01-09.エピローグ
雲一つない青空を、清々しい気持ちでラァは見上げていた。
その青さとは対照的に、彼女は真っ赤な血溜まりの中で横たわっている。腹部は裂け、臓物がこぼれ落ち、その命は間も無く終わりを迎えようとしていた。
不思議と痛みはない。ラァはふと、先ほどのことを思い出して笑った。
アメヤと別れたあとのラァの胸には、いくつか決意があった。スゥへの復讐は絶対だ。散々いじめられた挙句、あのような忌まわしいことをされたらそのままにしては置けない。
あとは暴力で屈したのか知らないが、助けてあげたのにスゥの取り巻きとなって加担したヅェも同罪だった。
この左足がなくとも復讐は実行しただろう。しかし、あるのとないのじゃ大違いだ。
両足で立ってるならば負けるわけがない。
誰にも負けない速度で走り、片手じゃ上手く扱えない農具だって簡単に振り回せるのだ。
実際、畑の午後の作業中に鍬をもち追い回されたスゥは、自慢の黄色い髪を泥だらけにし、鼻水をたらし泣きべそをかきながら地面に伏して許しを懇願した。
その光景を見るだけでも胸のすく思いだったが、ラァはそれで許しはしなかった。スゥがラァにしたのと同じように、みなのいる前で鍬の柄を、下着をおろしたスゥの股間に突き刺してやった。
醜い悲鳴をあげ、白目をむいて動かなくなったスゥをみてやっと、ラァは彼女との長い戦いが終わったのだと安堵を覚えた。
近くで腰を抜かし、土のうえに座り込んだヅェもラァは見逃さなかった。鍬の柄で脳天を叩き、地面に伏したからだに柄を突きたてる。引き抜いた柄には血がべっとりとからみついていた。
ラァの暴力を目の当たりにし、その場は阿鼻叫喚の場と化した。
逃げ惑う子どもたちを避けながら、騒ぎを聞きつけた職員が畑に現れる。
最初にむかえたのは、ラァの股間を触った職員だった。
いまだになぜかはわからないが、言いようのない不快感を思い出し、ラァは鍬を無我夢中でふるった。
鍬の切っ先が鼻をえぐり、血がぼとぼとと溢れておちた。彼は悲鳴をあげ、無様に転げながらその場から逃げた。
すぐにほかの職員たちも駆けつけた。スゥにブドウを奪われたとき、横暴な判断をしたあの憎い男もいた。その男にねらいをつけて、鍬をふるう。致命傷にはほど遠いが、二発ほどお見舞いしてやった。
結果としては、やり返されてこの様だが、ラァに悔いはなかった。
理不尽のはびこる現実で、ラァは、妄想の世界に逃げることで己の心を守ってきた。けれど、それも繰り返せば心は磨耗して感覚は鈍くなり、楽しいことも悲しいこともわからなくなっていく。
だから、この復讐は正解なのだ。
ブドウの数だとか、生きるだとか死ぬだとか、そんなのはどうでもいい。
鈍くなった心でも、あの時だけは生きていると実感した。それがすべてだった。
視界はかすみ、もうほとんどなにもみえない。けれど、見上げた空は、どこまで澄んで、そこに変わらずあるのだと知った。
ラァは晴れやかな気持ちで瞳をゆっくりと閉じた。




