生殺与奪の権-その9-
官兵衛:「ところで長政。ワシ。中津に帰ることにした。」
長政:「唐突に何を言い出すのでありますか!?」
官兵衛:「家臣と兵は、お前のとこに残しておくから心配するな。」
長政:「ですから急に何を言い出すのでありますか!?
この大事な時に。」
官兵衛:「いや俺は俺で家康から頼まれてることがあってな。
今回はお流れになったが
たぶん次の標的は上杉になることが想定される。
加賀と違い会津は上方から遠方の地にあること。
更に上杉といくさを起こす大義名分が存在しない。
利長の時以上の力技を必要とすることが予想される。
……そうなると利長の時は
『頭下げといたほうが無難なんじゃねぇの。』
と助言した
=利長に味方しなかった連中の中にも
(……家康。ヤバいんじゃねぇの?)
と思うモノが出て来ることも考えられる。
……となると家康が思っても居なかった大名が
敵となって立ちはだかって来ることが出て来るかもしれぬ。
敵の規模が大きくなる。
と言うことは
=コトが治まるまでには
ある一定の月日を要することになる。
長い月日を要することになる
と言うことは
この混乱に乗じ、
旧領の回復を考えるモノ。
領国の拡大を目論むモノ。
領主が本国に居ないことを良いことに
家臣が主君の土地を乗っ取るモノ
などが現れることが考えられる。
そのような事態になった時のために
家康はワシに対し、
中津に戻ることを要請された次第でも。」
長政:「しかし家臣が私のところに残るのでは
たとえ父上の能力を持ってしましても
敵を撃退するのは難しいと思われるのでありますが。」
官兵衛:「兵は居なくとも中津には兵を雇う原資が貯えられている。
これまでケチの誹りを受けようとも蓄財に蓄財を積み重ねて来たのは
いざ。
と言う時のためであって。
自分が贅沢するためのモノでは無い。
それをしたから亡き殿は天下人となられ。
しなかった佐久間信盛は
亡き信長様より放逐の憂き目に遭ったのだ。」
「上方で何か事が起こったとしても
すぐ情報が入るよう
早舟を残しておく。
これはお前が家康と行動を共にする時も
大坂に残しておいてくれ。それに……。」
長政:「なんでしょうか?」
官兵衛:「お前が家康に付き、留守にしている間。上方で挙兵した連中に巻き込まれ、
お前と相対すことは避けねばならぬし、
もっと言うならば
有岡の時みたく
……1年も牢に放り込まれたくわないからな。」
長政:「あれはあなたが出しゃばって
荒木村重を説得するとか言い出すからいけないんですよ。
それが原因で私は一度。死んだ扱いにされているのでありますからね。」
「間違っても三成を説得するとか言わないで下さいよ!!」
官兵衛:「村重の時は、当時の主君が信長様を裏切って村重に付いて行く。
とか言うから
そうせざるを得なかったことは
……言い訳させとくれ。
もっとも三成を説得する気は毛頭ないし、
むしろあいつのほうが正しいことを言うことになるからな……。」
長政:「無理強いする以上。勝ち切るしかありませんね。」
官兵衛:「それと家康の要請とは別に
ワシが危惧していることがあってな。
それもあるから中津に戻ることにしたのであるが……。
長政。チョッと……。」
(耳打ちされた長政は)
長政:「……宜しいのでありますか?」
官兵衛:「たぶんこれは家康も想定していないことかと思われる。
無いに越したことは無いが。
もしそうなった時のための準備はして置かねばならぬ。
加えて
もし彼が敵となる。
と言うことはつまり
勝った暁には、より多くの利益を得ることが出来ることを意味している。
逆に負けた時は、その損失がより大きなモノとなることを意味している。
故に勝ち切らなければならぬ。
そこでキーとなるのが……。」