告白
「優希の知り合いの人?」麻衣が戻ってきてびっくりしたように聞いてきた
お菓子をいっぱい抱えた麻衣は面白そうな目で優希を見ていた
「違いますよ、お隣に座られたお嬢さんが可愛くて私から話しかけたのですよ」柔和な微笑で女性は答えた。
「内気な優希が初対面の人とおしゃべりしていて驚きました、」麻衣が笑いながら言った。
優希は麻衣のこういうデリカシーの無い所が短所だと思っている
(どうして初対面の人に私の性格をバラすのかな、、)赤面した優希は恨めしげに思った。
「何かの縁でこうやってお隣さんとなり会話させて貰った事に感謝しています」
女性のこの発言に優希はこの人も何か壊れているような気がした。
新幹線にて、たまたま指定席で隣に座っただけなのに、、なんて大袈裟なんだろうと
「そうですよね、袖ふる縁も私の縁と云いますからね」麻衣は滅茶苦茶な諺を出して調子を合わせた。
(その造語はヤメレ、)優希は安堵と共に麻衣に対して初対面の人に失礼の無いようにと願った。
「お嬢さん達は大阪に遊びに行くのですね、若いっていいですね」女性は優希の時とは違う親し気な雰囲気を醸し出していた。場の空気を一瞬で明るく変える、これが麻衣の凄さである。
これは麻衣の持って生まれたオーラであり、優希が憧れても決して手に入れる事が出来ない才能である。
車窓から見える景色が田園風景に変わり新幹線はその直後にトンネルに入った
耳がキーンとして優希は思わず唾を呑み込んだ。前方の席では子供が喉が渇いたとぐずっている
トンネルは異世界への入り口、優希は自分のパニック障害への嫌悪感と共に何か嫌な予感がしてくるのを感じていた。
女性は優希を真ん中に挟んで麻衣と会話を続けた。
(席を代わりたい)優希は憂鬱になってくる
彼女の名前は坂口悦子と云い優希達と同じく東京住まいで大阪に向かっている
その佇まいは今から楽しい用事で大阪に行くのでは無い寂寥感に満ちていた
人の眼は多くの言葉よりも雄弁である。優希の人生の中でこんなにも悲しい眼をした人を見た事は無かった。麻衣はこの人の眼を見て何も感じないのか不思議に思う
全体的なオーラは上品なのに、この女性に不安気を感じるのはこの悲しそうな眼である
闇の深淵を覗くとそこに存在していたのは恐怖ではなく悲しみである
(この人とこれ以上話してはダメ、麻衣もうやめて!)
麻衣も同じ感想をこの女性に対して感じていた。
(この人、やばい、この世のものではない感じ)
優希が黙っているから代わりに会話しているがこの人は何か私達に告白したがっている
初対面の人から伝わってくるこの違和感
さらっと社交辞令で済ます場面でこの誘導感は何なんだろう。
トンネルを抜けると周りの音が清涼となり耳の違和感も無くなった
人工的な照明だけでは不自然だった車内が太陽の陽光と混ざりあい明るくなった。
窓に目を移すと長閑な田園風景がまだ続いている
前方でぐずっていた子供は親と一緒に席を立った
急に現実世界に引き戻されたような感じがした。
悦子が優希達に向かって言葉を続けた。
「私の娘が生きていればお嬢さん達と同じ年齢になっていました」