第一章☆甘い香りと危険な香り〜 1 〜
如月高等学校は制服・私服どちらもOKな規則もほとんどない自由な学校だ。
香紫朗は私服で、今日はシンプルに黒のTシャツにブルージーンズだ。
満瑠は反対に制服で、今は夏なのでトップは白のシャツにネクタイはブルーと紺の斜めストライプ。ボトムは紺のストレートだ。冬になると黒のジャケットが付いてくる。
香紫朗はその制服が「ダサい!」ので一度も袖を通さずにいる。
学校の帰り道、二人はいつも通っている『Rose room 』に涼みに行った。
『Rose room 』はレトロな雰囲気が漂う喫茶店で店内には昔懐かしいブリキの玩具やレコード
壁には昭和時代のスター達のポスターや映画のパンフレットが貼り付けられている。漂う匂いも香ばしいコーヒーの匂いと共に“懐かしい”匂いもしてくる。
香紫朗と満瑠はドアベルのカランカラン♪と鳴る木の戸を押し、いつものお気に入りの二階の席へと向かった。階段も木作りで上るたびにギシッギシッと軋む。一階の明るめの店内とは違い、二階は少し照明を落とし窓一つもない落ち着いた雰囲気だ。BGMはジャズが控え目に流れており会話を邪魔にする感じはない。
二人は一番奥の席に座りマスターがタイミングよく来ると同時に決まった注文をする。
『オレはホットケーキとアイスココア。』
と、香紫朗。
『僕はチョコパフェ。』
満瑠が伏せ目がちに言う。
マスターはクスリと笑い二人を交互に見、一言。
『“いつもの奴”だね。相変わらずだね。』
小さめのグラスにレモンを絞ったお冷を二人の前に置き一階に下りていった。
『チッ!余計なことは言わんでいい!黙って注文聞いてりゃ〜いいんだ!』
香紫朗が一階に下りて行ったマスターに聞こえるように言い放った。
『こうちゃん、態度悪すぎ。いつもサービスして貰ってるのに・・・』
満瑠が顔を赤らめて香紫朗に言った。
『満瑠!オレ達は毎日売り上げに貢献してくれる客だぜ!サービスは当たり前だ!』
香紫朗はイスの背もたれに両肘を乗せふんぞり返ってる。
『それよかぁ・・・・満瑠・・・鈴木仁に・・・呼び出しされていたけど・・・・“大丈夫”だったか?』
じっと満瑠の目を見つめ聞いた。
『ああ、平気。いつもの事だよ。“心配”する事じゃないよ。こうちゃん程じゃないけど・・・十分“いけたよ”』
クスクスと満瑠は笑い 細かい水滴が付いたグラスを持ち上げ喉を鳴らさないよう静かに飲んだ。
『そっか・・・』
ギシッギシッ一階の方から上ってくる足音と共にフンワリと甘いホットケーキの匂いが漂ってきた。