コンドームショップのおばさんショタに告白される。
コンドームショップ『ルフィ』。
ここが私の今の職場だ。
「……」
どいつもこいつもよー。と毎日思う。
イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャすんな!
このご時世に濃厚接触ばかりしてんじゃねーよ!まぁ。カップルがいるから商品が売れるんだけど。
「イチゴの香りがいい?」
「お口で付けてあげるね?」
その会話1000回聞いたわ。
マスクの下でニヤニヤ笑ってるのが分かるわよ。
当然こいつらはこのあとセックスするんでしょーね。
私は男と付き合った事ないから分からないけどそんなにセックスっていいもんかしら?
「口井さーん。またあの子来てるよー?口井さん目当てですよ。絶対~」
「からかわないでって」
でも確かに私の方をチラチラ見てるのよねー。
「……」
毎日私がシフトに入ってる時だけ来るメガネの少年。
私に付いてくる様に店内を歩きながら閉店前に一番安いコンドームを買って帰る。
処女の私が言うのもなんだけどあの子絶対童貞だわ。
コンドームなんて必要ないでしょ?お金は大切にしなさい。
……もしかして一人でする時もゴムを?分からないわぁ。
「ほら!口井さん!来ましたよー」
閉店間際。今日もあの子はコンドームを一つ買うためにレジに……ちょっと遠くない?
レジから5メートルは離れてる。それじゃあ買うんだか買わないんだか分からないわよ。
「お客様。どうされましたか?」
「僕は⚪⚪大学一年!向井陸と申します!」
「お客様?」
陸と名乗った少年はマスクを外してそう言ってすぐにまたマスクを付けた。
なんなの?自己紹介?
初めてマスクの下を見たけど「少年」と言うより「坊や」って感じね。年上にモテそう。
「あのー。店内ではマスクの着用を」
「口井さん!人目見た時からあなたが好きです。僕とこれを一緒に使う関係になってください!」
バチっとイチゴの香りのコンドームをレジに置いた。
「んきゃー!どうします?口井さん!告白ですよ!?受けます?」
「えー。う……受けるとか受けないとかじゃなくて」
今は仕事中だし店内だしあんたもうるさいし私とこの子の年の差は凄そうだし……
「君。ちょっと来なっ!」
「わ」
陸の腕を引っ張った。とりあえず控え室に連れてきましょう。ここでは監視カメラと店内のカップル達の視線が痛すぎる!
「口井さん!積極的!大丈夫!店長には私がなんとか言っときますね!」
うーん。勘違いしてるみたいだけど一応サンキュー!
・
「あなたマスクの私しか見たこと無いでしょ?顔半分も知らない女を好きになる?普通?」
「あなたならどんな顔でも愛せます!鼻の穴がゴリラでも唇がウインナーでも!」
ひ……酷い言いようね。でもいい子なのは分かる。だからこそ、この子には現実を教えてあげましょう。
「ねぇ。私キレイ?」
「はいっっ!」
私は後ろを向いてマスクを外してゆっっくりと振り向いた。
「……これでもぉぉ?」
「……えっ!」
私の「大きく裂けた口」を見ても逃げ出さないなんて意外と根性あるじゃない。
そう私は『口裂け女』。
あーあ。バレちゃった。世界中がマスク生活の今ならアルバイト出来ると思ってやっと見つけた仕事なのにもうこれでおしまいね。
化け物は働くなって事か。少しの間だったけど人間社会に出れて楽しかったわ。
「それでもキレイです!」
「……えぇ?」
ビビってないことにビビったわ。
陸が鼻息荒く近づいてきたので私は後ずさってロッカーに背中をぶつけた。
そして初めて壁ドンってやつをやられたわ。
「口井さんの顔。想定No.193口裂けだったんですね」
……想定してたのか。No.193?この子一体何パターン用意してたのよ。
口が裂けててもキレイだなんて言われた事無いし、もちろん口説かれるのも壁ドンも初めてなわけで……。
ここまで想われたら私だって舞い上がっちゃうわよ。
私は神聖な職場の控え室で陸に最初を捧げた。
最後までしちゃったって事よ。
イチゴの香りが部屋に漂い残った。
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「サケ子さーん」
「はいはい。走らない走らない。犬じゃないんだから」
今日は陸との三回目のデート。目的は彼に私の友達を紹介する事なんだけどね。
「ねぇねぇ。お友達ってどんな人なの?」
「でかいわね」
「器が?」
「身長が」
「バレー女子かな?彼氏は?」
「いたことないわよ。それ彼女には禁句だからね」
「えー。僕たちの幸せをシェアしようよ。その友達の名前は?」
「はっちゃん」
「はっちゃんかぁ。ってかここ森だよね?どこまで奥に行くの?」
「もうそろそろ。あっ。いた。おーいはっちゃんー!」
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「ぽ?」
しまった。はっちゃんの好みは陸みたいなショタなんだった!
つづ……く?