一章 二部
学校に着いたのは朝のホームルームが始まる十分程前だった。僕は徒歩通学で二十分程通学にかかってしまう。二キロ離れている生徒は自転車通学が許可されるのだが、僕の家は残念な事に、学校から二キロ圏内にある為自転車での通学は許可されていない。しかしいつも思うのだが二キロ調度の人は、家から十分程で学校に着く事だろう。僕は徒歩で二十分、その人は自転車で十分……。
何かおかしくないだろうか?
僕はこの是非を争点にして、ゆくゆくは生徒会長選挙戦に打って出ようと考えている。必ずや多くの賛同を得られるはずだ。
多くの支持を集め当選し必ずこの学校の全権を握ってやるのだ。男たるもの権力をこの手に握りたいと思うのは当然の事だろう。
まぁ僕の同級生達はまだまだ、こんな事は考えていないだろう。生徒会長になりたいと考え始めた頃には、もう既に遅い。僕が綿密に中一こ頃から考え抜いたマニフェストの前にひれ伏すしかないのだ。
さて、何故僕が学校について早々このような事を考えているかというと。自分の机で、朝のホームルームが始まるまでの時間を弄んでいるからである。
朝だいたい十分前に学校に着くのだが僕は、クラスメイトと話す訳でもなく、自分の席でいつもこういった事を考える事が日課となっている。
別に僕は友達が出来ないわけではない。権力を握るためにはどうすればいいのかを一人で考えたいのだ。いわば自分の思考する時間を、大事にするための栄光ある孤立なのである。
ふと、僕は思考を止め教室を見渡すように顔を上げた。(僕の席は真ん中の列の最後尾であり、顔を上げると必然的に教室を見渡す事ができる)
僕の席から見て右前の方に男女の塊があった。その中心にいるのは誰であろう内藤である。内藤は自他共に認める、このクラスのリーダーへとなっていた(僕は認めた覚えはないのだが)。内藤がいるところには、人が男女共に集るようになっていた。クラスメイトの多くは内藤と友人であることを、一種のステータスと考えているようで、いかにあの輪の中に入るかという事を大事にしているようだ。
しかし、このクラスが全員内藤グループに属している訳ではない。内藤グループに属しているのは基本的にあか抜けている人達だった。クラスメイト達は内藤グループを一軍、それ以外を二軍と呼称している。
わずか二ヶ月程の間で、このクラスにも格差というものが生じ始めたのだ。しかし、ほとんどの生徒はこの事に、不満を持っていない。
それどころか、内藤グループ以外では「俺今日内藤君と話したぜ」「マジかよ!羨ましいな」「ふふふ、君達僕などここ三日毎日挨拶をしていうよ」などという会話が繰り広げられているのである。
これではまるで、内藤を王とした王国と、それに諂う属国である。
僕はこのような状況にも、そして何の違和感も感じていないクラスメイトにも正直吐き気がする。僕がこの学校の権力を手に入れた時には、このような格差を必ずや是正してみせる。
この状況を見て再度心に刻んだのであった。
と、こんな事を考えている内に、先生が教室に入ってきてホームルームが始まった。今日も僕は朝の十分間をしっかりと有効に使う事ができたのだった。