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隆景の死・太閤の死

文禄5(1596)年9月。

太閤秀吉に降伏した。

と太閤秀吉のみが思っていた明からの使者が

これまた太閤秀吉は降伏したモノと判断し、

それに対する裁定を持って来日。

対面の場で初めて自身の要求が

全く持って通っていないことを知り驚愕した太閤秀吉は激怒。

使者を追い返した上、再度の唐入りを果たすべく

西国諸将に軍役を命じるのでありました。

そんなある日のこと。


隆景:「よう!軍監!!今日は如何為された。」

官兵衛:「如何も何も無いでしょう。

     また海を渉る破目に遭いまして……。」

隆景:「しかも今度は。」

官兵衛:「これと言った目的が何も無い。」

隆景:「朝鮮南部沿岸地域を占拠するのが目的と聞いておるが?」

官兵衛:「そこを抑えて何をするのでありますか?」

隆景:「10年計画でじっくり唐へと領土を拡げるのでは無いのか?」

官兵衛:「殿の齢を考えてください。

     誰があとを引き継ぐのでありますか?」

隆景:「跡取りが居るではないか?」

官兵衛:「それこそ年齢を考えてください。

     秀頼様が出来ることと言えば

     せいぜい地震で崩れたハリボテを再興することを考えるぐらいが

     関の山でありましょう。

     今回は殿が怒りに任せての派兵でありますので。

     本当に何も無いいくさに巻き込まれることになりましたよ。」

隆景:「で。大将は?」

官兵衛:「お宅の息子さんじゃないですか。

     なにか他人事のようでありますね。」

隆景:「実際。他人ではあるわけであるし、

    ……まぁ毛利の人間では無い秀秋では

    輝元を制御することは

    たとえ能力があったとしても叶わぬことであるわけではあるし……。」

官兵衛:「むしろ。」

隆景:「豊臣の血筋である彼を担いで秀頼様と相対すようなことぐらいしか。」

官兵衛:「利用価値は残されていない。」

隆景:「かと言って金吾を毛利家の総帥にでもしようものなら。」

官兵衛:「毛利古参と豊臣から派遣された家臣との間で諍いが生じ。」

隆景:「今頃は10万石程度の小大名に押し込められていたことであろうな……。

    まぁ今の小早川は元々が5、6万石クラスである故。

    仮に今そうなったとしても

    10万石ならむしろ増えたことになるので

    怖がることでもないからな……。」

官兵衛:「輝元様の時同様。

     隆景殿の教育に問題があったのではないのですか?」

隆景:「輝元については、確かに厳しく接し過ぎたところは否定せぬが、

    少なくとも金吾についてはタッチしてはおらぬし、

    彼(金吾)自身が婿養子と言うこともあってか。

    (輝元とは違い)

    金吾から見たら外様衆にあたる

    私の家臣を粗略に扱うことはしてはおらぬぞ。

    バッドとワーストの差でしか無いのかもしれないが……。

    ところで官兵衛。」

官兵衛:「なんでしょうか。」

隆景:「私の齢も太閤殿下のことを

    とやかく言うことの出来ないところに差し掛かり、

    と言うか私のほうが殿下よりも年上なのであるが。

    加えて今回、官兵衛殿が渡海されることを思うと

    次があるかどうか定かではない故。

    伝えておきたいことがある。」

官兵衛:「聞きましょう。」

隆景:「そなたの嫡男である長政殿についてである。

    彼はそなたとは異なり結論を急がぬところがある。

    そこは良い点である。

    ただ熟慮に掛ける時間が長過ぎるため

    時機を失してしまうきらいもある。

    そこは悪い点である。

    今後訪れることになるであろう

    太閤殿下亡きあとの世。

    次の覇権を狙うモノが現れることになるかも知れぬ。

    それが誰であるのかは定かではない。

    長政殿のお父上かもしれぬし、

    誰も現れないのかもしれない。

    その時、熟慮に時間を掛け過ぎたことが

    優柔不断とみなされ、

    黒田家を不利な立場に追い込まれることになるかも知れぬ。

    それでは大将は務まらぬ。

    同じことは輝元にも言えることなのではあるが。

    もっともあれは考えも無しに巻き込まれてしまっているのが哀しいところではある。

    幸いにして長政殿には能力がある。

    それを遅滞と判断されるのでは勿体ない。

    二者択一を迫られた時は

    どちらか一方に賭けよ。

    どちらか一方に賭ければ全てを失う危険性もあるが

    勝てば賭けただけの報いを得ることも出来る。

    これが日和見な態度を取ろうものなら

    よくて現状維持。

    普通で減封。

    最悪の場合。全てを失うこととなる。

    負ければ全てを失うことになることについて

    変わりが無いのであれば

    どちらか一方に張ったほうが

    悔いを残すことも無いであろうし、

    勝ち馬を見誤るような長政殿では無い。」

   「……ただそうなると

    ……毛利はズタズタに切り裂かれることになるのかもしれぬがな……。」

官兵衛:「そのまま伝えても宜しいのですか?」

隆景:「1つだけ付け加えさせてくれ。」

官兵衛:「なんでしょうか?」

隆景:「(吉川)広家を頼む。」

   「それが毛利を守ることにもなるのであるから。」

   「広家を頼む。」

官兵衛:「金吾殿につきましては。」

隆景:「彼は良いように使われに使われたのち

    棄てられることになる。

    ……羽柴にならず木下の人間であり続けていたら

    また違った運命であったと思われるが。

    こればかりはあがなうことの出来ぬ定めである。」

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