太閤秀吉の命数-その4-
官兵衛:「ところで隆景殿。
もし今殿が亡くなられ、秀次が関白であった場合。
豊臣家はどのようになっていたでありましょうか?」
隆景:「此度の秀次排斥の際。でっち上げであることは承知しているとは言え。
上司の言うことに対し、忠実に実行に移したり、
どんな理不尽な仕打ちであろうとも罰則を受け入れたことからもわかるように
太閤殿下恩顧の諸将が
太閤殿下が亡くなったから即。
豊臣家を見限ることは無いと思う。
そのため殿下に対する忠節がそのまま秀次に移行することになっていたとは思う。
ただし……。」
官兵衛:「ただし?」
隆景:「秀次に対する忠節は、あくまで太閤殿下に対する忠節であって、
秀次自身に対する忠節では必ずしも無い。」
官兵衛:「秀次に対する忠節の担保となるモノは?」
隆景:「いづれ全ての権限は太閤殿下の実子・拾様へ移行することになる。
その移行されるまでの繋ぎの役目を担う立場に秀次がある。
と言うことが確定しているから。であって……。」
官兵衛:「もしそうならなかったとしたら?」
隆景:「今の秀次の勢力では、彼らを封じ込めるだけの武力を有していないこともあり、
いづれ秀次排斥の動きが高まることは容易に想像することが出来る。」
官兵衛:「それを防ぐ手立てとして。」
隆景:「あくまで拾様の後見人の立場として
関白の地位にあるのでありまして
拾様が元服された暁には
全ての権限を拾様にお渡ししまして
私・秀次は引退する所存であります。と……。」
官兵衛:「律儀者を貫き通すことになる。」
隆景:「それから10年の月日が流れ。」
官兵衛:「拾様が元服されたのち。」
隆景:「秀次にとっては赤の他人同然の拾様に権限を譲ることは無く。」
官兵衛:「権力の座に居座り続けることになる。」
隆景:「なぜなら。」
官兵衛:「拾様が関白に就任すると同時に、秀次が用済み。
と見なされることがわかっているから。」
隆景:「更に言えば、秀次排斥時に生まれた
太閤殿下と恩顧の諸将とのしこりが。」
官兵衛:「しこりの生む原因となった
秀次が排斥されなかったことにより。」
隆景:「こと拾様支持に関しては、秀吉恩顧の諸将は一枚岩であるため。」
官兵衛:「皮肉にも譜代の諸将を秀次陣営に引き込むことが出来ず。」
隆景:「隠居しろ。の圧力に対抗するべく。」
官兵衛:「自前の軍を持たぬ秀次は。」
隆景:「外様の大名に助けを求めることになる。」
官兵衛:「外様の大名が豊臣政権に介入することにより。」
隆景:「太閤殿下のカリスマで持っていた豊臣家の影響力が低下し。」
官兵衛:「漁夫の利を得る外様大名が現れることになる。」
隆景:「遅かれ早かれそのような時期を迎えることになった。
のかもしれませんな……。」
官兵衛:「(秀次は)太閤殿下と血が繋がっているわけではありませんからね……。」
隆景:「そんな豊臣体制にあって、
豊臣家外の立場から見て、殿下の動きの中で不思議な点があってな……。」