家康大長考-その2-
家康:「黒田長政を呼んで参れ。」
家康は三成方に与した諸将の切り崩し工作を依頼した黒田長政を
赤坂岡山にある家康の本営に呼び寄せるのでありました。
長政:「秀忠殿以下。実働部隊のほとんど全てを
信州に貼り付けての御来陣。
家康殿は余裕が御座いますな。
福島殿も
『内府(家康)殿は我らを信用されている。』
と安堵しておりました。」
家康:「……返す言葉も無いのであるが。
……ところで長政。先に依頼していた件の進捗状況を教えてくれ。」
長政:「今日14日の午後になりまして吉川広家と福原広俊の使者が
両名の身内を人質に我が陣に入って来まして
内容としましては
『此度。輝元が知らぬ間に総大将に祭り上げられてしまったことに対する詫びと
今後、内府殿と三成とが激突した際、
毛利は一切手を出さない。
本来であれば内府殿に御味方することが何よりの誠意である。
と言うことは存じ上げておりますが、
……輝元が大坂の地で人質となってしまっているため叶いませぬ。
身勝手なお願いであることは重々承知しておりますが
なにとぞ毛利家安堵の願い聞き容れて頂きますようお願い申し上げます。』
……と言うモノでありました。」
家康:「……人質に取られてしまっているか……。
このことを輝元は知っているのか?」
長政:「広家曰く
『(安国寺)恵瓊にバレるわけにはいかないため、
輝元の知らないところでやっています。』
と……。」
家康:「……だろうな。
大将が味方に足を引っ張られているわけだからな。
ところで長政。
もしワシと三成が広家の目の前で戦いを始めた場合。
広家はお前に託した文言を貫き通すと思うか?」
長政:「輝元が知らない以上。
戦いの状況に応じ、変更して来るものと思われます。」
家康:「我らが勝っていれば傍観を決め込み。
敗勢となったら我が陣に向け兵を動かすことになる。」
長政:「虫のいい話でありますな。
この件。如何致しましょうか?」
家康:「積極的に動く気は無いのであるから
当面は泳がせて置けば良い。」
と家康は、
徳川家臣・井伊直政、本多忠勝両名に
黒田長政を加えた
輝元の無罪と
毛利の両国を安堵する内容の起請文を認め、
広家の使者に託すのでありました。
家康:「とは言え輝元の指示で無い以上。
広家が心変わりする危険性は残っておるな。」
長政:「となりますと南宮山から一望することの出来る
大垣で三成と相対するのは得策では無い。と……。」
家康:「もっともワシはお前のとこの親父のような特技。
突貫土木を得意とはしておらぬ故。
(大垣は)水攻めに向いている環境にはあるのではあるが。
選択肢には容れておらぬ。」
長政:「不戦を誓っているとは言え
毛利の後詰めが控えてもおりますし。」
家康:「広家もワシが勝つと思っているから。だけだからな。」
長政:「……となりますと三成を城外に引き摺り出す必要が生じて来る。」
家康:「ただ奴は挑発に乗って飛び出して来ることは無い。」
長政:「守らなければならないところが狙われない限り、
リスクを冒すことはあり得ない。」
家康:「しかも毛利が居る南宮山から見えない位置で。
となると……。」
改めて忠勝からの報告を思い起こした家康は……。