合戦関ヶ原-その3-
家康の視線が向かった先。それは。
関ヶ原の中で未だ先端が開かれていない松尾山の小早川秀秋。
秀秋布陣に伴い不安定化した大谷吉継を救うべく大垣城を出。
赤坂から関ヶ原へ向かう我が軍を背後から襲おうとしたところを。
逆に我らが返り討ちにする……。
そのような算段で動いていた家康でありましたが。
三成ら大垣城の主力戦力が軒並み
関ヶ原の地に先回りを果たしていたため
逆に袋小路に迷い込むことになってしまった家康にとって
頼みの綱となるのは
松尾山の小早川秀秋……。
(……あんな奴に俺の運命を託さなければならなくなるとはな……。)
と秀忠以下主力将校不在を今更ながら嘆く家康であったが……。
監視役に送り込んだ
(……(奥平)貞治頼んだぞ……。)
その頃。松尾山は
小早川秀秋:「お前らのせいで私の関白の地位は御破算になってしまったのであるぞ。」
「この恨み生涯忘れないからな。」
平岡頼勝:(……まだそんなこと言ってるのかよ。あいつは……。)
秀秋:「でもな。まさか松尾山の眼下があのような状態になっているとは夢にも思わなかったな。」
稲葉正成:「三成と家康。双方の旗が見え、宇喜多。福島など激闘が繰り広げられておりますな。」
秀秋:「どちらが勝つか。まだ決まっておらぬな。」
頼勝:「御意。天は我らに更なる武功を立てる機会をお与え下されたのでありますな。」
秀秋:「どぉちらぁにしようかなぁ♪」
正成:「殿!?何をお考えになられているのでありますか?」
秀秋:「決まっておろう。関白の地位か。憎き三成を葬るかのどちらかである。」
頼勝:「この期に及んでまだ三成に加担しようとお考えなのでありますか!!」
と高みの見物を決め込む秀秋。
そこに
奥平貞治:「小早川様。」
秀秋:「なんでしょうか?奥平殿。」
貞治:「しばし人払いを願えますでしょうか。」
秀秋:「わかりました。」
と平岡ら小早川家臣を各配置へ戻す秀秋。
秀秋:「してどのような御用件でありますか?」
貞治:「家康より伝言を預かって参りましたので……。」
秀秋:「どのような内容でありましょうか?」
貞治:「松尾山奪取の件。家康は大変喜んでおります。」
秀秋:「当然のことをしたまでのことであります。」
貞治:「今、家康は豊臣家の名を騙る奸臣・石田三成を除くべく
最後の戦いに臨んでいるところであります。」
秀秋:「ワシは今、いくさの様子。手に取るようにわかる場所におる。」
貞治:「いくさは膠着状態にあります。」
秀秋:「ワシにもそのように映っておる。」
貞治:「そこでお願いなのでありますが。」
秀秋:「なる程。私に力を貸してほしい。
そのように申しておるのであるな。」
貞治:「さすが秀秋様でありますな。
ただそれには続きがありまして……。」
秀秋:「なんでしょうか?」
貞治:「家康含め我が軍は現在。関ヶ原の中でも
守るには難の有る場所に陣を張っております。」
「そこでお願いなのでありますが。」
「今、秀秋様が陣を構えております松尾山を家康に明け渡して頂くことは出来ませんでしょうか?」
秀秋:「え!!家康がこちらに参る。と申しているのでありますか?」
貞治:「秀秋様には大変申し訳ございませんが
代わりに山中村へ陣を移して頂きたい。」
秀秋:「ん!!山中村には今、大谷吉継が陣を張っているではありませぬか?」
貞治:「身勝手なお願いであること重々承知しております。
秀秋様が実行に移して頂けたのでありましたら家康。
生涯に渡り、秀秋様を御守りする所存であります。」
「もし。もし。の話でありますが
家康の願い。聞き届けて頂けないのでありましたら……。」
秀秋:「聞き届けて頂けないのでありましたら……。」
貞治(家康):「3万の軍勢で持って、力ずくで松尾山を奪いに参る所存であります。」
秀秋:「家康がこちらへやって来る……。そのように申しておるのか?」
「しばし猶予願えますでしょうか……。」
頼勝:「貞治殿は何と申されておりましたか?」
秀秋:「家康がやって来る。」
正成:「我らと合流したい。と申されているのでありますね。」
秀秋:「いや……。そうでは無く……。」
頼勝:「……様子が宜しくないようでありますが……。」
秀秋:「大谷吉継を狙え。と……。」
「さもなくば……。」
正成:「さもなくば?」
秀秋:「家康がこの松尾山を奪いに参る。と……。」
頼勝:「これは家康が殿のことを頼りにされている証拠であります。」
正成:「更なる恩を売る機会を得たわけでありますな。」
秀秋:「……でも家康が勝つと……。」
頼勝:「三成は殿を関白になどとは考えてはおりませぬぞ。」
秀秋:「いや。書状にはこのように……。」
正成:「まだこのようなものを大事に持っていたのでありますか……。」
頼勝:「三成は秀頼様を利用する輩。」
正成:「そんな彼にとって必要なのは。」
頼勝:「モノ言えぬ幼子。」
正成:「幼子であれば、三成の言い分をそのまま通すことが出来る。」
頼勝:「そんな状況にあって。」
正成:「既に元服を済まされ、1万5千の大軍を指揮することの出来る。」
頼勝:「秀秋様を、三成が関白に任ずることなどあるわけ無いでありましょう。」
正成:「よしんば関白になることが出来たとしても。」
頼勝:「三成が勝つ=淀殿が健在であるのでありますから。」
正成:「いずれ殿は邪魔者扱いされ。」
頼勝:「秀次様の二の舞となってしまうことに……。」
正成:「なまじの夢は大いなる絶望を生むだけであります。」
頼勝:「今。目の前にある現実。」
正成:「煮え湯を飲まされて来た三成と。」
頼勝:「その三成により生じた危機を救ってくれた家康の。」
正成:「どちらが秀頼様の後見人となったら良いか。」
頼勝:「考えなくとも自ずから答えは出ているでありましょう。」
正成:「今までの御恩に報いるのは、今しか御座いませぬぞ。」
秀秋:「……しかし関白の地位には……。」
と口籠る秀秋の視線に飛び込んで来たもの。
それまで三成と相対する諸将の後ろで睨みを利かせていた家康の部隊3万が。
突如方向転換し向かった先は。
……秀秋陣取る松尾山……。
正成:「決断を下すのは今しかありませぬぞ。」
秀秋:「……こうなっては仕方ない。全軍で持って吉継を打ち果たそうぞ!!」
正午過ぎ小早川秀秋は松尾山を降り、
大谷吉継が陣取る山中村へと兵を向けるのでありました。