生殺与奪の権-その5-
官兵衛:「(前田)利家は息子に遺言のようなモノを残しているようだが……。」
長政:「太閤殿下が亡くなられてからの家康の動向が遺命に反している。
故に今から家康のところに詰問に行き、決裂したら家康を斬る。
もし利家が斬られた場合は弔い合戦をするように……。」
官兵衛:「その時は予想以上の敵を前に家康が逡巡し、事なきを得たのではあったが。」
長政:「今度は利家殿自身の激務が祟り、床に臥すことが多くなった。」
官兵衛:「その原因を作ったのも家康の専横同様。」
長政:「太閤殿下であるのは皮肉なことではありますが。」
官兵衛:「見舞いに来た家康に一太刀浴びせてくれよう。
と寝床に刀を隠し持っていたそうなのではあるが。」
長政:「実際に使うことが出来る元気がありましたら
大坂城に出仕されていることでありましょうし。」
官兵衛:「そもそも遺言など作りはしないわな。」
「で。いよいよ寿命を悟った利家が息子・利長に遺した言葉が。」
長政:「3年は上方を離れず、家康を監視するように。」
官兵衛:「お前が利長の立場だったらどう思う?」
長政:「迷惑極まりない話でありますね。」
官兵衛:「今の収入で満足しているモノが。
不満を抱き、実力行使に訴え出ている。
それも自分以上に力のある人物と喧嘩する理由なんかないからな。」
長政:「しかも利長殿の場合。」
官兵衛:「矢面に立たされる立場になるのだからな……。」
長政:「尾張時代から太閤殿下と仲の良かった利家殿ならいざ知らず。」
官兵衛:「もしワシがお前に同様のことを遺したらどうする?」
長政:「その場で焼き捨てますね。」
官兵衛:「ところであれから家康の動きはどうである?」
長政:「表向きは静かになってはいますけれども。
これは父上にも言わないほうが良いのかな……。」
「……言える範囲のことですと、
先の徳川邸前田邸に分かれた時、
前田邸に馳せ参じたモノの中に
利家殿であるから。
と言うモノのほうが多く、
もし利家殿の身に何か……
となりました場合。」
官兵衛:「秀頼様の……。
と言うより
自身の立場を保障してくれるのであれば。」
長政:「……と考えているモノが居ること。更に言いますと」
官兵衛:「前田利家を焚きつける形になっている人物の1人と。」
長政:「必ずしも良い関係に無いモノが居ること。」
官兵衛:「あいつは大名よりも
重臣と良好な関係を結ぶことが多いからな……。」
長政:「重臣と殿下との関係性が深まれば深まる程。」
官兵衛:「トップは面白くないからな……。」
長政:「……その辺りから何人か見繕って、家康殿サイドに引き込んだモノは存在します。」
官兵衛:「あとは家康の判断次第で。
……その1つのキッカケとなるのが。」
長政:「……まだ言わないでおきましょう。」