関ヶ原-その8-
黒田長政が福島正則らと共に福島の居城である清州城へ向かう途中。
家康からの使いにより独り江戸に戻されることになった長政。
そんな長政に対し家康は……。
家康:「(低い声で)福島の動きはどうだ?
心変わりして三成と合流するような素振りは見せておらぬか?」
長政:「その件でしたら心配御無用。
正則は御存知の通り、
『これ!!』
と決めたら一直線にひた走る男であることに加え、
正則と三成の仲があのような状況でありますので
間違っても奴(三成)と連携して
三河と尾張の国境で殿(家康)を遮るようなことはしないでしょう。」
「そのための検視役として私と輝政を付けたのでありましょう。」
家康:「それを聞いて安堵した。
なにぶん会津(上杉)や常陸(佐竹)。それに信州(真田)など
江戸周辺に不確定な要素が残っている故。
向こうから攻めて来るようなことは無いとは言え。
空にしておくわけには参らぬ故。
それらに対する策にもう少し時間を掛けねばならぬし。」
長政:「(私を含め)殿に従っている亡き太閤殿下恩顧の諸将の
忠誠心を確かめてもいる……。」
家康:「ただそれだけでは不安な部分があるが故。」
長政:「三成によって近江で足止めされることになった
諸将の切り崩しを模索されてもいる。と……。」
家康:「余程の戦力差でも無い限り、
いくさは睨み合いに時間を費やすことになってしまう。
そうこうしている内に輝元がその気になって
秀頼様を担ぎ出すようなことになっては
『三成憎し』
の連中にしても
鉾を収めざるを得なくなる。
これでは小牧の二の舞となってしまう……。」
長政:「担ぎ出さずとも
無傷の輝元が秀頼様の名を騙って
両者の仲介に入るのは……。」
家康:「不本意極り無い。」
長政:「そうなりますと必要となって来ますのが。」
家康:「武田滅亡の切っ掛けとなった木曽や、
賤ヶ岳における(前田)利家にあたる人物。
彼が叛旗を翻すと同時に相手を自壊に
追い込むことの出来る規模を持つ武将が
上方に居ないものか?と……。」
長政:「理想は毛利なのでありますが。」
家康:「たとえ広家の発言力を持ってしても
総大将が輝元である以上。
三成に兵を向けることは出来ないであろう。
出来て足止めまでだな。
もっとも毛利の狙いはワシと三成との戦いが終わってからを
考えているようにも見えるのであるがな。」
長政:「恵瓊が三成。広家が殿とリスクを分散させることにより、
毛利を守ろうと考えている。と……。」
家康:「広家はそれで良いと思っているのかもしれないが。」
長政:「主君が総大将でありますからね……。」
家康:「奴らをその気にさせぬ内に片付けねばならないな……。」
長政:「島津殿は?」
家康:「(鳥居)元忠が伏見入るのを拒んでしまったからな……。
もっともこれは元忠全滅まで戦う覚悟での籠城である故。
他家の者を巻き込むわけには行かなかったことでもあるが……。
今更誘いの手を伸ばしたところで
話に乗って来ることはないであろうし、
先年起こった家老(伊集院)忠棟誅殺の混乱が続いているため
動員出来る兵力も知れているであろう。」
長政:「仮に殿と内応し、戦場で叛旗を翻したとしても。」
家康:「戦況に影響を及ぼすまでには参らぬであろう……。」
長政:「動員することの出来る戦力が豊富で、
三成に対し恨みを抱き。
かつ裏切り者の誹りを受けても平気……。
もしくはのちのち付いて回ることになる
レッテルを貼られる意味を理解出来ていない人物となりますと……。」
家康:「小牧の時。ワシに煮え湯を飲ました(織田)信雄のような奴は……。」