隆景隠居-その2-
隆景:「ところで官兵衛。お前のところの土建屋の大将……。
もとい。
太閤殿下は輝元のことをどのように評価されているのか?」
官兵衛:「殿・秀吉が今の地位にあるのは備中高松において和議を結んだ直後。
本能寺で信長が討たれたことを知ったにも関わらず
輝元様が約条を違えなかった。
ある種。命の恩人でもありますので。
この辺りの恩義をうっちゃるような殿ではありませんので。
今後も殿が毛利家を蔑ろにするようなことは無いと思われます。」
隆景:「だからと言って大きな顔をされ続けるのも面白くないから。」
官兵衛:「他の大名同様。家中の重要人物を引き抜くことによって
豊臣家の天下が脅かされる存在とならぬよう働き掛けは続けています。」
隆景:「最終的には。」
官兵衛:「殿の身内たる金吾殿を毛利本家に送り込むことが出来なかった以上。
丹羽様のように毛利家の勢力を細かく切り刻んでしまおう。
輝元様が亡くなられたあとに。」
隆景:「ただ亡くなる順番を考えると。」
官兵衛:「殿は拾(秀頼)様のことを思い、
輝元様に後事のことを託さざるを得なくなると考えられます。」
隆景:「で。官兵衛は輝元をどのように評価している?」
官兵衛:「そうですね……。」
「風林火山で言うところの……。」
「……『山』になりますか……。」
隆景:「官兵衛がこれまで見て来た人物で捜すとなると。」
官兵衛:「……朝倉義景になりますかね……。」
隆景:「領内が安定し、外から侵攻して来る勢力が無い時代であれば。」
官兵衛:「諸事家臣に任せ、本人は『大義』の一言を述べて居れば良いのではありますが。」
隆景:「こと大きな決断を下さなければならないような重要案件に接した時。」
官兵衛:「家臣任せにして来たことが自らの首を絞める危険性も秘めている。」
隆景:「ここでたとえ大将自らが前線に赴けば
家臣の士気も高まる場面であったとしても。」
官兵衛:「冬が近付いているから。
と、雪が降る前に国元へ帰ったりなんぞを繰り返していく内に。」
隆景:「家臣に見限られ。」
官兵衛:「殿・秀吉が元気な内は、そのようなことにはならないと思われますが。」
隆景:「仮にそうなったとした場合。」
官兵衛:「ヒトは急に変わるわけではありませんので。
輝元様は今のままでありましょう。
そこで重要となって来ますのが。」
隆景:「毛利家家臣。」
官兵衛:「これも隆景殿が元気であれば問題無いことなのではありますが。」
隆景:「太閤殿下と私は同年代であることを考えると……。」
官兵衛:「毛利家の次を担う家臣。
それも輝元様を動かすことの出来る家臣を育てる必要がありますね。」
隆景:「その人物を毛利家中から捜すとなると……。」