#04 地獄への助走
満州国の首都「新東京」に多数のミサイルが撃ち込まれてから3日、世界は再び不穏な様相を呈し始めてきていた・・・
「はあっ、はあっ、はあっ」
新人は死に物狂いで走っていた。追手は3人、いや4人か?執拗に新人を追跡してくる。パチンコ屋から出た途端後ろから声を掛けられた。振り向くとサングラスの大男たちがいる。ニヤッと笑うと近づいてくる。本能的にヤバいと感じる新人。ダッシュで逃げ出した。それからの逃走劇である。
「新人、こっちだ!」
その声に反応し振り返る新人。その先には大友がいた。
「そっちじゃない!こっちだ!早くしろ!」
明らかに新人を助けようとする声だ!いろいろ酷いことをされもしたが、生活保護を受けれるようにし、新人に今の安定した生活をもたらしてくれたのは彼である。彼は車から顔を出し、新人に自分の車に乗るように手招きをしていた。
「大友さん!」
「早く乗れ!」
大友は新人を車に乗せると急発進で逃走を始めた。全力疾走で疲れ切った新人。車の中でぐったりしている。
「大変な目にあったな新人。だがもう大丈夫だ。俺が安全な所に連れて行ってやる」
新人を気遣う大友。なんのかんの言ってもこの人は俺を助けてくれる。新人は涙が出るほどうれしかった。
「大友さん、俺なんかのために、ありがとうございます!」
「気にするな!俺が世話しているやつが何人かあのサングラスやろうどもにさらわれているんだ。お前は無事に助け出せてよかったぜ」
「何人かって・・・。ゲンさん、ゲンさんは無事なんですか?」
ゲンは新人とともに大友に世話になっている生活保護者である。大友以外ではこの人がなにかと新人の面倒を見てくれていた。経歴は全く分からなかったが色々と物知りでこの界隈の生活保護者のまとめ役のような人であった。
「わからん。俺が訪ねた時はもう部屋にはいなかった」
「そ、そんな・・・」
「まだ捕まったとは限らん。あいつのことだ、どこかに雲隠れしてるだろうさ」
「それならいいんですが・・・」
そんな風に仲間を心配しながら新人を乗せた車は見知らぬマンションの地下駐車場へ潜り込んでいった。
◇
車から降りると大友に促されるままにエレベーターに乗った。そのままマンションの一室へと連れていかれた。
「先に入ってろ。俺は他のやつも探さなくちゃならん」
そういうと新人を部屋に入れ、そのまま出かけて行ってしまった。新人は靴を脱ぎ部屋に入った。新人の他には誰もいないようであった。シンと静まり返る。とりあえず落ち着こうと居間に移動しようとした。すると、突然後ろから羽交い絞めにされた。なにがなんだかわけがわからない新人。なんとか後ろを振り返ると2人のサングラスの大男に捕まっていた。
(そ、そんな!ここは安全な場所なんじゃなかったのか?)
新人はそのまま居間に連れて来られた。そこには椅子に腰かけた眼鏡をかけた男いた。眼鏡の男の前に組みふされる新人。
「内弁慶 新人君だね?」
男は新人に話しかけてきた。
「誰です、あなたは?」
「ふふっ、ただの役人だよ」
眼鏡の男は床に這いつくばる新人を見ながら薄ら笑いを浮かべた。
「少し質問をさせてもらうよ」
「質問?」
「そうだ、君に拒否権はないぞ」
大男2人に押さえつけられて身動きのできない新人にさらに力が加わる。猛烈な痛みが新人を襲う。これ以痛めつけられたくなければいうことを聞けという意味だろう。
「立場が理解できたようなので、質問させてもらうぞ。まず君の名前は?」
(なにをいってるんだ?名前は知ってるだろうが?)
新人は意外な質問に驚いた。さっきも自分の名前を呼んでいた人が改めて名前を聞いてきたのだ。
「なにを言ってるんだ?初めから知ってるだろうが!」
その新人の切り返しに眼鏡の男は語気を強めて言い返した。
「貴様に質問は許可していない!立場をわきまえたまえ!」
そういうとさらに強烈な痛みが新人を襲った。そんな新人を薄ら笑いを浮かべながら眼鏡の男は見つめている。これでもう反抗的な口は聞かず素直に質問に答えると悟ったのだ。
「では改めて質問するぞ、貴様の名前は?」
「内弁慶 新人」
「年齢は?」
「・・・」
「おい、年齢は?と聞いてるんだ!」
眼鏡の男は語気を強めた。しかし、新人は年齢を聞かれた瞬間答えることが出来なかった。
全く分からなかったからだ・・・
分からないので答えようがなかったのだ。
(まさか、やっぱりこいつ・・・)
眼鏡の男の中に不安がよぎりだした。しかし、まだ分からない。眼鏡の男は質問を続けた。
「ここに来る前、どこで何をしていた?」
「出身地は?」
「親兄弟は?」
他にも色々と質問された。しかし、何一つ答えることが出来なかった。
「お前もしかして記憶喪失か?あるいわ・・まさかそんなことはないだろうが・・・」
眼鏡の男はひとりでブツブツ話していた。言っていることはわからなかったが・・・
ガチャーン!
突然、窓ガラスが割れる音がした。何事かと振り向く眼鏡男とサングラスの男2人。何かが部屋に投げ込まれていた。それはもうもうと白い煙を吐き出していた。あっという間に部屋中が煙だらけである。煙に巻かれうまく息ができない。それは眼鏡やサングラスの男も同様だった。堪らず新人を置き去りに部屋の外に出る3人。新人も出ようとしたが、ずっと押さえつけられていたため体がしびれていて動けない。
(くっ、苦しい)
息が出来ずのたうち回る新人。もうダメかと思いだしたその時だった。
「これ付けな」
そういうと新人の顔にガスマスクが付けられた。途端に息ができるようになり楽になる。誰だか知らないが助けに来てくれたのだ。こんな彼の目の前に現れた人は・・・
「よお、遅くなったな!」
「ゲンさん・・・」
マスクをつけているが間違いない、彼こそこの地域の貧民たちのまとめ役、ゲンであった。