#07 地獄への階段その参
満州国、戦後中国の北東地域に新日本政府が建国した国である。広大な領土であるがその大半は放射能汚染された不毛の地である。日本は戦勝国でありながら、貧乏くじを引かされたのだ。
ここは首都新東京の、とある安ホテル。ミサイル攻撃を受けた地域はここから北の工業地帯である。新人たちは組織の力で混乱しているこの地に侵入していた。
「明日には北に向かうぞ」
ゲンは新人にそういった。安ホテルに泊まり朝には北に向かう。そこには何が待っているのだろうか。新人はベッドで早々に眠りに着いた。
ピチャ、ピチャ、ピチャ・・・
水道の蛇口が少し開いているのだろうか?水が漏れる音がする。
新人は目を覚まし洗面所に向かった。寝ぼけ眼で入ると、なにかが突然目の前に現れた。
ボヨン!
それはずっしり重みがあったが、弾力もあった。ぶつかった拍子にボヨンボヨンと波打ち、新人を跳ね返した。
(なんだ?)
そう思ったときは、もう遅かった。
(うっ!苦しい!)
新人はその弾力のあるなにかに全身を飲み込まれた。一瞬誰かに抱きしめられたように感じたが・・・
新人は全身をその弾力物につつまれると次第にその中へと取り込まれていった。
息ができない・・・
突然の事態にパニックになる新人。しかし、もがいても外には出れない。もうだめかと思った瞬間だった。
突然目の前が明るくなった。と、同時にその弾力物が身体から離れていく。
「大丈夫か新人!」
その声はゲンであった。手にはバーナーを持っている。
ごほごほ咳き込む新人。
「ゲンさん、今のは?」
新人は今の状況の説明をゲンに求めた。だが・・・
「ゲン、まずいぜ!やつらここに勘付いたようだ。あれが何体もホテルの周りをうろちょろしてるぜ!」
一緒に来て別の部屋に泊まっていたトミさんとマツさんが血相を変えて部屋に入ってきた。
「ああ、そうみたいだな。もうこの部屋にも侵入された。洗面所から入ってきたみたいだ」
そういうと新人に振り返り
「新人、説明は後だ、今はここを脱出するぞ!」
そういうと4人は荷物をカバンに詰め込み一目散に地下駐車場へと向かった。
そこには大型のSUVが停めてあり、それに乗り込む。
「急げ!出入り口を塞がれると厄介だ!」
4人が乗り込むとSUVは急発進。だがその前に立ちはだかったのは・・・
「えっ?あれ?人間?」
新人は目を疑った。SUVの目の前に現れたのは全身緑色のひとであった。だがSUVは止まろうとしない。
勢いよくそれを跳ね飛ばした。
ぐちゃ!
音を立てて緑色のひとは潰され弾けた。その緑色の液体がフロントガラス一面に降りかかる。ワイパーでそれを払い、視界を確保する。地下駐車所を出るまで数体を跳ね飛ばす。彼らはSUVに自ら寄って来た。
スピードは落とさない、SUVはそのまま地下から出ると、北へ向かって走り出した。
◇
あれから少しして、SUVは順調に北に向かって走っていた。4人はようやく落ち着きを取り戻していた。
「ゲンさん、あれは一体なんなんですか?」
新人はゲンに説明を求めた。
「あれはグリーンマン、あるいはスライムマンといわれているものだ」
ゲンの話はこうだ。彼らは終戦後、満州国に現れた。いまのところ日本にはいない。ひとに近い体つきだが全身がスライム状であり、水に溶け込むことができるらしい。水道があるとそこから進入していくことができるのだ。その生態はほとんど分かっておらず、経験則的に火に弱いことが分かっている程度である。
「この満州国自体がよくわかっていないんだ。都合のいいことばかり報道され、みんなが知りたいことは一切公にされていない。存在自体が謎なんだよ」
そのセリフにウンウンとうなづくトミとマツ。
「だから俺たちはそれを確かめるためにここに来たんだよ」
そういいながらトミとマツは後部座席から新人の肩を叩いた。
「新人、きっとお前がいれば俺たちは真実に近づける。頼りにしてるぜ」
ゲンはそういいながら車を走らせ続けた。
北に向かう途中、SUVはコンビニに立ち寄った。良く分からない国とはいっても一応日本の領土である。普通に日本語は通じるし、お金も使える。町で暮らしている分には安全なのである。新人はコンビニでバイトをしている女の子に、先日のミサイル攻撃の件について聞いてみた。
「その日はみんなすぐにシェルターに避難しました。でも、夜には警戒警報が解除されて家に帰りました」
戦争のときに作られたシェルターが町のあちこちにあり、そこはいまでも緊急時の避難場所として利用されているのだ。それ以外にどんな被害が出たのか、どんな影響が出たのか聞いてみたが・・・
「工業地帯でかなりの死傷者が出たとは聞きました。病院はいまでも満杯で一般の人はなかなか受診できないみたいです。でも、こちらのライフラインは無事だったので、特に影響は出ていないです」
情報統制なのか、工業地帯がどんなになったかとか、どこから攻撃されたのかとかは全く分からなかった。
「やはり乗り込まないといけないな!」
ゲンはみんなに発破をかけた。
北の工業地帯、ここになにか秘密があるのは明らかである。
一体なにが行われているのだろう?
彼らは一路、北を目指した・・・