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三泊四日  作者: 音樹える
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織部美紅の憂鬱

織部美紅は、悩んでいた。

最近、どうもトランペットがうまく吹けない。必死にブレスしているつもりなのに、全然息が足りていない。やっぱり駄目なのかな、私。楽譜は読めても音がでないんじゃ、何の役にもたてない。いっそ居ない方が皆の役に立てるのかもしれない。ついこの前も、

『全然吹けて無いじゃん。ちゃんと練習してるの?今後、これ以上の進歩が無い様だったら、その時には、今年入って来た一年生に席を譲ってもらうことになるよ。』

って言われた。

 決して練習をサボっている訳じゃない。時間数を数えれば、部活内で三本の指に入る自信がある。でも、何回練習しても、全然進歩がない。自分でも分ってる。じゃあ、どうしたらいいの。それが知りたい。

 いくら考えてみても、その答えは出てこない。今のままだと、自分は部活の足を引っ張るだけの存在になってしまう。だから、やっぱり私は・・・この部活に居ない方がいいのかな。

 

でも、そこには先輩がいる。部活に入ったら、いつの間にか好きになっていた、先輩。有岡先輩。お世辞にも格好いいとは言えないけど、先輩が必死になって後輩の世話をしている姿を見ていると、いつの間にか頭の中が真っ白になってしまって。あれって魔法なのかな。現実の世界に魔法なんて無いことは分かってるけど、まるで自分が魔法にかけられたような錯覚を感じることがある。今までろくに会話したことない・・・っていうか、恥ずかしくて面と向かって話せないけど、多分先輩には自分は無愛想な人だなって思われてるんだ。もし、私が先輩に、ありえないけど、告白・・・しないけど、したとして、返ってくる返事なんて、分かりきってる。君には、あまり興味が持てない。そう言われてお終いなんだ。


なんか男ってずるい生き物だと思う。女性の気持ちを簡単に踏み躙るんだ。その癖して、自分が振られると、途端に弱くなって、また近づいて来るんだ。ヨリを戻して欲しいとか、本当に愛していたんだ、とか言ってね。本当はそんなことちっとも思ってないのに。

亜由美は、先輩は残れって言われたら残るらしいって言ってたけど、例え残ったとして、何を目的に残るんだろうか。ただ吉君が気になるから残るっていうことなのかな。それとも、誰か思っている人がいるんだろうか、この部活に。だとしたら、誰だろう。やっぱり、同じパートの詩織先輩だろうか。はたまた、二年の誰か?いや、もしかしたら一年生の中にいるのかもしれない。このままもたもたしていて誰かに先を越されたら、私は立ち直れなくなる位落ち込むだろう。そうなることが分かっているから、なるべく早く実行に移さないといけない。やっぱり、自分から先輩に思いを伝えるしかない。隠れてたって時が過ぎていくだけだ。だから、自分の口から、面と向かって、先輩に打ち明けなくては。結果なんてどっちでもいい。それはもちろん、先輩から良い返事がもらえればそれはうれしいのだけれど・・・。

 そんなことを考えながら授業を受けていたら、いつの間にか六時限目が終わり、もう放課後の時間が近づいていた。あれほど眩しかった太陽の光も、今となっては大分傾いてきている。今日は、あまり乗り気じゃない。あまり部活に行きたい気分にならない。あんなにたくさんのことを一気に考えたのは、多分生まれてはじめてのことだと思う。なんだかもう疲れてしまったから、亜由美に適当な言い訳を言って、今日は帰ろう。それに、今日先輩の姿を見てしまったら、多分自分は鬱になってしまう。今日考えたいろんな事がずっと頭の中でグルグル回って、絶対演奏に集中できない。

 わたしって、なんでこんなに弱いんだろ。自分でも呆れちゃう位、弱い。今の自分の心は、ちょっと触っただけで、すぐにバラバラに崩れてしまいそうな気がする。

 ―――どうしたらいいんだろう。



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