第1話 あの朝、マイクの前で止まった
こんにちは、こんばんは
はじめましての方、そうでない方、よろしくお願いします
僕は作家というか、情報発信者なので、その視点での作品です
稚拙な文章で申し訳ないですが、狙いはそれなりにあります
作品裏話は公式サイトで公開していきますので、そちらもチェック!
URLは最後にあります♪
小さな地方都市。新しい市政プロジェクトとして導入された「AI作文コンクール」。
中小企業で働くシングルファーザー・日野遼は、小学5年生の娘・ひよりが金賞を受賞したことに喜びを感じながら、家族で穏やかな朝を迎えていた。
しかし、その日の全校集会、発表直前に突如告げられる「発表中止」の連絡。
体育館に集まった子どもたちと保護者を前に、言葉は遮られ、光だけが残った──。
制度と現場のすれ違い、そして、消されかけた子どもの声。
すべてはここから、始まった。
朝の光は、カーテンの隙間から遠慮がちに差し込んでいた。
テーブルの上には、義母が作った味噌汁の湯気が立ち、炊きたてのご飯がふっくらと湯気を上げている。
「ほら、冷めるで〜」義母が、やさしくも容赦ない声で促す。
「へーい」とひよりが返事をし、勢いよくトーストをかじった。
……トースト。遼は心の中でツッコミを入れた。
(なんで和食にトーストやねん……)
「洋和折衷スタイルだな」
思わず口にすると、義父が新聞から顔を上げて「ワシらの若い頃はなぁ……」と長話を始めそうになり、義母が「そんなんええから、早う食べ」と一喝した。
ひよりはケラケラと笑い、牛乳を飲みながらテレビのニュースに釘付けになった。
「パパ!今日って最高気温、26度だって!体育館、死ぬかも!」
「ひより、それは“汗だく”の予告だな……」
遼は、コーヒーをすすりながら苦笑した。
こんな何気ない朝が、どれだけ尊いものなのか。
遼は、心のどこかで噛みしめていた。
今日は、特別な日だった。ひよりの作文が、学校で発表される日。
それだけで、遼たち家族は、どこか浮き足立っていた。
「なあパパ。今日さ、オレ、スターになるかもよ?」
トーストのかけらを口の端につけたまま、ひよりがウィンクしてきた。
「おう、サインの練習しとけ」
「えへへ、『世界のひより』って書いたろかな」
遼はふと、隣にいない誰かのことを思った。──美咲。
もし生きていれば、今日の日をどれだけ喜んだだろうか。
けれど、遼は笑顔を崩さなかった。
義父母の前で、ひよりの前で、絶対に。
義父が、新聞をたたみながら小さく呟いた。
「……楽しみだな、ひより」
「うん! ばあばとじいじにも聞いてほしいし!」
カラカラと笑うひよりの声が、遼の胸の奥にあたたかく沁みた。
この平穏を、守りたかった。
たとえどんなことが起きても。
体育館前に着くと、思った以上の人だかりに遼は目を細めた。
おかしい。たしかに今日は「校内発表会」と言っていたはずなのに、やけにスーツ姿の大人が多い。
「え、え、パパ、なにこれ? もしかして私、有名人?」
ひよりが腕を組み、得意満面で胸を張る。
「そらお前、“世界のひより”だからな……」
遼は苦笑いしつつも、周囲のざわつきに目を配った。
「校長先生、来賓席の調整、もう一回お願いできますか!」
「広報課の方はあちらへ!」
職員たちの声が飛び交い、バタバタと動き回る。
教頭の村井が、額に汗を滲ませながら手帳をパラパラとめくっていた。
(なんか、ただの校内行事の空気じゃないな……)
遼は胸騒ぎを覚えたが、表情には出さなかった。ひよりは、まだ無邪気に隣で笑っている。
その笑顔を、曇らせたくなかった。
場内に案内されると、体育館の舞台には「市主催 AI作文コンクール 校内発表会」の横断幕が掲げられていた。
──あれ? 市主催?
遼は眉をひそめた。校内コンクールじゃないのか?
昨日もらった案内状には、そんなこと一言も書かれていなかったはずだ。
「あっ!パパ、見て見て!」
ひよりが指さした先、舞台の端に赤く点灯したランプがあった。
「わー、なんかかっこいいね!発表会って感じ!」
遼は微笑みながら、ふと嫌な予感を覚えた。その赤いランプは──
まるで、何かを監視しているかのように、じっとこちらを見ているようだった。
(……なんであんなに派手に点けっぱなしなんだよ)
学校行事で使う機材にしては、やけに業務用っぽい。
もしかして、行政のほうがガチガチに介入してるのか。
だが、そんな不安を吹き飛ばすように、体育館にチャイムの音が鳴り響いた。
そして、司会の教員が壇上に立ち、発表会の開始を告げた。
「本日はお忙しいなかご来場いただき、誠にありがとうございます。本日の司会を務めます、木島です──」
穏やかで、澄んだ声。
(たしか支援学級の先生だったかな?)
それだけで、なんとなく少しだけ安心する。
遼は、隣で目を輝かせているひよりを見た。この子のために、今日はいい思い出になる一日にしたい。
心から、そう願っていた。
それが、あんな結末を迎えることなど、
このときの遼は、まだ知る由もなかった。
壇上では、子どもたちの発表が次々と進んでいった。
元気よく意見文を読む子。緊張で声が震える子。
どの姿も、それぞれに輝いていた。
ひよりは、自分の順番を待ちながら、そわそわと足を揺らしている。
手に持った原稿は、すでに指で折れ曲がっていた。
(大丈夫、ひよりなら、きっと)
遼はそう思いながら、小さく親指を立てて娘にエールを送った。
ひよりは、にっこりと笑い返す。
だが──
ふと、壇上の司会・木島の手元が、不自然に止まった。
「……続きまして、五年生の……」
言葉が途切れる。
木島の視線が、控室のほうへ泳いだ。
そこには、額に汗を浮かべた教頭・村井の姿。
そして、その手には──遼の目にもはっきりと見えた。
一枚の、折りたたまれたメモ。
木島は、メモを受け取ると、顔を強張らせ、もう一度マイクに向き直った。
「……次の発表は、都合により中止とさせていただきます」
──え?
体育館が、ざわめいた。
ざわめきが、波紋のように広がった。
遼は、頭が真っ白になった。
隣に座っていたひよりが、ぽかんと口を開けている。
(なぜ……?)
控え室側では、村井が木島に小声で何かを伝えている。マイクの電源ランプが、赤く点灯したまま──
音だけが、すっと、消えた。
まるで、誰かが、「言葉を発するな」と命じたかのように。
一瞬だけ、照明がチラついた。
暗い体育館に、静かな無音だけが、重く降り積もる。
そのとき、遼は見た。赤く点灯した監視ランプ。
それはあたかも、体育館中の“沈黙”を記録しているかのように、じっと、冷たく輝いていた。
「パパ……わたし、ダメだったの……?」
かすかな声が、隣から聞こえた。
遼は、ただ無言で、ひよりの手を握りしめた。
彼女の手は、小さく、震えていた。
あの作文は──ひよりが、自分の手で、AIと一緒に書いたものだった。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
小説以外にもいろいろやってますので、よかったら見てください。
教育関連の総合情報ネットをめざしています。
マスコットキャラのlineスタンプなんかも作ってます(笑)
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