事実上無理だから、天然繊維が正解だろうな。しかし、生地の材料がな……」


 周りは硬い樹皮を持つ木々と金りんごの木があるだけで鑑定しても無駄だと思うものばかりである。

 考えても仕方ないと思い、陽翔は外に出て金りんごを三つほど手に取ると家に戻る。


「どうしたものか、金りんごで近くの街でお金と情報を手に入れてくるか」


 ノエルが起き、朝食に入る。朝食というものの、普通に見ればバランスが取れたとは言いづらい金りんごオンリーの生活だ。これも改善するべき点だと、陽翔はメモを取りノエルと共に近くの街へ向かった。


 ◆◇◆◇


「おじさん、これで白金角1枚分の金と服の素材について知ってることなんでもいいから教えてくれ」


 街に移動して間もなく、この街の地図を把握するとすぐに人気の少ない換金可能な店へと足を運んだ陽翔とノエルは店に入ってそうそう店主の迷惑を考えない発言を発した。


「な、なんじゃい!急に現れおってからに、そうそう値段が決まるわけなかろ――っ!金のアリゴ四つ、じゃと!?お前さん、まさかエルフ達から奪ってき――」


 初老の店主の顔色は青白くなった。当然といえば当然だ。この世界では人間というのは人類では最弱に位置し、人口は多いほうだが魔法や武に長けたものが少数という存在。

 それに対して金りんごもとい金のアリゴは万素の源泉で育ち、より濃い万素を蓄えることで実る果物。条件を見れば簡単そうだが人間には絶対に取れない果物なのだ。

 なぜならアドナイの森のように万素の源泉となっているほとんどの場所で瘴気を放ってるからだ。原理としては万素が瘴気となり、瘴気が結界の役割を持ち、その結界のせいで人間は自身の力では中に入れないからだ。

 逆に言えば、人類でありながら人間ではないエルフのような亜人族やゾンビのような死人族などを総じた者をこの世界では魔族と言い、その魔族だけが入れるのだ。ただし、アドナイの森に関しては魔族でさえ入る事を拒むために陽翔のような異世界から来た者を指す『来訪者』やノエルのように瘴気の干渉を受けない体質へと変化した者以外は自力では入ってこれないのだと言う。

 話を戻せば、店主は青白い表情でエルフ達と戦って奪ってきたのかと質問しようとしたところを陽翔は否定する。そして、陽翔が説明しようとした時、代わりに私が……と言わんばかりにノエルの口が動く。


「私とハルトはここよりもずっと東にある森で住んでいるわ。そこにある金のアリゴはそこで育てたものなの」


「――って事はお前さん達はまぞ」


 魔族か、と問いかけようとした店主の言葉を遮り、陽翔は交渉に出た。


「おじさん、俺達だって面倒な事はしたくない。『魔族』や『来訪者』が来たなんて知れたら収集がつかないかもしれない。ここは一つ見逃してもらえないだろうか?」


 第一に考えることは当然ながら自分たちに害が出ないようにする事、そして次に彼なりの店主への配慮だった。『魔族』が来たと知られれば国までは動かないにしろ街のみんなは武装して襲いに来るだろう、かと言って『来訪者』が来たと知られればこの世界で人間側が抱えてる問題に巻き込まれるのは明らか。

 どちらにしろこの店には迷惑が出てしまうのだ。用事が済めばそのまま帰る、と旨を伝えると店主は快諾してくれた。


「それで換金して貰いたいのはこの金りんご……もとい金のアリゴ四つ。鑑定は必要ない。換金額は白金角二枚。けど貰うのは白金角一枚分の硬貨だけでいい。もう一枚分は情報料とさっきの迷惑料として欲しい。それで教えて欲しい情報だが、衣服の生地の原料と街を通る時に身分書が必要になるかどうか、それともし必要なら身分書の発行場所まで教えてくれると助かる」


「お、おぉ……分かった。ちょっと待っておれ」


 店主は注文の内容を聞くと「そんな事で白金角一枚でいいのか?」と疑問を抱いたのか動揺気味に答えると店奥と入っていき、数分経つと白金貨九枚、金角四枚、金貨十枚を持って出てきた。

 陽翔はこの世界に来てからお金に関しての知識は皆無だったが、今持ってきてもらった硬貨の数え方からすると硬貨十枚で角硬貨一枚、角硬貨五枚で硬貨価値がランクアップした硬貨一枚と同等という仕組みらしい。最低硬貨価値はやはり銅で銅貨は日本円に例えると一円に等しい金額という換算になる。だから、今換金して手に入れた所持金は日本円で百二十五万円。

 社会人の一ヶ月分の給料よりも遥かに高く、だいたい約十ヶ月分だ。この世界での金銭について全く知らなかった陽翔は価値が分かった途端、頭を抱えた。無理もない、約一ヶ月前まではただの高校生にとって目を回すような大金だったのだから。

 そして、彼の住んでいるところが住んでいるところなので無限資産になっている辺り陽翔は内心で「資金チートが始まったわ」と呟いた。


「これで白金角一枚分じゃ。それと頼まれた件についてなんじゃが、どの街でもそうじゃが通行にはお前さん達が考えてた通り身分書が必要じゃ。まだ持っておらんのなら明日辺りにでもギルドへ行って発行してもらうといい。衣服の生地についてじゃが、わしには分からん。ただこういったのは図書館を利用する方がいいかもしれん。本を借りるには身分書が必要じゃからこれも明日じゃな」


「ありがとう、じゃあまた明日」


 そう言って陽翔達は去る。取り残された店主は――


「あの二人は一体何者じゃったんじゃ……片方は『来訪者』、もう片方は魔族に見えたわい。魔族の方は今までのような邪悪さなど見えんかったわい。むしろ、甘い空気じゃったな……まさか、夫婦とか……いや、ありえんじゃろ。魔族は人間を忌み、人間は魔族を嫌っておるからのぉ」


 そう一人ブツブツと呟きながらまた店の作業へと戻るのだった。この日を境に彼の店は日にちが過ぎてゆくにつれて繁盛したのはまた別のお話。

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