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11:探し物はなんすか

「さてと……落し物を探すとしても、一部屋当たり3分間しかないからな……急いでやるぞ」


遊女と男が一晩過ごした部屋だけに、周囲にはそれ相応の散らかしがあった。


事を済ませたのだろうか、部屋には独特な匂いが漂っており、俺が落し物を探す間にも、匂いは思っていた以上にツーンとくるものだ。


おまけに、現代のような電球やLEDライトはなく、部屋の光源は行燈のみだ。


この状況で3分間の間に落し物を可能な限り探して回収する……手代の仕事とはいえ、中々ハードな事を推し進めているな。


「さてと……ん?これは……」


早速布団の枕元で見つけたのは、長方形の形をしたモノである。


行燈の近くで確認してみると『一分銀』と書かれており、お金であることが分かった。


「おっ、早速一分銀を回収してと……これはお客さんのものかもしれんが、基本的に財布の中に入っていないからなぁ……立証は難しいとはいえ、しっかり落し物として報告するか……」


手癖の悪い人間なら、こうしたお金を盗んでしまうケースが多いようなので、ある程度信頼できる人物か見極めるためにこうした点検で見極めるようだ。


一分銀以外にも、花札やサイコロ……それに簪が1本落ちていたので、おそらくこれらは七本屋の備品である可能性が高い。


3分間の間に部屋の隅々まで調べてから、廊下に置かれている箱の中に遊女ないしお客さんの私物と思われるものを入れていく。


各部屋の前に箱があるので、その箱の中に入れていくだけでいい。


乱雑に入れないように、しっかりと一つ一つ丁寧に入れていく。


これを残りの部屋も同様に回収していく。


中には相当派手に遊んだのか、布団がかなり湿気でムンムンしている部屋もあり、割とこうした部屋の後片付けをしているホテルの客室清掃員の人達の苦労が良くわかる。


(これも布団の敷布を含めて洗うんだろうなぁ……これを洗ったり片付けをしたりするんだろうな……)


いつの時代も、掃除の人は大変なのだ。


ゆりさんが定めた四刻半までに、俺と成剛は十六の部屋に入って落し物を回収したのであった。

すでに成剛のほうが先に回収を終えていたようで、俺が終わるのを待っていたようだ。


「よし……牧夫も四刻半までには間に合ったな」

「成剛は早いな……俺よりも早く終わったんか」

「まぁ、3分間であったとしても、大抵落としていきそうな場所は分かるからな」

「御二人とも、落し物を回収するのは終わりましたか?」

「ゆりさん、只今終わったところです」

「分かりました、どれ、ちょっと回収が出来ているか確認致しますよ」


回収を終えた後、ゆりさんが回収をし終えた部屋をチェックをしている。

それぞれ部屋の片隅まで確認をし終えると、満足そうに笑みを浮かべて頷いた。


「ふむ……しっかりと落し物を回収したようですね……いいでしょう。これからは朝の落し物を回収する作業を御二人にお任せします」

「「ありがとうございます」」


どうやら、俺も成剛も問題ないと判断されたようだ。


それからは、奉公人や丁稚の出番である。


遊女たちのお客さんをお見送りした後は、彼らが遊女たちが使っていた部屋の清掃を行うのだ。


「ほれ、これから部屋の片付けを行いなさい。布団の敷布は洗い、汚れている布団も洗っておきなさい。それが終わったら箒で畳を払っておきなさい」

「「はい」」

「半兵衛、ここの行燈の火を消して油を付け加えておきなさい。ちゃんと火が消えないようにするんだよ」

「はい、女将さん」


昨日会った半兵衛君も、ゆりさんの指示の下で油差しを行っている。


行燈の中の油は菜種油を使っているようで、香りもそこまで気にならない。


この朝掃除が終わったら朝食なのだそうだ。


窓の外から朝日が差し込んできているので、今は午前5時ぐらいだろうか。


「これが終われば朝食か……そういえば、女性たちは朝ごはんは食べないのか?」

「ん?知らんのか牧夫、大抵の遊女はこのまま布団に入って二度寝をするんだぞ?」

「へー……つまり、これから5時間ぐらい寝るって事か?」

「まぁな。考えてもみな、朝帰りで相手を見送るまでは仕事として成り立っているわけさ……つまり、実質的な遊女の睡眠時間は4~5時間程度だったんだよ」

「マジか……思っていたよりもブラックやな」

「まぁ、そもそもこの職種事態が、ブラック労働だったからな……俺たち改善できるように仁十郎さんにアドバイスを挙げておくのも悪くないんじゃないか?」

「そうだな……後で仁十郎さんと話す際に、その事も触れておくか……」


遊女たちはこれから自分達の部屋に戻って二度寝を行い、昼四つ(午前10時頃)まで寝ていくようだ。


相手をして、且つ一日の平均睡眠時間が5時間となれば、当然身体を壊してしまう人もいるだろう。


俺たちは奉公人や丁稚が掃除が終わるのを見届けるまでは、持ち場で待機し、ゆりさんと一緒に部屋の掃除がキチンと出来ているか確認次第、朝食を食べることになる。


「……よし、こっちの部屋は大丈夫です」

「ここも掃除が済んでおります」

「よし、それではこれから朝食の時間となります。こちらにいらして下さい」


ゆりさんのチェックを終えて、いよいよ朝飯の時間だ。


それぞれの部屋の掃除のチェックを終えたのが朝六つ……腕時計で朝の午前6時頃であった。

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