〜 2 〜
遡る事、お昼休み時間の屋上。
満瑠は1−3の鈴木仁に呼び出され屋上にいる。“毎度の事だ”
『芹沢・・・おめぇ人の女に色目使うんじゃね〜よ!』
毎度のこのセリフ。
(もう、聞き飽きた。変わったセリフ聞きたいや。)
満瑠はウンザリ顔で仁の顔を見た。
『なにボォ〜っとしてんだよっ!なんとか言えよ!』
仁は今にも殴りかかりそうな雰囲気で声を荒げた。
『・・・・別に。色目使ってないよ。ってか・・君の女って??誰の事?』
仁はそうとう頭にきてたんだろう。名前を言わず自分の言いたいことだけ言ってる。仁は顔を真っ赤にして言う。
『桐生美佳だよ!お前と同じクラスの!』
(同じクラス・・・ああ・・・あの子か。茶髪で下がり眉の。)
顔を思い出しクスリと笑った。
『ニヤニヤするんじゃねぇ〜!美佳に近づくな!』
満瑠は不思議そうな顔で聞いた。
『いや、僕は美佳に喋りかけられた事すらないから。近づくなって言われても・・・。』
どうやら・・・仁を余計に怒らせる結果になったようで、胸倉をつかまれ殴りかかろうとした。
『・・・っのやろぉ〜〜〜!人をおちょくるのもいい加減にしろ!』
仁の右の拳が上がり満瑠の右頬に向かって振り下ろそうとした!
『 仁。』
満瑠が一言名前を呼んだ。
仁の動きが途端にピタリと止まる。仁は目を見開き何か物言いたそうにしてるが・・・・。
『仁、僕の目を・・・見て・・・。』
満瑠の目が深い黒色から・・・グレイに変わる。仁はこれ以上開けないくらい目を剥いた。
『ゆっくり・・・・口を・・・開けて・・・』
仁の意思とは反対に口がゆっくりと開いてくる。3センチほど開くと満瑠は仁の口へとゆっくり顔を近づけた。唇と唇が触れるか触れないかの距離でピタリと止め、スゥ〜っと仁の息を吸った・・・。
いや・・・息ではななくて・・・仁の気だ。満瑠は仁の生気を吸い取ってる。
仁は恐怖で叫ぼうしてるが声が出ない。フリーズした身体が段々痺れた様に力が抜けていく。
(おおっと!これ以上・・・吸い取ると、ミイラになる・・・。)
満瑠は口を閉じ顔を離した。満瑠を掴んでいた手は緩み腑抜けになった身体はコンクリートの床に崩れ落ちた。
『仁・・・・もう少し心を綺麗にしろよ・・・不味い。』
満瑠は顔をしかめ、倒れた仁を置き去りに教室に戻った。
満瑠の秘密。気を吸い取る陰の力。吸われた相手は脱力感に見舞われる。吸いすぎると・・・死に至る危険な力だ。仁はこの後起き上がっても全て忘れているだろう。脱力感は大体一日位で回復する。
満瑠は暴力を振るおうとする相手にはこの力を使う。やられた相手は何があったか・・忘れてしまうので満瑠の力がばれる事は無い。
フンワリと甘い香りが満瑠の鼻孔をくすぐった。
『そか!そか!問題ナシならいいんだ。』
香紫朗は用意されてるナイフは使わずフォークで5枚あるホットケーキを2枚グサッと刺し口一杯に頬張った。口にメイプルシロップの甘みとバターの濃厚な味が広がりウットリと香紫朗の顔が緩んだ。
『こうちゃん・・・もう少しゆっくり味わって食べれば良いのに。』
満瑠はチョコパフェに乗ってるイチゴを側に除けトロリと溶け掛かった表面のチョコとバニラアイスを同時にすくい口に運んだ。
香紫朗のホットケーキは2枚おまけでサービス、満瑠のイチゴも本当はほかのフルーツだが満瑠の好物をマスターはわざわざ乗っけてくれてる。
『美味いもんはサッサと熱いうちに食うもんなんだよ!満瑠!おめぇこそ!サッサと食わねぇと!アイス溶けちまうぞ!』
二人はお互い口に広がる甘さに顔を緩め目の前にある好物に没頭した。この二人の唯一の共通点・・・・甘い物好きな所だけだ。