隆景・官兵衛「太閤秀吉を語る」
隆景:「ところで官兵衛殿。太閤殿下はそなたを警戒しているそうでありますな。」
官兵衛:「誰がそんなこと言っているのですか?」
隆景:「なんでも官兵衛殿はこれまで数多の功績を残し、
豊臣家の天下統一に貢献して来たにも関わらず
京の都から遠く離れた豊前の国に
蒲生殿などで見られたような
遠隔地手当てすら見当たらない。
わずか12万石しか与えなかったのは
太閤殿下が貴殿の才覚を恐れていたから。
と口々に噂されていると聞いておるぞ。」
官兵衛:「それにつきましては
私はどちらかと言いますと
これまで調略を担当して来たことが多かった故、
最も恩賞に与ることの出来る
敵将の首を挙げて来たわけではないこと。
加えて殿の側近であり、
取り次ぎなどを担うことが多いため
間接的に強い権限を握っている。
そんなモノが
大きな領土。多くの兵士を束ねることが出来るようになった場合。
……先の足利幕府のような
最高権力者の権限が弱くなってしまうばかりか
幕府の屋台骨を揺るがす内紛の原因にもなり兼ねない故。
殿は私に対し、多くの領土を。
……と言っても12万石って
けっして少ない領土では無いと思うのでありますが
与えなかったのでありますし、
領土は九州にありますが、中津のことは息子に任せ。私は
相変わらず殿の居る主に畿内で職務に励んでいます。
同じことは隆景殿にも言えることであると思われますが。」
隆景:「そうであるな。」
官兵衛:「それに……」
隆景:「それに?」
官兵衛:「……多くの大名を束ねて戦地に赴くのは、今回の遠征で懲りました。」
「総大将が別に居るとは言え。現地での調整役の責を負うことになるのは
軍監であった私。
おだてれば必要以上に調子に乗り、叱責すればヘソを曲げる。
そう言う事態に陥ったとしましても
これまでならば
すぐ傍に殿が居りました故、決断を仰ぐことが出来たのでありましたが
今回殿が在陣したのは海の向こう。
有岡ですかね。
以来久しぶりに
……死を覚悟しましたね……。」
隆景:「その点No.2は美味しい役目であろう?」
官兵衛:「左様」
「No.2は大将と異なり、
結果責任を求められない割には目立つ役割でありますし、
たとえ大将を失ったとしましても
王将以外の将棋の駒同様。
就職口さえ見つけることが出来れば
飛車は飛車。
金は金。
で活動することが出来、
たとえ歩であったとしましても
頑張り次第でと金に成ることも可能。
一方、大将は将棋の王と同じく……。」
隆景:「負けたら首を差し出す立場となる。
ただ王以外の駒は、捨て駒にされることはありますけどね……。」
官兵衛:「それに今回。朝鮮で指揮を執り感じたことではありますが
上に立つと
……かえって気を使う相手が増えることになるのですね……。」
隆景:「これまでは殿下を見ていれば良かったものが。」
官兵衛:「左様」
「殿は天下人。天下人であれば
何も気にせず思うがままに過ごすことが出来る。
と思うのが普通ではありますが」
隆景:「太閤殿下自ら庶民に対し、お茶を点てられましたり
経済回すために蔵から金を放出したり」
官兵衛:「日本は中国と異なり、
強い理由は徳があるから。
徳があるモノ(強いモノ)が上に立つことが出来る。
と言う国では必ずしも無いため
足利義昭に屈辱的な扱いを受けることになった。と……」
隆景:「最後はこれも中国と異なり、
系譜を買収することが出来ることを利用し、
藤原の一族になり、
体裁を整えることが出来たのではありましたが。」
官兵衛:「殿の天下。……長く続くのかな?」
このあとも太閤秀吉の話が続きます。