隆景の死・太閤の死-その4-
(官兵衛の独り言続き)
官兵衛:「殿・秀吉後。
秀頼様の後見人となり得る。
正しくは秀頼様の生殺与奪の権を握ることになるであろう人物は。」
……残念ながら殿恩顧の大名には存在しない。
信長様亡きあとの殿のような人物が生まれることを恐れた殿・秀吉は、
彼ら子飼いの武将に対し
大きな権限を与えることは無かった……。
結果。殿子飼いの人物から秀頼様を蔑ろすることが出来るだけの
力を持ったモノが出て来なかったことは
……成功したと言えば成功したと言える。」
「ただ決め手に欠ける人物のみが残されたことよって
今後生じることになるであろう
未だ幼い秀頼様を支えることの出来るモノ。
外部から豊臣家を脅かす人物を
独力で追い払うことの出来るモノが存在しないことも意味している。
……となると秀頼様の名のもと
恩顧の諸将が一枚岩にならなければならないのであるが
二度の唐入りによる意見の食い違いに対し、
殿が片側の考えのみを採用し続けた結果。
取り返しのつかない対立関係が生じることとなった。」
「今、殿・秀吉と言うタガが外された時。
彼らはどのような行動を採ることになるのであろうか。」
「自分独りでは何もすることが出来ない以上。
徒党を組む必要に迫られることになる。
徒党を組んだ彼らが次に移す行動は
自らを正当化するため
徒党を組む要因となった相手側を攻撃することになる。
秀頼様を御守りするには相手側は邪魔者になるから。と……。」
「ただし彼らが徒党を組んだところで
相手側を打倒するだけの力は存在しない。
終わりなき政争が豊臣内部で続くことになる。」
「そこで登場するのが
善意の第三者の顔をして仲介に入ることとなる。」
「外様の大老衆。」
「それなりの領地と
プライドを傷つけることさえしなければ問題無い。
そのプライドを傷つけたことが
亡き信長様の天下統一事業の大きな障害となったから。
とこれまでたとえ対立したとしても
本貫地には手を加えず。
仮に転封となったとしても色を付けたり、
大老
と言う最高意思決定機関に選出するなどすることにより、
戦国の世を終わらせることに殿は成功したのでありましたが。」
「それはあくまで殿であったから出来たこと。」
「これがモノ言わぬ秀頼様の代になった瞬間。
彼ら外様の大老衆は殿の時のように
素直に従うことになるのであろうか……。」
「……いや。そうはならないであろう。」
「信長様恩顧の殿ですら
信長様の遺児を政争の具に使ったのであるのだから。」
「ましてや外様衆は。となると……。」
「そんな中。豊臣家中が内輪揉めを始めている……。」
「彼ら豊臣家中の中で
豊臣家をまとめあげることの出来る人物は存在しないとなると……。」
「豊臣家中の中から外様の大大名を利用しようとする者。
豊臣家中を利用して秀頼様の後見人としての地位を得ようと考える
外様の大大名とが手を結び……。」
「殿は秀次粛清後。
東側の諸大名には徳川殿。
西側の諸大名には毛利殿。
と色分けして来たところがある。」
「そうなると中津に居るワシと長政は
毛利殿の管轄下にあることになる。
果たして毛利殿は殿が亡くなられたあと
どのような動きを見せることになるのか……。」
「輝元様に天下を狙う気持ちは無い。
せいぜいかつて下向して来た将軍候補を奉じ、
山口から上洛した大内義興のように
後見人となるのが関の山。
豊臣家中の者からすると利用し易い相手ではあるが
如何せん。輝元に天下を動かす気概が無いため、
戦いとなった時。
思わぬ足枷になる恐れがある。」
「そのことを心配した隆景殿は生前。輝元に対し、
天下には関わるな。
と再三再四釘を刺し続けたのではあるが……。」
「なまじ力があることが……。」
「殿もその力を恐れ、
金吾を毛利家に送り込もうとするなど画策したのではあるが。
隆景殿の尽力もあり回避。
その代償と失うことになったのが
毛利を支える1つの翼である小早川家。
隆景殿が亡くなられたことに伴い、
金吾は越前に移されることになった。」
「その小早川の役目である
豊臣家との折衝を今、担っているのが(安国寺)恵瓊。
このまま豊臣の天下が安泰であるのであれば
問題無いのではあるが。」
「もし秀頼様を巡る主導権争いに毛利が巻き込まれることになった時、
恵瓊は毛利のために動くことになるのであろうか?
それとも昵懇の仲にある(石田)三成の要請のために
毛利を使うことになるのであろうか?」
「そしてその戦いに毛利は勝ち切ることが出来るのであろうか?」
「毛利も一枚岩ではない。
毛利家の中には、吉川広家と言う重鎮が居る。
彼は父・元春殿からの伝統として
豊臣家とは一線を画す立ち位置を貫き通している。
そのこともあってか恵瓊とは仲が悪い。
隆景殿に対しても考えかたに違いはあったかもしれぬが
それはあくまで役割分担が異なっただけのことに加え
吉川と小早川は毛利の一族。
であるのに対し、
残念なことに恵瓊と広家は縁戚関係には無い。」
「役割分担の違いが
決定的な対立へと発展し、
気付いた時には輝元が後戻りすることの出来ない状況に追い込まれる危険性がある。」
「毛利がそうなるだけならそれでもよい。」
「……がそれに黒田が巻き込まれることは勘弁願いたいモノである……。」