一章 一部
ピピピピッピピピピッ。
目覚まし時計がなっている。僕は枕元に置いてある目覚まし時計に手を伸ばし、スイッチを切った。時計の針を見るといつも僕がおきる時間の、7時を数秒過ぎたところだった。
僕は秒針が動くのを眺めつつ、眠りの淵から徐々に覚醒していった。頭が目覚めていくとともに、今日見た夢を少しずつ断片ではあるが思い出していった。
まったく何故今になってあの夢を見たのだろう。あの日からもう二ヶ月もたっているというのに。僕はミルキームーンが好きだし、あの発表をした事も、あだ名がM2になってしまった事も後悔していないはずなのに。僕の潜在意識があの出来事を、何か特別なものだと考えているのだろうか?
考えすぎか、そうか僕はあの時少なからず内藤に、嫌な感情をいだいてしまったのが原因か。全く僕もまだまだ子供だな。あの程度の感情を潜在意識下であるにしても、コントロールできないなんて。
僕は立ち上がると制服に着替えた。六月も中旬に入り、夏服へと移行されているので着替えにかかる時間はそんなに長くない。鞄も持ち準備万端。さぁこの扉をあけて一歩でたところから真宮寺聖夜としての一日が始まる。
部屋を出て階段を降りリビングに行くとねーさんの姿があった。彼女の名前は正美だ。僕の四つ年上で現在高校二年生ではあるが、母が父の単身赴任に付いていっているせいもあり、母代わりをしてくれている。母がいなくなって約二ヶ月。姉の母親代わりも徐々に板についてきたようだ。普通こういった雑務は面倒に思えるが、姉はなんだかんだ文句を言いながら、楽しんでやってくれているようだ。
「やっと降りてきた。早くご飯食べよう」
「ねーさんありがとう」
僕はそう言うと椅子に座った。ねーさんはご飯を注ぎ僕に茶碗を渡してきた。
「ありがとう」
僕は茶碗を受け取りながら言った。
ねーさんは僕に茶碗を渡し、自分の分も注ぐと席に着いた。
「「いただきます」」
ねーさんが席に着き、手を合わせるのに合わせて僕とねーさんは食事の挨拶をしたのだった。
おかずは焼きハムと卵焼きそして味噌汁だった。最初の頃味噌汁は、インスタントだったけれども、どうせならちゃんと私が作ると、とある日断言しそれから毎日味噌汁を自作するようになった。に電話をして作り方を聴いていたが、最初飲んだときは正直美味しくはなかった。けれども、今では母と遜色ない美味しさになっている。まぁ僕は自分の舌に、あまり自信がないので、世間一般に見て美味しいかどうかは分からないけれども。
食事中はねーさんと学校の事や、最近ワイドショーを賑わせている二枚目俳優の話などをした。
ねーさんと話しているうちに、食事は直ぐに終わってしまった。
食器を流しに持って行き、自分が使った食器を洗おうとすると……
「あぁ私がするからいいわよ。そこに置いておいて」
「あっいやでもたまには僕もこれ位するよ」
「いいのいいの。一人分やるのも二人分やるのもそんなに労力変わらないし」
「それなら僕がねーさんの食器も洗うよ」
「あー正直に言うわよ。今基本的に私が家事をやっているわよね?」
「うん。いつもやってもらっているから、たまには僕がしようかと」
「いや。私がやる分にはいいの。でも、私のやり方があるから他の人にやってもらうと、どうも調子が狂うっていうか、そうじゃないのに!って思っちゃうのよね。だから私がするの」
なんだそういう事か。女性というのは家事に対して、自分の確立したやり方というものを持っていると聞いた事がある。そういった事が原因で、嫁と姑はお互いのやり方を反目しあい仲たがいするとか。祝日の昼にやっていたワイドショーの司会者が、女性から相談を受けるというコーナーでそういう事を言っていた気がする。
「そうだったんだ。ごめんね」
そういう理由ならこのまま手伝う事は、逆に邪魔になるだろうと考た。
「あっいや別にあやまらなくてもいいんだけどね。まぁ自分の部屋の掃除はしてもらうけどね。そうしないと、勉強机の上から二番目の引き出しも掃除しちゃうわよ」
ねーさんは笑顔でそう言った。
ねーさんの笑顔に対して、僕も笑顔を返したのだが何故その引き出しの事を言ったのかを聞くのが怖くてさぞ、引きつっていたことだろう。
「はいはい、あんたは早く学校に行く」
食器を洗い始めていたねーさんに急かされ僕は、鞄を手に取り学校へと向かったのであった。