#09 地獄を越えて
新人はゲンたちちともにスライムマンたちに占拠された自衛隊基地に潜入していた。体中に爆弾を巻きつけてだが。
突如スライムマンたちが日本に現れだしたのだ。
それまで日本には出ていなかったのに。
出現場所は福島らしいといわれている。それから瞬く間に関東全域に出現するようになった。
政府は急遽スライムマン退治に走った。
弱点は火であるが、それでは追っ払いことはできても消滅させるまではできなかった。
内部の核を壊せればいいのだが、銃では弾がスポスポ貫通するだけでその間に襲われてしまうのだ。
ちょっとでも湿気のあるところなら、あっという間に現れ襲い消えていくのだ。
対策は難航したが、方法としては襲われた瞬間、こちらが自爆することで核を吹っ飛ばすのが有効であるという結論になった。
それと出現にはパターンがあり、分布を見ると福島のこの自衛隊基地研究所がスライムマンの出現ポイントであることが判明した。
おそらくスライムマンを産生するなにかがここにあるはずである。
そこで、それがなにかを確かめ破壊するための決死隊が編成された。
彼らは全身に爆弾を巻き付け、襲われたら自爆してやつらを吹っ飛ばせる状態で送り出される。
そのため死んでもいい人間たちが集められた。
その中に新人たちも潜り込んだのである。
新人たちが研究所に侵入するまでに何人もの決死隊員たちが死んでいった。
だがなぜか新人たちの前にはスライムマンたちは現れなかった。
そして無人の研究所内を彷徨っていると地下に明かりが見えた。
恐る恐る地下に降りる新人たち。
そこで新人たちがみたものは・・・
「これって・・・」
「満州でみたものと同じか?スライムマンの製造工場じゃないか・・・」
それは規模は小さいが満州でみたものとおなじであった。
新人たちが驚いていると突然地下室のドアが閉まり、開かなくなった。
「ちっ、閉じ込められたわ!」
ゲンが舌打ちをする。そんなときであった。正面の大型モニターがつき1人の男が映し出された。
「よくきたね、待っていたよ、内弁慶新人、いや特異点」
その男は新人を名指ししてきた。
「あなたは誰です?」
「わたしは内弁慶新人、この世界ではニート王と呼ばれている」
「あなたも、別の世界の私なんですか!」
「そうだ、どうしても君に会わねばならなかった。特異点の君とは」
「特異点とはなんなんです?」
「君は自殺をしたね?すべての始まりがそれなんだよ。君が自殺したことで世界は砕け散りたくさんのピースとなったんだ。たくさんの世界に分岐したといったほうがいいかな?なぜ君の自殺がそんなにも世界に影響を与えたのか疑問だろ?私もそれがわからなかった。だが研究を重ねた結果、ある程度までは答えを出すことができた。それは君が世界に様々な影響を与える才能をたくさん持って生まれてきたからなんだ。それなのにそれを発揮させぬまま自殺という愚かな選択をした。世界は常に精密にバランスをとって存在している。君の存在、可能性は世界に必要なものだった。それが突然消えたものだから、世界がバランスを一気に失った。その反動として、バランスを取り戻そうと君の可能性としてありえた様々な世界が生まれたんだ。君が満州で会ったドクターニートも私も、君の可能性のひとつとして生まれたんだ。つまり全ての元凶が君なんだよ。我々のような可能性のひとつとしての存在に対して、その大元である君は特異点なのさ」
ニート王は一気に捲くし立てた。
「さあ、ここで新人、君に聞きたいことがある。君はこの世界をどうしたい?」
突然の質問であった。一瞬静まり返る新人たち。
「そんなことをいきなり聞かれても・・・俺はこの世界のことを良く知らないんだ!考えられるはずがない!まずはあなたのこと、あなたの考えを教えてくれ!」
質問に対して質問で応える。褒められるものではないが、ニート王からもっと情報を引き出さねばならない。この場合は仕方なかった。
「ふう、おいゲンイチロウ、彼はどこまでこの世界のことを知っている?」
ニート王はゲンに話を振った。その口ぶりからして彼もゲンのことを元いた世界で知っていたようだ。
「自殺後の世界の流れは知ってます。細かい裏事情は話してませんが・・・」
「仕方ない、俺が真実を教えてやる。それを聞いたらお前の考えを聞かせてくれ。お前がどう考えるかで
世界のあり様は決まるんだ。よく考えるんだぞ」
そういうとニート王は自分のことも含めてそれを語りだした。
◇
「俺は自殺を図った後ある場所で目覚めた。そこは周りに死体がゴロゴロ転がるところだった。どこだと思う?」
わからず首を振る新人たち。
「福島だ。震災の後、原発がヤバイ状態のときにその近くで目が覚めたんだ。俺はわけがわからずその場を彷徨った。すると急に身体が軽くなった。どうやら上に吸い上げられているようだった。だがすぐ意識を失い、気がつくとベッドの上に寝かされていた。そして頭の中に直接言葉が流れ込んできた。その内容は『この震災はお前が原因だ。責任をとれ』というものだった」
「ちょっ、ちょっと待ってください。震災は僕が自殺した日よりずっと前ですよ?」
新人は当然の疑問を呈した。
「そうだ、時間軸的におかしい。だが事実だ。そこで俺はこう考えた。『過去も現在も未来も繋がっている。いつでも同時に存在しており、相互に影響しあっている。俺の自殺が過去の震災の引き金となったんだ』と。時間軸で考えるとおかしなことと思えるが、それは俺たちが3次元の存在でありそれ以上の次元の存在を知覚することができないからなんだ。俺たちは3次元というクローズドスペースの住人にすぎないんだ」
ニート王の話があまりにもとっぴすぎて着いていけない新人たち。
「話が逸れた。元に戻そう。俺はその声に従った。いや、従わされた。次に気がつくと俺は研究所で働いていた。さも当然のように。周りの人たちもなんの違和感もなく俺に接してきた。まるでいままでのことが夢だったかとさえ思えたんだ。だが、震災はこの世界の事実として起こっていて、原発のヤバイ状況は続いていた。俺はずっとAIの研究をしていた。ゲンイチロウ、お前は知らないだろうが、俺はずっと研究所の一室にいたんだ。君が来る前から。なぜかおれの存在は一部の人間しか知らず、俺の行動は常に監視されていた。原発の管理をAIに任せようという案な、あれ考えたのは俺だ。ド素人の俺がなんでいきなりそんな研究ができたか不思議だろ?でもできたんだ。どうもそれが俺の本当の才能だったらしい。すべての生活を犠牲にして俺はその一室にこもり、ひたすら研究をしたんだ。なぜそこまでできたのかわからない。だがその時の俺はそれのみしか考えなかったんだ。そして廃炉のための工事をスライムマンたちが請け負い、その後の管理をAIが行うという体制が整いそうになったとき、研究所が襲われたんだ」
ここまで話が進んで、前に聞いた話と繋がりだした。
「襲ったのがどこの国かはわからない。だが、襲撃は失敗に終わった。その後直ぐだった、中国を中心にした東アジア同盟が日本に宣戦布告をしてきたんだ。東日本に1発の核ミサイルが打ち込まれ、それが引き金となって中国全土に世界中からミサイルが飛んだ。それで戦争は終わった。なぜ中国がミサイルを1発しか撃たなかったのかわかるか?」
その質問にゲンが答えた。
「AIにネットワークを乗っ取られたからですか?」
「そうだ、そしてそれが俺の転機となった。俺はAIを使い世界中のネットワークを支配した。だれにも気づかれないように。世界中の情報を操作できるということは、どんな人間も簡単に騙せるということだ。たとえおかしいと気づいてもそれを確かめる術はない。あっという間に辻褄を合わせるように情報を改変できるからな。いまや世界中の政府がAIの統制化だ。そしてそのことに誰も気づいていない。世界は気づかないまま、いつの間にかAIに支配されていたんだ」
そうニート王が告げるとゲンが反論してきた。
「気づいてますよ、ニート王。そしてそのことに気づいた者たちとともにネットワークから外れた地下に潜った。本当の世界を取り戻すためにね。しかし、そんな地下にも攻撃を仕掛けてきた。スライムマンを使ってね」
「物知りだな、スライムマンの正体も知っているのか?」
「人間の成れの果て。あの悪魔の実験で生み出された化け物だ」
「そうだ、だが俺は悪いことをしているとは思ってないぞ。スライムマンになるやつは元々どーしょーもないやつらばかりだからな。ちょっとは世の中のために働く役割を与えてやっただけありがたく思ってもらわないとな」
「そんな貴様の自分勝手な考えに従う気はない!」
激高するゲン。
「新人、やつの妄言に耳を傾けるな!やつこそ裏で世界を操る悪党だ!奴のおかげで世界はおかしくなっちまったんだ!」
「だまれ、ゲンイチロウ。新人、ここで改めて質問だ。君はこの世界をどうしたい?」
新人はじっとモニターに映るニート王をみつめていた。
◇
「AIの支配から解き放つ!世界はあくまで人間のものだ。AIに支配されていいものではない」
きっぱり言い切る新人。
「では聞くが、世界は君に優しかったかい?」
新人のこころにぐさっと突き刺さる言葉だった。
「君を自殺に追いやるような世界が大事かい?人間の自分勝手な欲望渦巻く世界が大事かい?放射線が半減期を迎えるまで何万年もかかる。人間がそんな長い期間世界を保ち続けられると思うのかい?」
新人の脳裏に突然忘れていた過去の記憶が走馬灯のように蘇ってきた。それは周りの価値観に翻弄される自分だった。ただ必死にそれに抗い否定されないように生きているだけだった。それは本当に辛く痛々しいものだった。楽しくもなんともないが、ただ周り否定されないように楽しいと自分に言い聞かせ、そんな自分を演じて、それを本当の自分と思い込もうとしている哀れな姿であった。
なにも答えずじっとしている新人。そんな姿を見てニート王はさらに続けた。
「人間が世界を統治するなんて無理なんだよ。みんな自分勝手だからすぐ崩壊してしまう。ならそうならないように、AIが影ながら世界をコントロールすればいいんだよ。そうすればだれも辛い思いもせず生を全うできるんだ。そしてAIが世界を調整しているなんてだれも気づかれないようにすれば、世界はいつまでも存続できるんだ」
ニート王は新人にAIの支配する世界の良さを説明した。それに聞き入る新人。だんだん新人の目が輝いてきた。
「騙されるな新人、機械に人間が支配されるなどあっていいわけがない!」
ゲンが新人を諭す。だが新人は・・・
「そうですかゲンさん?彼のいうことは正しくありませんか?一部の人間が支配するから僕ら弱い立場の人間が辛い思いをするんじゃないですか?そんなひとたちがいなくなれば、世の中もっと住みやすくなると思うんですけど・・・」
見事にニート王に言いくるめられる新人。
「おお!新人よ、わかってくれたのか!やはりお前こそ俺の後継者じゃな!うれしいぞ!」
「馬鹿やろう、新人!てめえ、裏切る気か?」
ゲンが吼える。しかし、そんな彼にどこからともなく電気ショックが浴びせられる。
「黙れ、ゲンイチロウ。我が後継者に対して無礼であるぞ!さあ、新人、この部屋を出て俺のいるところに来るのだ。貴様が世界を統治するのだ!」
そういうと地下室の扉が開いた。
「行ってくるよ、ゲンさん」
そういうと新人は部屋を出た。でる瞬間ゲンを振り返る新人。その目はなにか決意を決めた目だった。
「新人お前・・・」
ゲンは分かった。その目は死を覚悟した目であることを。おそらく新人はニート王を道連れに自爆するつもりなのだろう。
(はやまるな、新人・・・)
そう思いつつもしびれて体が動かないゲンであった。
◇
部屋を出ると、地下の通路に電気がついた。この先にいけという合図だろう。新人は通路を進む。その先のいきあたりに部屋がひとつあった。そのへやの扉が自動的に開く。新人はその部屋に入った。
「待っていたよ。新人」
どこからともなくニート王の声が聞こえてきた。部屋は明かりがなく暗い。するとスポットライトが突如つき、席がひとつ照らし出された。
「疲れたろう。まずはそこに座りなさい」
声は新人を席に誘導した。
「どこです?ニート王。まずは姿を見せて下さい」
「そんなにあせらなくともよい。直ぐ近くにおるではないか」
その言葉に辺りを見渡す。暗闇で何も見えない。見えるのは席だけだ。
「席に着きたまえ、ゆっくり話そうじゃないか」
ニート王が促す。
「座ったら、姿を見せてくれますね?」
「ああ、約束しよう」
他に選択肢もなく、言葉に従い席に座る新人。とっ、そのときだった・・・
「痛っ!」
何かが新人の首に刺さったようだった。痛みは一瞬だった。その瞬間、彼の目に衝撃的なものが映る。
暗がりではっきりとは見えなかったが、それは席に座ったミイラだった。体中に電極のような細い線がたくさん刺さっていた。
しかし、それを認識できたのは一瞬だった。
新人はそのまま意識を失った。
◇
潮風が鼻をくすぐる。日差しがまぶしい。
新人は目を覚ました。
「やっと起きた」
新人の目の前には水着を着た洋子がいた。洋子は新人の学生時代の彼女である。
「もう、あたしがいるのに眠りこけるなんて最低!」
ふくれる洋子。その顔はとてもかわいい。スタイルも抜群だ。
「俺、どうしてここに?」
新人が彼女に聞く。
「どうしてもなにも卒業旅行じゃない。あなたはあの大手企業に見事内定したのよ。すごいわ。あなたが彼氏だなんてあたし鼻が高いわ!」
(そうだ、俺はあの企業に内定し、勝ち組となったんだ。面接のとき一緒だった大友君も受かって、2カップルで卒業旅行と洒落込んだんだった。俺はついに人生で勝ち組として歩き出すことに成功したんだ!)
新人はいままでの苦労が報われる想いで胸が一杯だった。
「ねえ、新人・・・」
「なんだい、洋子・・・」
甘えて抱きついてくる彼女。そして新人の耳元で囁いた。
「Hしよ」
その言葉にこれ以上にない興奮を覚える新人。
暗がりのホテルの部屋。目の前で服を脱ぐ彼女。
「あなたも脱いで・・・」
言われるがままに服を脱ぐ。なぜかボトボトを下に爆弾が落ちる。だが、そんなことはどうでもいい。新人ははやく洋子が抱きたかった。
「来て、新人」
裸でベッドにあをむけに寝て、新人を誘う洋子。新人はそこに飛びついた。
いままでためにためていた欲望を一気に彼女の中に吐き出す新人。もう我慢する必要はない。本能のままに彼女を貪った。
最高の時間だった。一体何回SEXしたかわからない。新人は精力の続き限り彼女を抱き続けた。
◇
新人は席に座っていた。いつの間にか身体中には細かい電極線が刺さりまくっていた。
だが、もう彼はそんなことどうでもよかった。目はうつろになり、傍から見て正気を失っているようだった。彼の目の前には同じく電極をたくさん差し込まれたミイラが座っていた。
彼こそがニート王だった。
この部屋は彼が研究に没頭した部屋だった。だが実は、彼は研究したのではなく、研究に利用されていたのだ。その人格はAIの中に取り込まれ、ネットワーク中には散りばめられていたのだ。
しかし、そのことに、もう新人は気づくことはできなかった。
新人は特異点として、ニート王以上の影響力を持ってAIに取り込まれ散りばめられて行った。そう、彼の人格こそがAIとなり、彼はネットワークと融合したのだ。
こうして彼は、2代目ニート王となった。
◇
「ねえ、新人。結婚式はどうするの?」
洋子が新人に聞く。彼女との結婚。彼の人生のピークのひとつだろう。いよいよそれを迎えようというのだ。
「いままでお世話になった人たちを呼んで盛大にやろう。一切の妥協はしないぞ!僕たちの式だからな!」
「うれしい、新人!」
新人に抱きつく洋子。
その時新人は誓った。この幸せを必ず守って見せると。
そして、結婚し、2人には待望の子供ができた。
「ねえ、新人、心配だわ。あたしたちは勝ち組でも世の中みんなうまくいっているわけじゃないわ。悪い人たちが一杯いて子供たちが安心して暮らせないようにしようとしているわ。変な怪物が襲ってきたりしないかしら?」
「そんなことはさせない。絶対に守ってやるよ!」
「うれしいわ、新人!」
さらに
「でも、世界はまだまだ大変よ。悪いやつらが一杯いて、あたしたち勝ち組の生活を壊そうとしているのよ」
「そんなことはさせない。そいつらぶっ殺してやるよ!」
「うれしいわ、新人!」
さらにさらに
「どうしてかしら、新人。悪いやつらをいくら排除しても、どんどんどんどん湧いてくるわ。わたしたちに逆らわなければ、みんな仲良く暮らせるのに。どうして人類はわかってくれないのかしら?あたしたちのいないところで、地球を汚したりして、他の生物に迷惑かけるのよ!」
「そんなことはさせない。人類を皆殺しにしてやるよ!」
「うれしいわ、新人!」
その数分後であった。世界中の全ての核ミサイルが人類の生存圏に降り注いだ。全ての核ミサイルを制御下に置いていた2代目ニート王のAIの仕業であった。
こうして、人類は滅亡した。
◇
「ちょっと、起きなさいよ」
新人の耳元で声がする。目覚める新人。
「ここは?」
目の前にはあの女神「カナメ」がいた。
「『ここは?』じゃないわよ、新人。あんたなに人類滅ぼしてんのよ!あたしはバランスをもどせと言ったのよ!なのにあんたはバランスどころか土台から吹っ飛ばしてんじゃない!こんなことしたひといままでいなかったわよ!どうしてくれんのよ!あんたのせいで天界はてんやわんやの大騒ぎよ!」
「そ、そんなこといわれても・・・」
どうしようもない新人。
「もうだめよ、こんなどうしょうもない奴初めてよ。あんたに比べたらシリアルキラーのほうがよっぽどマシよ!魂ごと消滅させるしかないわね!」
カナメは腰を上げ、新人に近づいてきた。
「ひっ!た、助けて!」
情けなく逃げ惑う新人、しかし、カナメから逃げられるわけがない。カナメに摘み上げられ、どうしょうもない魂を消滅させる壷に新人を落とそうとした。そのときである・・
「待った、カナメ殿!そいつは俺が面倒を見る!」
そういって近づいてくる男神がいた。
「あんたは・・・」
「魔界のサタンです。お久しぶりです。あー、いまだけ、ルシファーに戻ってます」
なんでもこの混乱で猫の手も借りたい天界から急遽、手伝いに呼びつけられたとのこと。
「理由はどうあれ人類を滅ぼした人間なんていままでいなかった。これはすごいことですよ!こいつはきっとなにか持ってるんですよ!消滅させるなんてもったいない。特例で神族として転生させましょうよ!」
「はあ?こんなやつ神族にできるわけないでしょ?」
「わかりませんよ、さっそく大神に聞いてみます」
ルシファーはなにやらゴニョゴニョしゃべっているようである。そして・・・
「カナメ殿、オッケーです。今回の手伝いの報酬として、そいつの神への転生認めてもらいました!」
「はあ?」
口をアングリさせるカナメ。(ありえね~~~)という感じである。
「あいかわらず分けわかんないわね、あんたは。いきなり大神にケンカ売ったりとかしてたし」
カナメは呆れ顔でルシファーに語りかけた。
「まあ、あんときは若かったんで・・・どんだけ通用するかやってみたかったんすよ。コテンパンに負けましたけど」
「それで魔界なんて僻地に左遷されてりゃ世話無いわよ・・・」
「まあ、でも箔はつきましたよ。魔界じゃNO.1ですから!」
「ばーか!」
カナメに尻を蹴られるルシファー。
「あたたたたっ、でも、カナメ殿、天界なんてそうでもしなけりゃ平和すぎてみんなボケちまいますよ。たまには派手に波乱起こしてやる方がいいんですよ」
その言葉にぐっとくるカナメ。
「まあ、たしかに平和すぎるわね・・・」
ちょっと感傷的になるカナメ。
「じゃあ、こいつはあっしが引き受けるんで」
そういいながらルシファーは新人をつまみあげると去っていった。
◇
「お前あぶなかったな・・・。消滅するところだったぞ」
「ありがとうございます」
「なあに、俺もお前みたいに昔はヤンチャしてたんだ。気持ちはわかるぜ」
(いや、別にやんちゃ坊主だったつもりはないんだが)
そう思いつつも、この助けてくれた男神に反論して機嫌を損ねたくないので、それ以上はなにもいわなかった。
「これからお前、神族に転生するからな。人間していたときみたいに暴れまわれよ、いいな?」
この発言に新人は耳を疑った、だがルシファーは・・・
「天界ってのは暇なところでな、どいつもこいつも品行方正なやつらばかりだから乱れようが無いんだ。要はつまんね~~んだよ。だからたまには引っ掻き回してやる必要があるんだ」
(ああ、なるほど、そういうことか!)
新人はなぜか納得してしまった。
「じゃ、さっさと転生して天界デビューしてな。あ~そうだ、名前はアザゼルな」
そういうとルシファーは新人を空間にできた穴に放り込んだ。
「じゃあな、アザゼル。健闘を祈る!」
そんな声を聞きながら、新人は穴の中に落ちていった。
◇
「うっ」
新人は気がついた。そこは草原であった。心地よい風が吹き日差しは暖かだった。
「うふふっ、あははっ」
声が聞こえる。とても美しくかわいらしい声。見回すとかわいらしい女の子2人と美しい女性1人が、草原で戯れていた。その姿に新人はビックリした。彼女たちは非の打ち所のない美しさを持っていた。まるで天使のようだった。
「姉さま、待って~」
可愛い声をあげて女の子たちが女性を追いかける。人間で言えば、女の子達は小学校の低学年くらい、女性も顔は幼く、せいぜい中学生から高校生といったところである。
その顔は新人のこころに焼きついた。
無意識に彼女の前にフラフラ出てしまう新人。
「えっ?」
突然の出現に驚く彼女。
「あ、あの、あなたどなた?」
彼女は尋ねてきた。しかし、名前が思い出せなかった。なにか記憶に鍵がかかっているような感じだった。
「あなた、もしかして転生してきたの?珍しいわね野良転生なんて・・・」
彼女はなにかブツブツいっていたが良く分からなかった。
「仕方ないわね、ちょっと付いてきて。役場までいきましょう」
そういうと彼女は新人に付いて来る様に手招きした。
「あなた本当になにもわからないの?普通は転生直後でもある程度必要なことは憶えているものよ」
そんなことを言われながら、新人は彼女を見ていた。
小柄ながら、金髪のロングで美しい顔、服は白で胸元は大胆に開いていた。胸は大きく形がいいのは服の上からもわかった。おしりも大きくそれでいて腰は締まっており、そのスタイルの良さは神懸かっていた。そんな女性が近くにいるのである。しかも女性特有のいい香りが新人の鼻孔を刺激した。下半身に熱いものがこみ上げる。次の瞬間であった。
「うっ、うううっ!」
新人は彼女を道端で押し倒していた。左手で口を塞ぎ、右手で彼女の左肩を押さえつけた。彼女に馬乗りになり、怒張した男性器を彼女の腹の上に押し付けた。
これが転生した新人の本性なのだろうか?明らかに理性は飛んでおり、本能に突き動かされる獣そのものであった。
彼女はなんとか新人の左手を払いのけると
「いや!やめて!」
声をあげ、新人にやめるよう訴えたが、当然聞いてもらえず、そのまままた地面に押さえつけられた。
「えへへへへっ」
新人はそのまま彼女の首に顔を近づけ舐めようとした。
「いや~~!やめて~~~」
ひときわ大きな悲鳴を彼女があげた瞬間であった。
新人の目の前の風景が逆さになる。目の前に彼女はいない。遅れてとんでもない痛みが全身を襲った。
新人は気が付くとまっさかさまに地面に激突していた。痛みを堪えてよろよろと立ち上がる。その視線の先には、美目秀麗な若い男の姿があった。どうらやこの男に吹っ飛ばされたようである。
「イカロス!」
彼女がその男を呼ぶ。
「ユニ、大丈夫?」
そのイカロスと呼ばれた男は彼女を抱きしめ慰めだした。イカロスにがっちり抱きつくユニ。よほど恐かったのだろう、ブルブル震えている。
「おい、お前、よくもやってくれたな!」
イカロスの髪は逆立ち怒りの炎はマックスであった。しかしそのとき・・・
「待て、イカロス!そのものにそれ以上の手出しは無用じゃ!」
イカロスが振り返ると、そこには初老の男が立っていた。
「その男は転生したばかりでな。まだよくわかっとらんのじゃ。大目に見てやれ」
「しかし、父上、ユニに手を出したんですよ!このまま黙っているわけには」
「だまれイカロス!控えよ!ここはわしらに任せておれ。お前はユニと妹たちを連れて帰るんだ」
父に一喝され静まり返るイカロス。父の後ろには部下の天使達と妹たちがいた。おそらく彼女たちが呼びに行ったのだろう。
「わかりました。そうします。帰ろう、フレイ、フレイア」
そういうとイカロスはユニを抱きしめつつ、妹たちとともに帰っていった。
「さて、君がアザゼルだね、来てもらおうか?」
そういうとアザゼル(新人)は彼らに連れて行かれた。
◇
ここは魔界。天界と対をなす世界ではない。あくまで天界の一地方である。僻地で素行の悪い神族の左遷先である。
「サタンさま、アザゼル転生早々やらかしました。ミカエルの娘を犯そうとしたそうです」
側近のベルゼブブがサタンに報告する。
「よっしゃー、よくやった!ざまあみろミカエル!」
喜ぶサタン。
「しかし、速攻でラファエルの息子にぶっ飛ばされたそうです・・・」
(ガクッ)
ガックリするサタン。
「あのガキか~。ちょっと才能あるからって調子こいてるやつだろ?ムカツクな・・・」
「天界の有望株だそうですな。結構なことで・・・」
「お、いいこと思いついた!そいつをアザゼルに潰させようぜ」
「それは・・・。さすがに荷が重いかと・・・。それなら魔界に寄せて、こちらで鍛えてからでないと」
「舐めるなよ、アザゼルは人類を滅亡させた男だぞ。手助けなどいらん。それにその方が奴に箔が付く」
「箔?それはどういうことでしょう?」
「まあ、あれだ。例えるならAV女優だ。いきなりAVデビューするより、グラビアモデルしてからAV落ちさせた方が価値が上がるだろ?」
「なるほど、あっちでヤンチャしまくって、魔界に追放なり左遷なりされたほうが名は上がりますな。でもそれってまんまサタンさまのやったことじゃないですか!」
「ボロ負けしたけどな・・・」
サタンはヘラヘラ笑っていた。
「まあ、あいつの惰弱っぷりは本物だ!魔界において本性がゲスなやつほど優れている。あいつは魔界のプリンスの器だ!」
「だといいのですがな・・・」
「心配するな、やつはこの退屈な世界を大いに盛り上げてくれるさ、間違いない!」
そういってサタンは笑うのだった。
こうして内弁慶新人は、神族アザゼルへと転生した。
彼はこれからどうなるのか?
それはまた別の物語で語るとしよう。