ネット
よく私達は、小学生に戻りたいというけれど、辛いことがなかったことはない、なんてことはないでしょu|
あ、これも主観か、と思いタイピングする自分の手を膝の上に戻し、自分の書いた文章を眺めていた。
なんて滑稽で馬鹿らしい文章だろうか、何を行っているかわからなくて支離滅裂、
伝えたいことが読者に伝わるように書いていない。ゴチャゴチャで読みにくくて感情が伝わってこない、そんな作品。
この作品はよくあるweb小説投稿サイトで開かれている大会に応募するために書き始めた小説だ。
こういうサイトに投稿し始めたのは今よりもっと若い頃で、今と同じように辛くて楽しかった頃のことだ。
その頃くらいの歳の頃を同じ年代の人はよく黒歴史だった、とか言うけれど、自分の過去を否定するのが許せなかったから、私はわかる、と一言いつも口にして話題を変えることに決めている。
周りの人がきっと黒歴史、共感性羞恥と言うような文章を幾度も重ねて、賞に応募しては敗れ、百位以内に入れた小説は途中で展開を纏めれず未完のまま放置し、どんどん落ちていく順位、その小説を再びブックマークから開いた日には羞恥心から衝動的に消した。
その歳の頃の私は今思わないようなことで悩んでいたと思う。
今もみんな忘れたらしいその悩みごとを今でも覚えていて、とっくに解決したこともあるのに辛さが消えない、未だに思春期のような鎖に囚われて、精神は幼い後悔をした時のままだというのに、「先輩」や「後輩」などの生きる中で手に入れた被り物を被って、打算と愛の中に溺れながら、ひたすらに大人を生きている。
そんな世界を文字にしてみたら案外ウケるんじゃないかと承認欲求のために懐かしいサイトを開いて、思い出したように以前のパスワードを入れてみたけれど「そのアカウントは削除されています」と出たので、変な笑いをこぼしてから新しいアカウントを作成した。
そして現在に至る。うまく文章を書こうとするが思ったことが書けない、もしくは世界に諦めたようなものでも綺麗事だらけな文章にならないからと諦めている。
「あ〜うまくいかない」
こんな事を言って怒られたのはいつだったかととぼけてから、少々前の学生の頃の夏を回想した。
「あ〜うまくいかない」
(ん?大丈夫?)
タブレットから聞こえるその声に大丈夫と返した。
(無理しないでよね)
「大丈夫だよ」
その言葉に慰められる自分と、そういう自分に慰めの言葉をかけてくれる友人がいる優越感と、そんな自分に嫌気が差す心でぐちゃぐちゃな絵の具のようになりながら、見えないだろう笑顔を浮かべて声を弾ませた。
身になるかもわからないような会話を共通の趣味でネットで知り合った友人にこぼした。
雑に笑って泣いて、依存したその夏は、未だに続いているけれど皆他のものも増えてって、やがてみんな私達だけのものじゃなくなっていく、
楽しいのに孤独な現在から逃れるように回想したそれをずっと眺めていた。
ネットは危ない、悪も善もなんでもいる、身をさらけ出すことも身ぐるみをかぶることもできる。
それから目を逸らして、私は最初の頃よりスピードが落ちて遅くなった文章を眺めて、飛び飛びの思考を放置し投稿ボタンを押した。