「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品シリーズ
三年目の体育祭
ハルちゃんはかけっこが大好き。
走ると楽しくなってたくさん笑う。
お日さまみたいなハルちゃんの笑顔から妖精が生まれた。
ちっちゃなひだまりの妖精。
ハルちゃんが行くところいつもひだまり。
だからハルちゃんはいつも笑顔。嬉しくって妖精も笑顔。
中学生になったハルちゃん。
とても楽しみにしていた初めての体育祭。感染症が流行して中止になった。
ハルちゃんは悔しくて泣いた。妖精も一緒に泣いた。
その翌年もまた、体育祭は中止になった。
ハルちゃんは悲しくて泣いた。妖精も悲しんでいるハルちゃんを見て泣いた。
ハルちゃんは中学三年生になった。
とうとう念願の体育祭が行われることになった。
ハルちゃんは嬉しくて嬉しくて、泣きながら笑った。妖精もまた泣きながら笑った。
『週末は荒れた天気となるでしょう』
天気予報が無情に告げる。
ハルちゃんがあんなに楽しみにしている体育祭。
「ママ……私がなんとかするから泣かないで」
ひだまりの妖精は小さな羽根を広げて真っ暗な空へ向かう。
妖精には、ひだまりを作るくらいの力しかない。
分厚い雨雲はビクともしなかった。
妖精は泣きたくなったけれど、ハルちゃんのためなら力が湧いてくる。
「お願いお日さま、私に力を貸して。ママが笑ってくれるなら、私は消えてしまってもかまわないの」
雲が割れて一筋の光が差しこむ。
「ありがとう」
妖精は無数の光の粒となり、乱反射した太陽光が雲を消してゆく。
「よかった……ママ……大好きなママ……」
最後の雨雲とともに光の粒が消えた。
「お母さん!! 空を見て、晴れたんだよ、きっと体育祭やるよね?」
「あら本当ね、予報は雨だったのに? どうしたのハル?」
突然泣き出したハルちゃんに驚くお母さん。
「ううん、何でもないの。おかしいな……とっても嬉しいはずなのに涙が止まらないの」
中学最後の体育祭。空には大きな虹がかかっている。
ハルちゃんは誰より一生懸命楽しんで、誰より元気に走り回った。
ひだまりはもうないけれど、みんなを明るく照らす光になった。
「やったよお母さん、うちのクラスが優勝だよ」
ハルちゃんが笑った三年目の体育祭。待ち望んでいた心からの笑顔。
知ってるかい? 妖精はとびきりの笑顔から生まれるんだ。
ほらごらん。
「ママ、また一緒だね、ママ」
「お母さん、何か言った?」
「ううん、何も」
「そう、たしかに聞こえたんだけどなあ?」
ハルちゃんはいつも元気いっぱい。まるでひだまりみたいって評判の女の子。




