太閤秀吉の命数-その6-
隆景:「殿下はここ数年。
長年に渡り対立関係にあった大名同士の間を取り持つ機会を設けられておる。」
官兵衛:「政宗が加藤・上杉・佐竹に対し、
煮えたぎる湯を飲ませ。
殿下を大喜びさせたあの茶会の席のことですか?」
隆景:「あいつらが仲良くなることは末代まで無いから
そのこと自体は気にするまでも無いことなのではあるが。
気になっているのは次のこと。」
「外様と譜代との関係。
特に徳川と池田。
厳密に言うと池田家自体は、殿下と元同僚関係であったのだが。
の間に関することである。」
官兵衛:「殿と徳川殿が小牧で相対した時、
秀次の軽挙を殿が承認してしまったため
池田殿のお父上と兄上を失うことになってしまったあのいくさ。」
隆景:「その後。徳川殿は殿下に臣従されたため、
表立って徳川と池田が刃を交える機会は無くなったのではあるが。」
官兵衛:「だからと言って関係が修復するわけではない。」
隆景:「そのことを心配された殿下が
徳川殿の娘を池田殿に嫁がせる。
縁戚関係を持たせることにより、
積年のわだかまりを解消しよう。と……。」
官兵衛:「それで関係が修復されたばかりか。
徳川と池田の仲が強固なものとなった。と……。」
隆景:「で。今、太閤殿下の身に何かあった場合。
徳川殿が拾様を我がものとすべく兵を挙げたとする。
その場合。東海道筋の吉田に居を構える池田殿は
どのような行動を採ることになるのであろうか?」
「これが東国全体を管轄していた
池田殿の直接の上司にあたる
秀次が関白であったのであれば、
仮に徳川が行動を起こそうとしたとしても
間に入るなどすることも出来るのかもしれぬが。
その上司も今は亡く。
西国に残るのは
その上司殺害の因を作り、
上司の正室であった実の娘を失う危機に晒された幼君・拾(秀頼)様のみ。」
「一方、東国に目を転じると
妻を娶って以来。何かと目を掛けてくれる義父・徳川家康が
大勢力を持って西国を伺おうとしている。
さてこの時。池田殿が採る行動は?」
官兵衛:「それに対し、譜代同士の関係はどのようなモノであるのか?
と言いますと。」
隆景:「唐入り以来。ギスギスとしたものが見受けられるように感じることしばし。
のように感じておるが?」
官兵衛:「領土の拡張が続いていた頃であれば
活躍したら活躍しただけ恩賞に与ることが出来たので。
多少の身勝手も結果オーライで赦されたのではありましたが。
国内では既に捻出出来る土地も無く。
新たなフロンティアを求め唐入りするも。
得るものは無く撤退。」
隆景:「それでも活躍したモノに対し、
何とか土地を捻出すべく殿下が採っている政策が。」
官兵衛:「元同僚の代替わりの際。
そなたでは扱いきれぬ故。
と難癖を付け、
領地の縮小と重臣のヘッドハンティングを行い。」
隆景:「そこで出来た土地を殿下恩顧の諸将に分け与えることにする。」
官兵衛:「ただその論功行賞に対し。」
隆景:「エコ贔屓をしているのでは?と感じている殿下恩顧の武将も存在する。」
官兵衛:「そんな中、巻き起こったのが。」
隆景:「長年。殿下の天下統一のため
苦楽を共にしてきた福島・加藤らと同年代にあたる関白・秀次の粛清。」
官兵衛:「その原因となったのが。」
隆景:「拾様の誕生。」
官兵衛:「そんな中。
指揮下に収まることの多かった外様の大大名が挙兵。」
隆景:「拾様は幼子のため。
表立って諸将に対し、参陣を促すことになるのが。」
官兵衛:「拾様の御母上である淀殿。」
隆景:「彼女が北条政子になることは出来るのであろうか?」
官兵衛:「(殿下の命令であったから
理不尽な秀次粛清には従ったけれども)
殿下が居ないのであれば
淀殿がどんな演説をしたところで
恩顧の諸将が従うことは無いでしょうね……。」
隆景:「官兵衛は殿下をどう見ておる?」