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テイマーだったけどモンスターと戦うのしんどいのでダンジョンマスターになります

異世界ファンタジーでパーティ追放系のテンプレっぽい導入するけどざまぁ系ではないです


モンスターテイマーというのは、器用貧乏で戦力維持にコストがかかる不遇職である。その上、私は人付き合いが苦手だったという事もあって、パーティから解雇通告をくらった。まあ冒険者向いてないかもなぁ、とは薄々思っていたので、粛々受け容れて実家に帰ることにした。

故郷の村近くには、古代の文明によると思われる迷宮がある。モンスターが巣食っていたりするが、村の子供は大体テイマーなので遊び場にしていた。といっても、ごく浅い階層だけだが。私も例に漏れず、よく迷宮の二層目で相棒と遊んでいた。奥まで潜ったことはない。特に用事もなかったので。

「でも、グリンならともかく、メリルが迷宮の奥に自分から潜ろうとするとは思えなくない?そんなやんちゃなタイプじゃないっていうか。フォルティもそう思うでしょ?」

何かしらの事故で落ちたという可能性もあると相棒は言う。成程、ありえなくもない。

まあそういうわけで日が暮れても帰ってこない村の子の捜索に加わり迷宮に入ったわけである。ちなみに村の外の方を探しに行った人が三分の二だ。メリルもテイマーなので、最悪彼女の相棒と何処かに隠れているだろう。その場合、迷宮内なら雨風をしのげるが、野外だとそうもいかない可能性があるし、悪い人間だとテイムできない。外の方が危ないのだ。

見つかっても見つからなくても二刻したら一度集まると決めて皆バラバラに捜索を始めた。テイマーは最低でも一体モンスターを連れているので人とバディを組む必然性がないのだ。捜索対象が子供だから大人なら物理的に連れ帰れないことは余程ないし。

私の連れているモンスターで村を出る前からの付きあいなのは相棒だけだからか、他のモンスターは緊張した様子で辺りを警戒している。いや、そうでもないのもいるか。

「ディア、興味深いからって一人でぶらぶら離れていったら駄目だからね」

『心配しなくてもトリルが呼んだらすぐ駆けつけるさ。君は俺の契約者だからね』

「そういう問題じゃないんだよなぁ…」

ディアは人を怖がらせるタイプのモンスターなので子供を怖がらせたら困る。否、侮ったら拙いタイプのモンスターをなめたら拙いから甘い対応をさせるつもりもないのだが。自衛大事。

ともかく、迷宮内を捜索する。テイマーは自分の気配をモンスターに寄せることで敵対状態にないモンスターとの戦闘を避けることができる。子供はできる子とできない子がいるが、できていれば何処かで静かに隠れているだろうし、できなければモンスターが平常でないだろう。そういうわけで、こちらも気配を消してモンスターに異変がないか注意しつつ見て回るわけである。

「それにしても…痕跡が全然見つからないんだよなぁ」

探知しようにも触媒がない。まあ探してるの私一人じゃないし、誰かは見つけられるだろうとは思うが。

『おや。トリル、これはどういう仕掛けだい?』

「は?ディア、なんか勝手に変なものを弄るのは」

言いながら駆け寄る途中で地面が無くなった。

『あ』

宙に投げ出された私に相棒や他のモンスターたちが駆け寄ってくる。が、落下は止められず、私達はまとめて下層に落下した。



「あたた…みんな、大丈夫?」

モンスターたちから口々に無事との報告が返ってくる。ふわりと目の前に降り立ったディアが神妙な顔をした。

『怪我は…ないようだな』

「フォルティが咄嗟に庇ってくれたからね…浅層は子供の遊び場と化してるといっても、迷宮には変わりないんだから迂闊なことはやめてよね」

相棒も多少かすり傷などはあるようだが、深刻な負傷はないようだ。逸れた者もいないようだし、一安心。

どの程度落下したのかはよくわからないが、潜ったことのない階層なのは確かだ。といっても、私は精々三層目までしか行ってなかったし、この迷宮が何層あるかは知らないのだが。

モンスターたちが周囲に人の気配はないと報告してくれた。子供が此処に落ちてきている可能性は…まあ低いと思っていいだろう。あの子は確か未だ回復魔法を修得していない。落下していれば何らかの痕跡があるだろう、たぶん。そしていてもいなくても、私達自身が脱出する道を探さなければならない。二次遭難とか洒落にならないから。

「とりあえず、階段を探そう。集合時間に遅れると困るし」

迷宮浅層は土、煉瓦、植物!という感じだったが、この辺は大分雰囲気が違う。端的に言えば、植物がない。石材と、古代のよくわからない金属らしきものが光っている。灯りがなくて暗い。文字通り、迂闊に動き回れば迷いそうな場所だ。

『これは…てっきりコアが死んでるタイプかと思えば、そうでもなさそうだね』

「コア、って…ダンジョンコアのこと?」

一般的に、迷宮にモンスターが発生したり、なんらかの仕掛けが発動したりするのはダンジョンコアの作用だと言われている。正確に言うと、自然に住み着いたわけでないモンスターと、何度も発動する類の罠とかの話だ。

確かに、私の知っている範囲だと、罠の類は作動しっぱなしだったし、モンスターも余所からやってきて住み着いた類だった。

『壁面に埋め込まれた魔力灯が作動してるだろう。コアが完全に死んでたらこれも動かないはずなんだ』

「…それは、拙いのでは?」

『まあ、幼児が迷い込んでたら拙いだろうね』

ダンジョンモンスターは普通のモンスターよりテイムしづらいのだ。コアの支配下にあるのが原因だと言われている。まあコアより支配力が上回ればいけるが。

私がテイマーとしてどの程度の実力があるかといえば、まあ精々中堅がいいところだろう。コアの支配を上回れるかはまあ…五分五分だろうか。コアのレベルにもよるが。テイムできるかはそのものとの相性もあるし。

ともかく、歩いていく中で、更に下層に降りる階段を見つけた。

「これは…どうするべきかな」

トラップから来た階層である時点で、正規のリタイア√が同フロア内に存在しない可能性がある。その代わり、袋小路でない限り最下層までの√は常に存在するし、最下層までいけば大抵の迷宮には地上への直通ルートが存在している。コアや魔法陣による転移とか、一方通行通路とか。だから、迷宮内で迷った時に最下層を目指すのは一つの手ではある。リタイアアイテムは手元にないし。

ただ、ほぼ確実に集合時間には間に合わない。規模も道筋もわからないし、途中で遭難する危険性もある。そもそも迷宮深く潜る準備はしてきていない。軽く村の周囲を見て回るくらいの軽装だ。水も食料もほぼないと言っていい。最悪ダンジョンモンスターを屠って食べる手もなくはないが、そういうのはあまり得意ではない。

大体マッピング自体、私は得意じゃないからモンスターに任せてるんだよな…。

『あの穴自体、俺が飛び込んですぐ閉まったから既にトリルは二次遭難扱いされてると思うよ』

「…踏破優先の強行軍キメるしかないか…」

これでも私は迷宮に挑戦する時は事前にしっかり情報収集と準備をしておきたいタイプだ。基本方針は命を大事に、なので。情報も準備も不足している以上、探索は最低限にして、動けなくなる前に脱出したい。

「じゃあ、こっからは最深部を目標にするってことで…手早くいこう」

そうして私達は階段を下った。



できる限り戦闘を避ける立ち回りでの行軍で、何もかもスルーして恐らく最下層に辿り着いた。円形のホール中央に、巨大なゴーレムと思しきものが立っている。幸運にも道中遭遇したダンジョンモンスターはテイムがそこそこ効くレベルだったが、流石にボス相手ではそうもいかないだろう。とはいえ、かなり旧い形式のゴーレムなのが見て取れる。

「あの形式のゴーレムなら頭に付いてるEを消せば停止するはずだけど…」

『どうやってそれを実現するかが問題だね。破棄するか、取り外すか、削り取るか…あとは何があるかな』

「見た感じ材料は泥…いや、煉瓦、程度かな?焼いたのじゃなくて日干しの」

だから耐久はゴーレムとしてはそこまででもない。それでもモンスターや生身の人間が相手にするには固いけど。魔術系で攻めるなら、水だろうか。まあ私は使えるだけで大して威力とかはでないのでメインはモンスターのスキルだろうか。ガウリエは水を得意としているから、ガウリエを中心に作戦を組み立てるか。

「今回はガウリエがメインアタッカー、ラウエルが攪乱、他はサポートって感じで行こうと思うんだけど、どうかな?」

モンスターたちからは大体了解の返事が返ってきた。基本的な戦闘パターンは仕込んであるので、後は私の指示次第みたいなところある。モンスターにどれだけポテンシャルがあろうとテイマーにそれを引き出せなければ意味がないのだ。

「それじゃ、いくよ」

ホールに一歩侵入すればゴーレムが起動し、動き始める。動きは鈍重で質量の大きいタイプだろうと思われた。

「ラウエル、タゲ取りお願い。ガウリエはそれから回り込んでウルルとミケラはラウエルの補助、フォルティは待機、ディアはガウリエにバフかけて」

指示を出しながら私自身も全体の状況の把握しやすいポジションを取れるように移動を開始する。自分の安全の確保を考えると一か所で棒立ちは避ける必要がある。

ゴーレムの人であれば顔にあたる部分にはEmethと刻まれた石がはめ込まれている。アレを取り外せば停止するはずだ。そして、ゴーレムが人造物である以上、必ずそれは可能にできている。安全機構というやつ。

「ラウエル、ゴーレムを転ばせることってできそう?」

ラウエルから短く肯定の返事が戻ってくる。ミケラも羽衣を翻して飛び上がった。

ラウエルのスキルで床の石材が割れ、地面が隆起したりへこんだりする。ゴーレムがそれに足を取られて巨体が揺れた所にミケラが風を起こして完全にバランスを崩した。ゴーレムの巨体が倒れ込んだことで舞い上がった砂ぼこりもすぐこの風が吹き飛ばす。

「ガウリエ!」

ガウリエの水がゴーレムの躯を泥に溶かしながら真理(Emeth)の石を弾き飛ばす。ゴーレムは沈黙し、弾き飛ばされた石はフォルティが回収した。

「追加戦闘はない、ね?…よし、やったー!」

モンスターたちをハグして撫でる。本格的なケアは帰還後だが、ボスの撃破を労わなくては。

一通り撫でまわした後、フォルティから石を受け取った。両手で抱えるくらいの大きさがある。まあ巨体を動かしていたのだから妥当な大きさだろう。まあゴーレムを動かすのに必要な真理の石の大きさは術師の実力にも関わってくるのだが。大きくて強いものは術師の実力が足りないと作れない。

『いよいよダンジョンコアとの対面だね。俺ももう腹ペコだよ』

「帰ってすぐ食事にできるかは怪しいところだけどね…」

不本意ながら二次遭難してたことになるし、村の人たちに無事を知らせないといけない。そもそもすぐ食事を用意できるかも微妙。

『まあ材料さえあれば俺が作るから』

「ディアの料理は当たり外れが激しいんだよなぁ…」

とはいえ、いつまでも此処に立ち止まっているわけにもいかないのでボスを倒したことで開いた扉から奥に向かう。

扉の奥にはクリア報酬たる宝箱とダンジョンコアがあった。宝箱の置かれている台座が、そのまま帰還用の転移装置にもなっているようだ。コアはこれまでに私が見たコアの中でも特に機械的で、深層ダンジョンと同じく青い光を放っている。

『そうだトリル、さっきの真理の石を貸してくれるかい』

「ん?何に使うの?」

『こうするのさ』

ディアが受け取った石をダンジョンコアのコア、青く光る魔鉱石に押し当てた。その途端、魔鉱石が異常な発光を始めた。

「ちょっ、何してんの?!」

『アドミンID取得してる』

「アド…?」

どう動くべきか迷っている内に発光は収まり、無数のウインドウが表示された。ダンジョンの各種データのようだ。

『…よし。管理者登録の書き換えができた』

「ディアボロス?」

『トリル、ちょっとここに手のひら当てて』

「わかるように説明して???」

コアに触れると周囲に声が響いた。

【迷宮:静謐の穴倉の管理者が変更されました。迷宮創造(ダンジョンクリエイト)モードに入りますか?Yes/No】

「いや、何?」

『トリルが冒険者をやらないなら、逆にダンジョンマスターなら向いてるんじゃないかな?と思ってね』

「その発想はおかしい」

しかし勝手に私のセカンドジョブがダンジョンマスターに変更されたのも確かだ。やりたいといった覚えがないのだが。

『いやいや、冷静に考えてみなよ。ダンジョンマスターは迷宮内のことを把握できるんだ。迷子がいればすぐわかるし、迷宮外へ誘導もできる。トリルが許した相手にとって何より安全な場所になるってことだよ』

「だからってダンジョンマスターやる必要まではなくない?」

『こんな簡単に書き換えられたということはつまり、管理者が空位になっていたということさ。ということは、管理者の不在によるトラブルが発生した可能性があるし、或いは変な人間が管理者になってしまう可能性もある。そうした場合、一番に影響を受けるのは、一番近いところにあるあの村だろう?』

「それはそうかもしれないけど」

ダンジョンマスターになろうなんて発想の出る奴がこいつ以外にいるのかはわからないが、絶対ないとは言えない。こいつがいるわけだし。故郷の村が被害を受けるのは勿論嫌だ。けど、ダンジョンマスターなんていきなり言われても…というか。

相棒からうだうだしてないで管理者権限を確認するなり放棄するなりしろと叱られた。はい。

「…迷宮内にいる人間の情報だけ確認して脱出しようか」



幸か不幸か、迷宮内に人間はいなかった。というか、どうも私が知ってる範囲と、今いる此処は別の迷宮扱いのようだ。情報を精査した感じ、そうなるらしい。非常口は上の迷宮飛び越えて地上まで繋げそうだけど。見た感じ本来開口部になってそうなところが、上の迷宮で潰されている。つまり、ワンチャン失踪しかけてたということなのでは…。

「ともかく一度帰ろう。失踪扱いされてたらアカンし」

とりあえず出入りのできる非常口を私が昔遊び場にしてたエリアに設置した。非常口なので行き来を制限するためのセキュリティも付けとく。迷い込まれたら困るし…。

『しばらくは退屈しなさそうだね』

「まあ放置するわけにもいかないだろうけどね…」

迷宮創造とやらもまだ詳細はちゃんと調べてないし。しかしまあ、未知の迷宮にワクワクする気持ちを一切持たなければそもそも冒険者に成ろうとも思わないだろうのでまあそういうことである。まあ私は冒険というよりか研究かもだが。

村の集会所にいったら二次遭難について怒られたりしたが、何とか丸く収まった。村の子供は他の人が見つけて保護したようだ。

ダンジョンマスターになったことは何となく言いそびれてしまった。新規ダンジョンの存在自体は話したが。

『もう宵っ張りと言える時間のようだが、宣言通り俺が料理をしよう。任せてくれ』

「…うん、なんかどっと疲れたし頼むよ」

私の捜索隊がまだ出てなかったのは時間帯と、私が大人だったかららしい。とはいえ、夜が明けても戻ってこなかったら捜索隊沙汰だったとか。…無事帰れてよかった。

ディアが料理している間に他のモンスターたちのケアをする。怪我の治療やグルーミング、食事の用意なんかになる。まあモンスターは生態によって何を食べるかが全然違うし、食事といっても人が食べるものと同じとは限らないのだが。私のモンスターでいうとミケラは魔力を食うタイプだし、ディアは食物も食べるけど主食は精神エネルギーの類。他の子はまあ食物(好き嫌いはある)。

順番にグルーミングしているとディアが食事を持ってきた。

「あ、ありがとう、ディア」

『俺もトリルにはできるだけ元気に長生きしてほしいからね。生物に食事は必要不可欠だろう?』

「うーん、流石有能」

肉体労働系だから、体が資本だしね。



フォルティ・狼系 

ディアボロス・悪魔 

ガウリエ・水・雨 

ウルル・火・剣 

ラウエル・地・ウサギ 

ミケラ・風・羽衣

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