金吾買収合戦-その2-
家康が決戦時期と決戦場所を模索していた丁度その頃。
近江の国・高宮の地に陣を構えていたのが
家康が使者と言う名の監視役を立てた相手先である小早川秀秋。
秀秋は当初。伏見城攻めに参加するなど三成方に与するも
どうも本意であったわけではなかったのか定かではありませんが
伊勢方面へと展開する毛利軍から離脱。
鈴鹿峠を越え、
当地・高宮で時を過ごすのでありました。
この高宮は、石田三成の居城・佐和山からわずか4キロしか離れておらず
三成が秀秋の行動に不信感を抱いたのは当然のこと。
しかし秀秋には1万5千にも及ぶ部隊を擁していたこともあり
おいそれと排除することの出来る勢力では無い。
そこで三成は秀秋に対し一通の誓書を送るのでありました。
高宮の陣所にいる小早川秀秋。
秀秋:「三成からの書状か……。
どうせ上から目線で小難しいことでも書いてあるのだろ……。」
「ん!?」
「……今回は三成だけでなく(安国寺)恵瓊に長束(正家)。
更には小西(行長)に大谷(吉継)殿までも……。」
「いったい何を送りつけて来たのか……。」
「……なになに。
今の領国に播磨を加えたほか
稲葉と平岡にそれぞれ近江において10万石を与えた上。」
「秀頼が15になるまで……。」
「……『私を関白にする。』と申すのか……。」
「……続きがあるぞ……。」
「これに当座の軍資金として黄金300枚を贈りますので
なにとぞ秀頼のため
毛利(輝元)殿(=三成)に御味方して頂きますよう
お願い申し上げます……。」
「かぁあぁぁぁ。」
「あのカタブツがついに私に頭を下げて来たのか!!」
「これは面白い!!」
「家康に媚び諂うことなど止めるとするか!!!」
……とひとり浮かれる秀秋のもとに
冷や水を浴びせるが如く到着したのが。
家臣:「殿(秀秋)!!黒田様からの使いがやってまいりました。」
秀秋:「なんじゃ今頃。ワシは忙しい故、会うことは出来ぬ。
と伝えて置け。」
家臣:「……それが……殿。」
秀秋:「なんじゃ!!」
家臣:「……徳川様の使者も一緒であります。」
秀秋:「何!?急ぎ参る。と申して置け。」
秀秋と対面する家康の使者・奥平貞治。
これより10日前の9月3日。
小早川秀秋が徳川方に内通すべく派遣した使者が
当時家康が居た小田原に辿り着くも
先の伏見城攻めに秀秋が加担したことを怒った家康が対面を拒絶。
諦めきれぬ秀秋は再度使者を派遣。
8日。家康が居る遠江の白須賀に使者は到着。
美濃の情勢に変化が生じたことも手伝ってか
今度は対面が許され、その後。
黒田長政を介し、やりとりを重ねて来た両者でありましたが
家康直属の家臣が秀秋の目の前に現れたのは
このいくさが始まってから初めてのこと。
家康の真意が気になるようでありまして……。
秀秋:「内府殿(家康)はどのようなことを申されておりますか?」
貞治:「(我が主君)家康は秀秋様が伏見城を攻めたことについて。
秀秋様の当時の事情を知り、
仕方のないことであった。
と言うことを既に承知おります。
ですから心配することはありません。」
秀秋:「伏見の件に付きまして、大変申し訳ございませんでした。
私も内府殿の言葉を聞き、安堵しております。」
貞治:「で。今後のことにつきましては
秀秋様の働き次第により、
更なる加増を考えている。
とのことであります。」
秀秋:「了解しました。
とお伝え願えますでしょうか。
本日はありがとうございました。」
(心の中で
「秀頼に代わって私を関白にする。
と言う考えは無いのか……。」
「……とは言え三成も家康も。私の力を頼りにしておる。」
「このまま様子を見て、良い条件のほうを選択するとするか……。」)
と有頂天になる秀秋に対し
貞治:「ところで秀秋様。」
秀秋:「なんでしょうか?」
貞治:「今日私がここに参りましたのには理由があります。」
秀秋:「ん!?なんでありましょうか?」
貞治:「実は家康より秀秋様に対しお願いがございまして。」
秀秋:「私に出来ることなのであれば。」
貞治:「秀秋様。………松尾山に陣取って頂くことは出来ませんでしょうか?」
秀秋:「松尾山には今。伊藤盛正が陣を構えておるが。」
貞治:「えぇ。その松尾山を。秀秋様が……。」
秀秋:「……奪い取れ。と申すのか……。」
貞治:「左様。殿は秀秋様の覚悟を見たい……。」
「……そのように申しております。」
秀秋:(狼狽するのを圧し殺しつつ)
「……軍を動かすにも時間を要す。しばしお待ち願えませぬか。」
と思わぬ指令戸惑う秀秋。
ひとまず奥平貞治と別れた秀秋は
重臣・稲葉正成。平岡頼勝両名を呼び付けるのでありました。