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3話 ユラチナ国へ

ユラチナ国誰も居ない第一王女の部屋の一角に陽炎があらわれこの国では見ることのないまばゆい光が一瞬はなたれる。

あとには闇の中、人形のごとく無表情のユリア王女と呆けた顔の洋一があらわれた。


「ちょっと、なにする……って寒っ。それになんでいきなり真っ暗になってるんだよ」

暗闇の中、あせったような洋一の声が響く。

「少し静かに、火をつけますから。フロムマ」

ユリアの声が響くとすぐ近くにあった暖炉に青白い炎がともる。

「ウィス・エレクトリカ」

続けて唱えたユリアの声に反応し暖炉の棚の上二つのランタンがぼんやりとした黄色い光を燈<とも>し、

ようやく二人はお互いの姿を目にすることができるようになった。


目の前で次々とおこる理解不能なできごとに固まっていた洋一だが、

「寒い……」

耐え難い寒さに震えだす。半袖からでた二の腕には鳥肌が立ち、汗ばんでいたはずの背中や足は凍えるようだ。

「これを」

ふいにふんわりとしたやわらかい感触に横を見ると、どこからか透ける様にうすく軽くやわらかい銀の光沢のある布をはおったユリアが布の片端を広げ立っていた。

「一枚しかないのです。一緒に羽織ってもう少し暖炉の近くへ。その格好では凍えてしまいます」

洋一もあまりの出来事と寒さにいまさら逆らう気にもなれず、素直にユリアの言葉に従い暖炉の前

ベルベットにも似た肌触りの小さなソファに二人で座った。


青白い炎がユリアの人形のような顔を照らす。

少し温まってようやく頭が働きだした洋一はユリアの頬に手を伸ばし……


「痛い。何をするのですか?」

「あ、いや、ごめん。ウイッグかと思って、じゃその髪は染めてんの?それと目が緑なのは?」

「髪も目も生まれつきこの色です。フルセヨウイチの髪や目の色の方がわたくしには変に思えますが」

「なぁ、そのフルネーム呼びやめてくんね。発音もおかしいし、とりあえず洋一で」

「ヨウイチ」

薄暗い部屋で二人きり。間近で目をじっと見つめながらつぶやいたユリアに、洋一は珍しくドキマギする。


洋一に近づこうとする女は今まで山ほどいた。その誰もが洋一本人に向けられている以上の興味を洋一の持っているスペックに向けているのが見え見えでうんざりしていたのだが……

もしかしたら、この女は違うのかもしれないと洋一は思いはじめていた。


そんな気持ちを振り払うかのように、洋一は少し不機嫌そうにぶっきらぼうに問いかける。

「で、ここ何処?」

さすがに洋一にもここは日本じゃないらしいというより知っている世界じゃないと分かってきた。

頭のおかしいもしくは気を引くための奇抜な戯言かとも思って良く聞いていなかったが、さっき言っていたどっかの王女だというのはどうやら本気らしいと認めざるえない。


「わたくしの国、ユラチナです。どうやらノア・ルーナの刻に入ってしまったみたいです」

「ノア・ルーナの刻?」

「常夜の国ユラチナで月の出ていない闇の刻がノア・ルーナの刻と言います。気温が下がり外へ出ようものなら凍える冷気に氷ついてしまいます」

「中でも十分寒いけど」

「それはヨウイチのおかしな服のせいでしょう。昼の国はこちらでは考えらぬほど暑かったですから」

「おかしなって、俺から見たらあんたの服の方がよほど変だ」


「ユリア」

「へっ?」

「あんたではなくユリアです。わたくしは言われた通りヨウイチと呼んでいるのですからユリアと」

「じゃユリア、そのですます調の話し方もやめね?」

「それは無理です。慣れていないのです。人と話をすることじたい……」

「はい? ユリアは王女なんだろ? なのに人と話さないって、なんで」

「わたくしはここ何年もほとんどの時をこの部屋で過ごしてきました。

この城にはわたくしの味方はもう一人もいないのです」



ドンドンドン

扉がたたかれる音が響く。

「帰っているの? お姉様」

扉越しに甘ったるい声がする。

部屋の窓の外、暗い空には細く青白い三日月があらわれていた。


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