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3:板橋

成剛の咄嗟の機転で女性が救われた。


これに関しては率直に評価しなければならないだろう。

普段から頓珍漢な事を言っている奴だが、ここ一番という時には力を発揮してくれる。

少なくとも成剛と一緒にタイムスリップできたのは僥倖ぎょうこうというべきか……。


ふと、成剛を見てみると逃げ出した悪人の一人が落としていった紙入れを手に取り、中身を漁ってウキウキしていた。


おい。


さっきのイイ感じに評価していたのを一気に無に帰すような真似をすんな。


「牧夫!見て見て!悪人の財布、ゲットだぜ!」

「俺が女性の治療を施している間にちゃっかり紙入れまで取るなよ……」

「だって見てみろ牧夫、この紙入れに小判三両も入っているぞ!」

「紙入れに小判三両?結構な大金なのか?」

「この時代の為替レートで一両=10万円と考えれば分かりやすいと思うぜ!」

「あー。じゃあ紙入れに30万円入っているようなものか……」

「しかも中に入っていた享保小判だから比較的「金」の保有量もあるから取引相場では40万から120万円で取引されているんだ!現代ならこれだけで一年間の学費賄えるぞ!」

「わぁーお、現代人ムーブをこの時代の人に咬ますのはやめーや。女性の目がテンになっているだろ」


現代人であることを隠さない成剛の姿勢はまさに「ブレない」の一言に尽きる。

それでいて、女性はそんな成剛の様子を見て口を開けてポカーンと面食らったような顔をしている。


「あ、あの……随分と成剛様はハツラツな方なのですね……」

「すみません、アイツ……いえ、成剛は気分が高揚するといつもあんな感じです。あ、俺の名前は牧夫です。気軽に牧夫と呼んでもらって構わないですよ」

「申し遅れました……私は”みや”と申します……」


みやと名乗る女性の傷口を消毒した上で絆創膏を貼り付ける。


とりあえずは、簡単な応急処置ではあるがこれで問題ないだろう。


みやさんは乱暴な事をされる直前だったが、身体の部位に傷を付けられてはいなかったので間一髪と言ったほうが良かったかもしれない。


もし、成剛の咄嗟の判断が遅れていたら……俺たちがみやさんを発見するのが遅れていたら今頃この人は……いや、これ以上それに関して考えるのは控えよう。


みやさんは戻ってきた成剛と俺に向かって地面に頭を擦りつけるように平身低頭で俺たちに何度も感謝してくる。


「ありがとうございます……成剛様、牧夫様……本当に、本当に……うぅうううっ……」


一方間違えたら乱暴された挙げ句、口封じに殺害されていた可能性もある。


それだけにみやさんからしてみれば恐怖だっただろう。


緊張の糸が解けたのか、大粒の涙を流しながら感謝していた。


「成剛様、牧夫様……!本当に、本当に……!!!この御恩は一生忘れません!!!」

「いえ、お嬢さん……当然のことをしたまでですよ……この成剛、女性に狼藉を働く不届き者は成敗(チェスト)すると心に誓っております故……みやさん、そう頭を下げられているとこちらが困ってしまいますので顔を上げてください」


成剛がそれとなくみやさんから詳しい話を聞きたいがために、顔を上げてほしいとお願いをした。

みやさんがようやく顔を上げてくれると、かなり美人だった。

小顔ではあるが、それでいて整った顔立ちから現代人である俺らにも通用する程だ。


彦七達がみやさんをお茶代を出して口説こうとしていたのも頷けてしまう。

もし、ここでインスタをはじめとした「映え」を重視するSNSアプリが通信できるのであれば、確実に「いいね」の高評価ポイントが瞬く間に殺到するんじゃないかと思えるぐらいの美人であった。


これには思わず成剛が……。


「うむ……可憐な人だ……」


と、早速アプローチをかましていたので、後ろからツッコミを入れてしまったほどだ。


「おい、見惚れるのもいいけどまずはここが何処なのか聞くのが先だろう?!」

「おっとそうだった……ん”ん”っ”……お嬢さん、ここの場所は知っている場所ですか?」

「えっ……でもお連れの方がいらっしゃるのでは……?」

「ああ……さっきの事でしたら一旦忘れてください。多分幻聴です」

「幻聴で済まそうとするなよ……すみません、我々はこの場所を知らないのです」

「えっ……ご、ご存知ないのですか?」

「うむ……生憎、私の知っている場所ではないですからね……みやさん、貴女は大都会のど真ん中で起きたらいきなり竹藪に囲まれるなんて狐に包まれたような話を貴方は信じますかな?」

「ちょっと成剛、みやさんが困るだろそんなラブストーリーが突発的に起こったかのような説明だとさ……本当にすみません、俺たち本当にこの場所を知らないのです……ここが何処かご存知でしょうか?」


成剛のせっかく上がった人徳としての株がFX暴落時の時のように急降下していく中で、俺はみやさんにこの場所が何処なのか尋ねることにする。


信じたくはないが、嘘を言っているようにも思えないし、先程の彦七達の言動や行動を見るに本当にタイムスリップしてきたのは間違いない。


みやさんはゆっくりと口を開いて語った。


「はい……ここは……板橋でございます」

「板橋……というと、王子稲荷神社はご存知ですか?」

「ええ、昔からある有名な神社ですよ……今日はうまの日で縁日をやっていますので……それで遊びに行こうとしたら先ほどの人達に絡まれたのです……」

「成程……こよみは分かりますか?月と元号を教えてもらえると助かります」

「月は皐月です。暦は……安政でしたけど桜田門外の変があって暦が変わってしまったんです……えっとたしか……」

「……万延まんえんですね……西暦で1860年……旧暦の皐月だから一か月遅れていて……だいたい6月13日か……」

「成剛、ということは俺たち西暦1860年6月13日にタイムスリップしたって事か?!」


西暦1860年で桜田門外の変が起こったといえば、江戸時代も末期だろう。

これから薩英戦争が起こったり、幕府内の体制が揺らいだ末に大政奉還が起こって江戸幕府は幕を閉じる。


江戸から明治へ……日本の激動の時代となる時まで、あと7年……。

成剛はその事実を確認するため、スマートフォンを使って暦の計算をしている。

何度か計算を終えた後、今の暦があっていることを告げている。


「おおよその計算だがそういうことになるな……タイムスリップは成功だ!」

「なにが成功だよ……さっきまでいたのが202X年6月13日だから……丸々160年以上の歴史を遡った事になるじゃないか……」

「まぁ、元の時代に帰るよりもだ……牧夫、これから忙しくなるぞ……」

「ん?何が?」

「戊辰と明治になるまであと7年ぐらいしか時間がない。それまでにハーレム体制を確立させるためにも行動しなきゃ……」


なお、成剛はハーレムを諦めていないようだ。


どんだけハーレムを作りたいんだこいつは……呆れるというよりも、ここまで意気込みを語っていれば、逆に目標が出来るからマシとすら思えてきた。


「全く……まだハーレムを諦めていないお前の精神力を見習いたいよ」

「んんっ……まずは拠点の確保だ、そこから始めるぞ……」

「拠点……?」

「みやさん」

「は、はい……?」

「すみませんがまず宿か長期滞在できる場所を知っておりますか?生憎、これぐらいしか身元を証明できるものがなくて……」

「宿……あの、宿でしたら私の働いている場所で良ければ滞在できると思いますが……ただ、そこは飯盛旅籠めしもりはたごでして……」

「おおっ、そこでも構いません!是非ともお願いします!!!」


成剛は頭を下げてみやさんにお願いをしている。


その一方で、みやさんは顔を赤くしてソワソワしている。


飯盛旅籠って……普通の宿じゃないのか?


そんな疑問を抱きながらも、俺と成剛はみやさんにお願いして彼女の勤めている飯盛旅籠という場所に向かうのであった。

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[気になる点] みやさんが働いているのは「飯盛旅籠」ですか!? というとみやさんは「飯盛女}なんですか?! え~!?
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