第三夜:天使にソックリ
私は成層圏を飛ぶ空挺部隊の軍用機と思しき深緑色の無骨な飛行機に乗っていた。
骨組の鉄骨もあらわな機内の両壁面には、簡素な長イスがむかいあわせにしつらえられていたが、私は操縦席を背にした壁面の小さなイスに腰かけていた。
目の前に白い服をまとった美しい金髪女性の天使が立っていた。軍用機に天使とは随分なとりあわせである。「うなぎに梅干」くらい食いあわせが悪い。
とどのつまりはミスマッチである。
天使はそんな私の違和感に頓着することなく、世間話でもするような口調でこう告げた。
「これからこのふたりの天使があなたの芸術をサポートします」
いつの間にか、私の左側の壁面の長イスに白い服をまとったふたりの若い日本人男性にしか見えない天使が腰かけていた。
私から見て手前の天使はゆるやかにウェーヴした黒髪で、アゴに少しだけヒゲをたくわえていた。うしろの天使は短髪である。スポーツ刈りだろうか? 随分と今風な天使だと思った。
私とふたりの天使は目があうと無言で小さく会釈した。かれらから天使の威厳や崇高さは微塵も感じられなかった。私はふたりに見おぼえのある気がした。
後日、TVを見ていたら、私の芸術をサポートしているはずのふたりの天使がお笑い番組でネタを披露していた。
ふたりの天使の正体は以前TVでチラと見かけたお笑い芸人だった。
天使が私の芸術をサポートすると云うのはマヌケな妄想であったらしい。
〈おわり〉