隆景隠居
官兵衛:「隠居するんだよね。」
隆景:「個人的には、弟の秀包を一度。養子に迎えた時点で
とうの昔に隠居していたハズなのだが。」
官兵衛:「殿・秀吉が隆景殿の才を惜しんでそれを認めてはくれなかった。」
隆景:「幸いにして……幸い!?
今回、金吾が秀次の煽りを受け、
本貫地である丹波亀山を失い路頭に迷ってしまった。と……。
それでも金吾は今。小早川の人間である故。
(金吾用に)誰かの領地を削り取ることが無い形での復権となると
私が身を退くことが自然な流れではあると考え、
殿下にその旨言上したのでありましたが。」
官兵衛:「名島から離れることは出来ないんだよね。」
隆景:「金吾は金吾の家臣がいるから
本当ならば私は全く別の場所。
出来れば元々の本貫地である三原に隠居して
どうしようもない輝元が余分なことを仕出かさなくとも良いよう
固めておく必要があるのであるが。」
官兵衛:「殿はそれを許そうとはせず。」
隆景:「博多の街を金吾に委ねることが出来ないことは承知しているのではあるが。」
官兵衛:「隠居人には破格とも言える5万石で召抱えられることとなった。」
隆景:「私と金吾それぞれの家臣同士の揉め事や
私の家臣の新たな士官先を確保する労苦を
回避することが出来たことは良いことなのではあるが。」
官兵衛:「最も心配している毛利家の行く末に関与することは出来なくなってしまった。」
隆景:「殿下が神経を注がなければならない相手は
毛利や上杉では無いように思うのではあるが……。」
官兵衛:「ところで金吾殿はどうされています?」
隆景:「自分のことを(同じ九州に流された)
菅原道真に例えているらしいぞ……。」
官兵衛:「生きながらにして呪っているのですか?」
隆景:「それで殿下は大仏を造られたのかな……。」
官兵衛:「……いや。あれは市中の活気を取り戻すべく行った
国直轄事業であると聞いておりますが。」
隆景:「正しくは一度市中に大量のカネをばら撒いて、
換金生活に染まらせておいてから
高利貸しを配置。
その高利貸しから借りたカネの返済に困った民が社会不安の要因となっているため。」
官兵衛:「働く場を提供した。と……。」
隆景:「でもお前のところの殿は、公共事業が好きだよな。」
官兵衛:「仕方ないでしょう。
コメを作ることが出来ない尾張の出の殿でありますから。」
隆景:「あそこは雨が降るたびに水が浸かるからな……。」
官兵衛:「水に浸かっても大丈夫な作物しか植えることが出来ませんので
そうなりますとコメは選択肢から除外され。」
隆景:「代わりに植えた作物だけでは生活出来ないため。」
官兵衛:「コメを買うために、その作物をお金に換えなければならなくなる。」
隆景:「その作物も作物のままでは二束三文で買い叩かれてしまうので。」
官兵衛:「自分の言い値で売ることが出来るよう加工を施す技術が登場する。」
隆景:「技術があって加工することが出来ても、
それだけではお金に換えることが出来ないので。」
官兵衛:「重要となって来るのが営業。」
隆景:「出来たモノを大きな市場のある京に運ぶルートの確保と、
雨が降るたびに命と財産を脅かされ続けるのは面白くないから。」
官兵衛:「と、鍛えられたのが建築土木に長けた面々。」
隆景:「その全てを体現しているのが。」
官兵衛:「我が殿である豊臣秀吉。」
隆景:「(秀吉と同じ一族の)金吾にその素地は無いな……。」
官兵衛:「そもそも育って来た環境が違いますからね……。」
隆景:「金吾については、
私の寿命が尽きるなど環境に変化が見られれば
石高は少なくなるが
10万石前後で畿内に移されることになると思うのであるが。」
官兵衛:「心配なのは。」
隆景:「……実家だよな……。」