隆景の死・太閤の死-その5-
(三度官兵衛の独り言)
官兵衛:「毛利に巻き込まれるのは嫌であるからと言って
私も殿・秀吉から警戒され、10万石そこそこの取り分であるため
単独行動出来る程の国力を有してはおらぬし、
そもそも天下を望んでなど居ない。
某かのお墨付きなしには生き残ることが出来ぬことは重々承知して居る。
ただその拠り所となるべき秀吉の寿命が今。尽きようとし、
遺されることとなる秀頼様は未だ幼子故。頼りにすることは出来ぬし、
頼りにされても困ってしまう。
だからと言って実質的な上司にあたる毛利家の当主がアレなため、
全てを委ねるわけには参らぬ。
加えて毛利家と豊臣家を繋ぐパイプ役を担っている(安国寺)恵瓊は
(石田)三成と仲が良い。」
「三成と仲が良い。
と言うことは
三成との関係が悪化の一途を辿っている我が息子・長政と
恵瓊のとの折り合いもうまくいかなくなることを意味している。
その折り合いの悪くなった恵瓊の意見に翻弄されているのが
毛利輝元。
であることを思えば
その毛利が天下を掌握する戦いに討って出た時、
長政が毛利の傘下に入って行動することなどあり得ない。」
「その時私が採るべき行動は……。」
「家名存続を第一に考え
私は毛利方。長政は相手方に参陣するのが選択肢の1つ。
これは家名を維持することを考えれば間違った行動では無い。
間違ってはおらぬが
どちらが勝ったとしても
私か長政かのどちらかを失うこととなる。
当然、家中も割れることになるため
残された側の領国運営に支障を来す危険性がある。
もっと言えば
私も輝元の側には付きたくは無い。
輝元が勝ったところで
彼が国を治めることが出来るだけの才覚を有しているわけではないのだから。」
「……ならば。」
「負ければどうせ命を失うことになることに変わりは無いのであるのだから
三成と対立する長政と行動を共にしたほうが
賭けたモノが大きい分。
得るものも多くなるであろう。
ただし現在。長政が頼るべき傘が無い。
このままではいづれ長政は三成との政争に巻き込まれ、
後ろ盾の無い長政は……。」
「……そうならぬためにも
次の天下を掌握する人物に近づく必要がある。
殿・秀吉とも縁の深い
宇喜多殿が天下を握るのであれば
豊臣家中。
それ程大きな混乱も無く治まるのではあるが
彼にしても石高は50万石そこそこ。
大老格の中では最も少ない勢力であるため、
宇喜多殿単独で政権を担うことは出来ぬ。
ほかに担ぐ神輿が必要となる。」
「単独で。
となると……
1人は前田様。
ただ彼が持っている最大の武器が
戦線離脱であることを思えば
一戦交えるだけの覚悟があるのか?
となると疑問符が付く。」
「上杉殿については会津と言う場所が良くない。
彼が動こうとすると
その背後に控えている
露骨に天下を狙っている御仁が居るため
国元を留守にして京に詰め続けることは出来ない。」
「……と。これだけであるのならば
決め手が無いため秀頼様のもと
となるのであるが……。」
「独り殿が手を付けることが出来なかった人物が関東にいる。」