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3話 金りんごは交渉に役に立つ

 陽翔が異世界に来て一ヶ月経とうとした。アドナイの森にはポツポツと家が出来て来た頃だった。

 ナダ村では大変なことが起こっていた。


「ゴブリンの群れがやってくるだって!!?」


 村人の誰かが叫んだ。ゴブリン――異世界でもゲームでもザコ・オブ・ザコと呼ばれるほど弱小モンスターなのだが、魔法や戦う術を持たない者からすればやはり脅威でしかない。それだけではなく、畑を荒らしたりや女子供を連れ去ると言った行動も見られ、その上変に知能を持ってるためただの魔物として対峙すると痛い目に遭う。そうなってしまえば戦うすべを持たない村人達は退避以外の指示は無謀とも言えるだろう。


「ノエル、村人全員をアドナイに運んでくれるか?」


『流石に無理よ。大勢を一斉に転召するのは…本気でも出さない限り』


 この時、陽翔は思った。ダメだこいつ、早く何とかしないと。本気にさせる方法を考えるが何も思いつかない。こういった場合、あの言葉に頼るしかなかった陽翔はノエルにあの言葉の万能さを以て仕掛けた。


「キスでも何でもするからお願いします。俺の夢に必要な人達ばかりなんだ」


『じゃ…じゃあ、今夜も抱いてくれる?』


「ああ、抱くからお願い――……ってちょっと待て」


 考えること数分。


(……抱く?それって……あれ?確かに俺達は恋人だけど展開的に早くない?待てその前に――――『も』?)


『何?』


 凄く自然に爆弾発言をしたノエルは気付かなかったのか陽翔はツッコミに入る。


「『何?』じゃないよね?明らかにおかしいよね?ねぇ、なんで『も』なの?普通『は』じゃないの?いつの間に俺が大人の階段登ったの?しかも一方的に愛されてるのは俺だよね?」


『……私も愛してもらってるから大丈夫よ』


 なんだか頭が痛くなってきた、と言わんばかりに陽翔は頭を抑え、とりあえずノエルの要求を受け入れ、本気出してもらい村人全員を避難させた。

 ゴブリンの群れが目視で確認できる所までやってきた。村に入ってこようとするが陽翔のある言葉を投げかける。


「だいたいの予想は出来てる。食料確保のために来たんだろ?」


「オマエ、シッテル、ナゼ」


「『神風』のおかげ……かな?」


 ゴブリン達の動きが一斉に止まり、リーダー格らしきゴブリンが言葉を紡ぐ。

 敵意がなければお互いにそこを通る風の如く対立せず、隠すことあれば吹き抜ける風の如く見破る。『神風』という加護はそういう加護なのだ。平穏にかつ安全に過ごしたいと願って陽翔が選んだ異世界転召特典の一つ。

 事実、モノを見る目は鑑定品から相手の言葉一つ一つの真偽、さらには心まで見透かすことが出来るほど良くなっており、敵意さえなければ例えどんな魔王であろうと対立は無に等しく、それどころか鑑定能力をうまく使えば友好的にさせることすら可能と思えてくるほど平穏に過ごしたい人たちへ向けたチート加護だった。


「ここは一つ、これで帰ってもらえないか?」


 差し出すのは金りんごを詰めた木箱を示す。それも五箱差し出すというのだ。


「ウラ、アル、ゼッタイ」


「条件付きとは言ってないような……まぁいっか、二つほど条件を呑んでほしい」


「ジョウケン?」


 一つ目は人間に手を出すな、これは意外にもあっさりと約束された。問題だったのが二番目の条件だった。


「ハタラク?」


「そう。国づ――じゃなかった村作りに協力してほしい。これでも不満なら給料代わりに一人三つ金りんごをあげるよ」


「マテ、ソレ、ニンゲン、モッテル、ナゼ?ソレ、ニンゲン、ツクレナイ」


 リーダーゴブリンが眉を寄せ、怪訝そうに問いかける。当然だ、なにせ金りんごは亜人や魔族のみが作れる果実なのだ。それに亜人は昔、人間に迫害されたことを機に人間を嫌っており、魔族に関しては人間を餌としか見ていない。どちらにしろ渡すなんて考えられず、陽翔が金りんごを持ってる方がおかしいのだ。


「俺が住んでるのはアドナイの森の中心部だし、そこで栽培してるのはこれだ」


 事情を話すと次の質問がまた来る。まるで小学生を相手するかのような感覚だ。そう思いながらも陽翔はゴブリン達に説明をする。


「ニンゲン、ハイレナイ。オレタチ、ハイレナイ。ナノニ、ナゼ」


 アドナイの森に入ろうとしたことがあるのか、と陽翔は内心で感心していた。


「俺はここで言う『来訪者』という奴だ。どういう訳かアドナイの瘴気の影響はノーライフ同様受けない。俺達人間に危害・敵対しないのであればそこの金りんごを持っていっていい。俺達に協力するなら君達の家族の分も含めて一人あたり金りんご3つをあげる。君達は食料に飢えることはなし、身が危険になっても俺とノエル(ノーライフ)が守ってる。悪いようにはしないから安心して欲しい」


「ム……ワカッタ、ケイヤク、マモル。オレタチ、ナカマ」


(どこかの冷凍庫の帝王に名前が似たアホ貴族とは違って賢明だな)


 陽翔の中では目先の欲に眩んで契約を済ました貴族は「裏がある」と踏んできたゴブリン以下という評価が決まったのは言うまででもないだろう。


 ◆◇◆◇


 ゴブリン達と契約を結び、村人達にもゴブリンに危害を加えない契約を結んでから約一週間が過ぎた。

 陽翔の家を中心とした一つの村が出来上がりつつあった。

 だが、それは見かけだけで何一つ進展していない。というのも、陽翔がある事を気にしている。それこそ人間にとって重要な問題とも言えるだろう。


「食料も安定したし、家もだんだんと出来てきた。食と住は済んだか……次の問題は衣類か」


 衣食住のどれをとっても人間は安全に衛生的に暮らせない。仮に衛生に暮らせたとしても目のやり場や色んな問題が起きるのは目で確認するよりも確かな事。それに村人全員の服やゴブリン達の服はどれもボロく、手の力で引き裂こうと思えば力任せではなくても簡単に出来そうなほどだったのだ。残念ながらもこのアドナイの森にはダイヤモンド並に硬い樹皮を持つ木があるだけで服の生地となる素材は全くと言っていいほどない。

 そのため夜遅くまで服の素材をどう調達しようかで陽翔は悩ました。

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