隆景・官兵衛「関白秀次を語る」
隆景より関白秀次の近況について尋ねられた官兵衛の言葉より話は再開します。
官兵衛:「秀次様でありますか。
表向きは殿と良好な関係を維持していますよ。」
隆景:「そうせざるを得ないわな……。」
官兵衛:「左様」
「秀次様の家臣団自体が殿から派遣された目付け役で構成されている上、
関白である理由は殿が任命したからの1つだけ。
更にその殿ですら権力を握る裏付けとなるモノは
父祖伝来などと言うモノは存在せず。
殿自らの実績のみ。
でありますからね……。」
隆景:「そう言う事情もありましてか。
これまでは各大名に対し
殿下の本宅たる伏見では無く、
関白殿の聚楽第に屋敷を構えるよう
殿下も配慮していたのでありましたが。」
官兵衛:「ここに来て、実の息子がお生まれになられ。」
隆景:「伏見にも屋敷を建てるよう命令が下された。」
官兵衛:「鶴松様が夭逝され無ければ
秀次様も
豊臣家の一族として
石高は多く無くとも
安定した暮らしを営むことが出来たのでありましたが。」
隆景:「その鶴松様が亡くなられ。」
官兵衛:「殿下もお歳でありますので。
後継者を定めないことには。
と白羽の矢が立てられたまでは良かったのでありましたが。」
隆景:「拾(秀頼)様がお生まれになられてしまった。と……。」
官兵衛:「もちろん喜ばしいことであることは喜ばしいことなのではありますが。」
隆景:「素直に喜ぶことが出来ない事情を抱えてしまったのが。」
官兵衛:「秀次様……。」
隆景:「殿下より30歳以上若く。
確実に殿下よりも長生きすることが出来るが故。
これまでは殿下の寿命が尽きるまでは。
と忠実な下僕として働いて来たこれまでの苦労が。
全て無に帰すばかりではなく、」
官兵衛:「還俗し、後継者として迎えられた身内が、
のちに生まれた実の息子と相争うことになった」
隆景:「応仁の乱の二の舞になり兼ねない構図を感じ取った」
官兵衛:「殿下が秀次様に対し、どのように扱うことになるのかが見えて来ない。」
隆景:「そして応仁の乱の時の将軍・義政とは異なり。」
官兵衛:「殿には決断力と実行に移すだけの能力が備わっている。」
隆景:「秀次様の周りに与党は居ない。」
官兵衛:「これまでは後継者であるから。
で集まっていた大名にしても
殿と秀次様とが対立関係になった時。」
隆景:「従うのは勿論太閤殿下の側。」
官兵衛:「ただそれも殿が生きている間の話。」
隆景:「いづれ殿下の寿命が尽きることになる。
秀次様より確実に早く。」
官兵衛:「そうなった時、これまで殿に味方していた大名は果たして」
隆景:「殿下の息子たる拾(秀頼)様のお味方になるのか否かについては」
官兵衛:「その時の情勢次第。」
隆景:「殿下亡きあとの不確定要因を取り除くべく」
官兵衛:「秀次様を……。となっても何ら不思議なことではありませんね……。」
隆景:「これが豊臣家の一族の立場であれば
殿下のお子様が生まれたことが強みになる。」
官兵衛:「徳川殿や前田殿の立場で豊臣家を動かすことが出来たのでありましたが。」
隆景:「拾(秀頼)様の立場を脅かしかねない存在。
関白として
君臨してしまっている以上。」
官兵衛:「いつ粛清されることになっても不思議なことでは無い。」
隆景:「その決定権の全てを握っている絶対君主が。」
官兵衛:「我が主君である太閤秀吉。」
隆景:「トップに立つのも大変ですね……。」
次は秀吉・秀次・秀頼の1593年を見ながら
秀秋の話に移っていこうと思います。