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2:誰だお前は?!

俺と成剛が駆け寄ると、そこには着物を着た女性が4人の男達に羽交い締めにされている現場に出くわしたのだ。


何ということだ。


これは確実に女性が襲われている現場だ。


「いやぁっ!やめてッ!やめてくださいっ!」

「おいおいお嬢ちゃん、お茶代を出してあげたのに、この彦七ひこしち様の言う事が聞けないというのがおかしいのだよ……おい、暴れんように捕まえておけ」

「「へい!」」

「さぁてさぁて……お楽しみはこれからだぞ……一番はこの俺だ」


うーん、まるで時代劇を専門に取り扱っているチャンネルでしか見たことがない格好をした男に、今にも着物がはだけそうになっている女性……。


助けなきゃいけないのは確かだが、どうやって助ける……?


成剛と一緒に飛び掛かって女性を助けるか?


いや、それだと万が一逆上した奴が女性に危害を加える恐れが……。


どうやったら女性を考えていると、突然成剛が大きな声で笑い始めたのだ。


「ハハハッ……ハハハハハハハッ!!!!!!」


突然大声で笑い声が竹藪の中に響き渡り、これから女性を襲おうとしていた彦七やその手下と思われる男達も思わず固まってしまっている。


お前一体何を考えているんだ?!


「なっ、誰かいるのか?!」

「おい、そこにいるのか?!」

「くそっ、楽しみを邪魔するんじゃねぇ!!!」


男達の視線が俺たちの隠れている茂みに向けられる。


すると成剛がゆっくりと立ち上がった。


成剛の姿を見ると、右手にはスマートフォンを取り出しているではないか。


えっ、ちょっと何をするの?


成剛は彦七に睨みつけるような目線をしたまま、ゆっくりと歩きながら彼らに近づく。


「こんなところで狼藉を働くとは……しかも昼間から、他にやることがないから襲っているのか?」

「てめぇには関係ないだろ!何様のつもりだ!」

「第一、おめぇの格好なんなんだそれは……歌舞伎モンじゃねぇけど……」

「おうおうおう……俺たちに喧嘩を売るっていうんなら容赦しねぇぞ?」

「お前たちは俺を誰か知らぬようだな……誰に向かって口を聞いているのか、後悔することになるぞ?」


成剛はそう言ってスマートフォンを取り出す。


そして、成剛は図太い声を出しながら竹藪に響き渡る程の大声で叫んだ。


「何を隠そう、私は将軍様に仕えている高峰成剛という者だ。私に歯向かうというのであれば、それは徳川家に歯向かうことになるぞ!!!」

「「「「「な、ナニィ~~~ッ?!」」」」」


スマートフォンに映し出されているのは徳川家の「丸に三つ葉葵」……余に言う徳川葵と言われている紋所であり、それもかなり綺麗な紋所を描いたイラストをスマートフォンで映し出したものだ。


スマートフォンというのもさることながら、徳川家の紋所をいきなりドーンと突き出したことにより、彦七やその一味はかなり面食らったような顔をしている。


正直言って、俺も面を食らっている。


お前は将軍様に仕えていることなんて一度もないだろ!ハッタリも良い所だ!


第一、こんなの時代劇を題材にしたドラマや映画でしか見たことがないわ!


当時の人……というか、江戸時代の人に効くのかどうかと問われるならば、成剛のやり方は一定の効果を発揮していた。


「ばっ、バカな……高峰成剛なんてヤツの事は聞いたことがねぇぞ!」

「でっ、でも彦七のダンナ……あの紋所は間違いなく徳川葵ですぜ……」

「そっ、それにあんな珍妙な板にくっきりと紋所があるなんて……ありゃ、幕府の重鎮にしか配られていない印籠かもしれません……」

「それじゃあ……あの印籠は本物なのか……」


当然のことながら、印籠いえど将軍家……特に徳川家の関係者を偽った場合は極刑に処される。


国のトップたる徳川将軍関係者だと言いふらして狼藉を働けば、本人のみならず家族も連帯責任として処刑されるだろう。


すでにとんでもない事を成剛はやらかしているにも関わらず、本人は誇らしげな表情で彦七達に一歩足を歩んでスマートフォンに映し出される葵の紋所をまじまじと見せつける。


「この紋所が見えぬのか?まさか徳川家の紋所を知らぬとは言わせぬぞ?」

「な、なんじゃ……そ、そんくらいは知っとるわ」

「だっ、だがこんな薄い板みたいな印籠なんざ見たことたぁねぇ……」

「そ、そうだ!これはハッタリだ……そうに決まってる……」


明らかに動揺している彦七達。


彼らに追い打ちをかける事態が発生する。


突然、スマートフォンから大音量で声が流れだしたのだ。


『成剛様ーッ!成剛様ーッ!!!』

「おう!俺はここにいるぞ!!!」

「なっ、だ、誰かまだいるのか?!」


成剛は大声で返答しているが、あれは恐らく事前に録音した音声だろう。


スマートフォンを大音量で流したとはいえ、それでもある程度離れた距離からなら、誰かが話をしている程度の声に聞こえる。


成剛はそれを利用したのだ。


ましてや、ここが江戸時代ならばスマートフォンなんて電子端末そのものすら発明されていない。


尚更、成剛が事前録音した音声を流したことで他にも仲間がいると錯覚するには十分だ。


『成剛様!!!そちらにいますか?!すぐに参ります!!!』

「おう!さぁて……貴様ら……仲間が駆けつけてくればお前たちなんぞ一網打尽だ……どうする?ここで素直に手を引くか……それとも俺の部下に斬り捨てられるか……好きなやり方を選べ……」


もうすぐ仲間がやってくる。


彦七達はそう悟ったようで、リーダー格である彦七は駆け足で逃げていく。


「ええいっ、ずらかるぞ!!!」

「あっ、待ってくれよ彦七のダンナ!!!」

「置いていかないでくれっ!!!」


女性を襲おうとしていた彦七と、その仲間たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出してしまった。


仲間の一人は相当慌てていたのか、なんと小判の入った紙入れまで落としてしまっているではないか。


流石に他の人間が駆けつけて来たと思えば、逃げ出すのは当然か……。


彦七たちが去ったあと、成剛はスマートフォンをポケットの中にしまうと、女性に駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「は、はい……あの、本当にありがとうございました……」

「いえいえ、これもハーレムの為ですから……」

「は、はーれむ?」

「いえ、自分の目指している志の意味を込めた南蛮由来の言葉です……おーい、牧夫も来てくれ。ちょっとこの人怪我しているから消毒液出してくれ」

「全く、いいところ取りを独り占めして……見ていて肝を冷やしたぞ……あとハーレムを南蛮由来の言葉だけどちゃんと意味を教えて差し上げろ」

「ふふふっ、さっきの俺かっこよかっただろ?」

「危なっかしくて見ているこっちが肝を冷やしたわ……さっ、消毒液を掛けますので傷口を見せてください」

「あっ、は、はい……!」


遠巻きから見ても冷や冷やしっぱなしだ。


ツッコミも入れていたが、他にも彦七の仲間がいたら俺たちが確実にやられていただろう。


とはいえ、成剛の機転によって一人の女性を救ったのは事実だ。


俺は女性が彦七に襲われた際に出来た切り傷に消毒液をかけながら、簡単な怪我の応急処置をしたのであった。

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