生殺与奪の権-その7-
長政:「ともあれ利家殿が亡くなり。
三成が中央政界から去ったことに伴い、
正面切って家康に対抗する人物は居なくなりましたな。」
官兵衛:「……一歩間違えたら
知らぬ間に私も連座させられる
ハメに遭った危険性があったのではあるが……。
それはともかく名誉回復おめでとう。」
長政:「亡き太閤殿下より叱責されました唐入りにおける行い。
……そうせざるを得なかった。
……と言うことは現地にいるものであれば
わかることなのではありましたが。」
官兵衛:「亡き殿(秀吉)命の面々にとっては。
と言うかそのプランを立てたモノからすれば
戦線の縮小案が通る
=頓挫した案を立案したモノが
逆に叱責される立場に追い込まれる訳であるし。」
長政:「そのプランニングしたモノと。」
官兵衛:「亡き殿に戦況を報告するモノが同じ人物であったことが。」
長政:「亡き太閤殿下恩顧の諸将を分断する原因の1つとなってしまった。と……。
逆に私からしますと。
これがあったから
吹っ切ることが出来たのではありましたが。」
官兵衛:「今回。お前や蜂須賀殿などの名誉の回復に尽力したのが。」
長政:「徳川家康。」
官兵衛:「まるで三成が亡き殿を使って行った陰謀を
家康が救ったみたいなことになっているな。」
長政:「ただ家康としては
まだ豊臣家中における筆頭家臣に躍り出た段階でありますので。」
官兵衛:「ここで収束してしまっては面白くない。」
長政:「で。次に出た策が。」
官兵衛:「残りの大老を全て国元へ帰したわけだな。」
長政:「残りの大老にとっては
別段トップを狙っているわけでは無く、
今の地位を維持するだけのお墨付きがあれば良いわけでありますので。」
官兵衛:「大内義興の時みたく。
畿内で無為な時を過ごしている内に
尼子の膨張や安芸武田の離反により
本国を危うくするようなことはしたくないからな……。」
長政:「ただそのお墨付きを与える実権を握ることになったのが。」
官兵衛:「一番厄介な人物ではあるのだけれどな。
さて家康はどう動くか?」
長政:「毛利殿や薩摩の島津殿に対しては良好な関係を結んでいる模様。」
官兵衛:「仮に『いくさ』を念頭に置いているのであれば。
本国関東からの兵站が困難となることが予想される。
しかも一度畿内を通過することは避けたいであろうし。」
長政:「佐和山を通過することになりますからね。」
官兵衛:「そのために奴を生かしたわけであるのだからな。」
長政:「岡山辺りを行軍中に畿内で三成が兵を挙げようものなら……。」
官兵衛:「兵站を断たれた家康は。」
長政:「飢餓地獄に追い込まれたところで。」
官兵衛:「毛利と三成の挟み撃ちに遭い。」
長政:「……となってしまいますので。
西国の大名を相手にすることは考え難いと思われます。」
官兵衛:「……となると家康の狙い目は……。」