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#09

まさかガキがきっかけになるとはな

正直意外でした

三つ子の魂百まで、という事だな

あの子を早く楽にしてやりたい、と思っているよ



いいか、ここからが正念場だ。お前が変身できるかどうか、ってやつだ。俺の見立てでは五分五分。お前の中にあるスピリットは細くて、脆い。きっかけが【イグナイト】っていうのも、恐らくは意味のある事なのだろう。お前の少年時代がどういうものだったか、当のお前自身が一番知っているはずだ。アウトリガーの戦いは心の戦いでもある。折れた方が負けだ。お前の細くて脆いスピリットをどうイメージするのかだ。

正攻法では勝てないぞ。お前のもっとも深い場所に長い間沈んでいたものとの対峙だからな。そしてそれはお前の父親との戦いでもある。お前が最も憎み、そして恐れていた男との戦いだ。いいか、忘れるな。アウトリガーは心の戦いだ。



突然、目の前に大きく【A NEW CHALLENGER !!】の文字が躍った。

同時に目の前に広がる世界が崩壊を始めた。アパートの玄関、靴、下駄箱、キッチン、空き瓶、ゴミ袋、冷蔵庫、壁時計、テーブル、椅子といったありとあらゆるものがバラバラと崩れ始める。それはまるで完成したジグゾーパズルが、下からバラバラとピースが外れていく様に見えた。ついさっきまで居た筈のアパートの一室の風景は数秒で暗闇に変わり、同時に新たな世界が構築され始めた。崩壊とほぼ同じ程度の時間、約数秒で構築の作業は終了した。目の前に広がる世界は赤い鳥居がいくつも並ぶ、大きな神社の様だった。辺り一面に霧が立ち込めている。漂う空気は冷たく、そして張り詰めていた。


目の前で何が起こっているのか、全くわからない俺の前に、あの少年が現れた。

「おとうさんがしんだなんてうそじゃないか」

少年の背後に、あの男がゆらりと現れる。間違いない、親父だった。だが、あきらかに大きさがおかしい。身体の大きさが2m以上はありそうだった。

何かをぶつぶつと呟いている。俺を見る眼が、あの眼だった。完全に人間ではなくなっている。

「すこし前にここにきて、おとうさんをぼくはなんども殺したよ。なんども何度も。なぐられたのとおなじ位、ころしてやったよ。そしたら、お父さんがぼくのいう事を聞いてくれるようになったんだ」


目の前に大きく【FIGHT !!】の文字が浮かんだ。いきなり踏み込みがきた。親父の拳が俺のたるんだ腹に突き刺さった。息が出来ない。魚の様に口をぱくぱくとだらしなく涎をこぼしていると、目の前で親父があの頃の姿で笑っていた。


俺ガコンナ目ニ合ウノハ、全部オ前ラノセイダ、ザマアミロ



なんだこれは

何故、俺が死んだ親父と対峙して、しかも殴られなきゃいけない?

しかも、ここはどこだ?

何故、俺はここにいる?

何故、親父が目の前にいる?


「いっぱい浮かんでるね、はてなのマーク」

少年はくすくすと笑いながらその場で軽くステップを踏んだ。黒くて少し伸びた髪がさらさらと揺れた。

「このステージ、僕は結構好きなんだ。何より静かってところが良いよね。静かだって事は、泣き叫ぶ声なんかもすごく響いて良く聞こえるし。とはいえ、召喚したアイツは人を殴れりゃどこでもいいと思ってるだろうけどね」

「何を言っている?」

「ダメージ回復した?まだかな。それじゃ、最初だろうから良い事を教えてあげるよ」

少年はその場でくるりと身をひるがえすと、大きく手を広げて見せた。

「ここでの戦いは基本、殴り合いさ。僕たちの大好きな殴り合いだよ。ただし、ダイスの出目によっては付加能力が発動することもある。これに関しては僕が説明するのもおかしな話だから割愛するね。で、ライフゲージがゼロになったら勝負あり。ここ、メタバースでのデュエルは基本的には1本勝負。だから、デュエルで負けたらそれでお終い」

「も、もし負けたらどうなる?」

「負けた時の心配?だからダメなんだ。負け続けの人生とは、負けに対する慣れだよ。勝つ事への執念が無ければ、ここメタバースで生きていく事は不可能だ」

「メタバースってなんだよ?」

「質問が多いって事が褒められるのは、小学校の低学年までさ。あとは大体クラスの中でウザがられる」

「お前は俺、だろうが」

「つまり、アンタは僕って事だよ」

回し蹴りが飛んできた。俺は親父の放った右脚の蹴りで吹っ飛ばされた。砂利が辺りに散らばり、砂煙が上がった。親父が近づき、そして俺の胸ぐらを掴んだ。何かを叫んでいる。言葉にならない何かだ。朦朧としながら親父の顔を見ようと目を開けようとした。そこに拳が振り下ろされた。





それゆえに、父は子を食い、そして子は父を食らう。私はあなたに対して裁きを行い、あなたのうちの残りの者をことごとく四方の風に散らすだろう


旧約聖書 エゼキエル書五章十節より


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