番外編:初昼その後・・・
結婚式を終え、初昼を終えた後の2人は・・・?
「ん・・・・・・」
目を閉じてても分かるほどの眩しさで目を覚ますと、カーテンの隙間からわずかに陽の光が差し込んでいた。
だけどまだ薄暗い。ちょうど夜明けくらいだろうか。
やけに寝心地の良いベッドと心地よい温もりに包まれ、もう少し寝ていようかと思った時だった。
「おはよう、エリーゼ」
その声で今度こそハッと目が覚める。そして気付いた。頭の下にある熱いくらいの熱を持った筋肉質な腕の存在に。
そう、今の私はルーカスの腕に頭をのせた状態・・・つまり、腕枕をされている。
私の視線の先には逞しくも色気のある胸板があらわになっている。私は昨日、幾度となくこの体に見惚れ、どれだけ縋っただろうか。
そんな事を思い出し、頭の中の温度は一気に沸点まで急上昇した。
情熱的な一夜を過ごした男女。朝を迎え、女は男の腕に抱かれて目を覚ます・・・そんなシーンはロマンス小説で何度か読んだことがある。2人は少し気まずい気持ちになりながらも、ベッドの上で愛を囁き合う・・・いわゆるピロートークが始まる。
「うふふ」「あはは」とくすぐったくも嬉し恥ずかしなお話で盛り上がる・・・そんなシーンだった。
だけど、私はもう知ってしまった・・・。
ピロートークなんて、所詮は物語の中だけの話。
そんなモノ実際には存在しないのだと。
なぜなら、この腕の中で目覚めるのは今回が初めてではない。今回の目覚めでもう4回目なのだ。
昨日、私達は結婚式を挙げてそのまま屋敷の寝室へと直行した。そして無事に初昼(?)とやらを終えて、意識を失う様に眠りについた私は、夕方になり彼の腕の中で目を覚ました。
初めての情事の後、嬉し恥ずかしな気持ちで私は赤らめた顔を上げた。そしてルーカスと目が合った瞬間、物凄い勢いでそのまま組み倒されて・・・それはもう早かった・・・。
そして夜になり花火の音で再び目覚めた私は、やはりルーカスの腕の中にいた。
カーテン越しからでも見える花火に気付き、ルーカスと一緒に見ようと、私は顔を上げた。
「ルーカス花火・・・んっ・・・」
目が合った瞬間、唇を奪われ、そのまま花火どころではなくなってしまった。・・・そう、初夜が始まってしまったのだ。
その後、夜中に再び彼の腕の中で目を覚ました私は・・・うん、もういいんじゃないかな。
つまり、何が言いたいのかと言うと。
とにかく早い・・・色々と・・・早いのよ。
「待って」と言う間もなく唇を奪われ、なだれ込むように事に及ばれる。その後、脅威的な回復スピードでそのまま2回目が始まり・・・そんな感じで私が意識を失うまで解放してくれない。
だが、さすがに今回で4回目。これ以上同じ間違えを踏む訳にはいかないし、何より体がもう持たない。
ここで顔を上げてルーカスと目を合わせる訳にはいかない・・・!
「お・・・お腹空いたなぁ!!」
私は顔を伏せたまま声を思い切り張り上げた。
熱烈な情事の後の第一声がこれとは色気が無い。
だけど今は色気なんてものは要らない。
甘ったるいピロートークなんてこの男はさせてくれないのだから。
「ああ、すまない・・・ついエリーゼが可愛すぎて自制する事が出来なかった・・・。すぐに食事を用意しよう。体の方は大丈夫か・・・?」
そう言うルーカスの表情は分からないが、明らかに声のトーンが下がっている。どうやら反省してくれている様だ。
そして私も自分の体の状態を再確認する。
「だい・・・じょうぶじゃない」
正直、体が尋常じゃ無い程重い・・・。これ、起き上がれるのかしら・・・?
「エリーゼ、そのまま少し待っていてくれ」
ルーカスはそう言って起き上がり、ベッドから降りて部屋の扉の方へと向かった。扉が開き、閉じた音を聞いて私は顔を上げた。
ようやく1人きりになったその部屋で、私は「はあっ・・・」と溜息をつき、ゴロンとベッドの上で大の字になった。
目を閉じて、ここ数日の出来事を思い起こす。
ずっと膠着状態だった私達の関係は、この3日間で激変した。
あの惚れ薬によって・・・。
結局、惚れ薬は偽物だったけれど、散々振り回された私達は幼い頃の誤解を解く事が出来て、晴れて恋人同士となる事が出来た。・・・いや、もう夫婦だった・・・。
私は左手を目の前にかざした。もう手袋を着ける必要の無い左手の小指の傷跡を見つめた。
あの時、もしも小指を失わなければ・・・狼と遭遇しなかったら、私達の関係はどうなっていたのだろうか・・・?
ルーカスから直接告白されていたら・・・彼が迎えに来たあの日、プロポーズを受け入れて結婚していたのかもしれない。
そしたら今頃、私達の間に子供がいたりして・・・
思わずそんな妄想をしてしまい・・・
ガチャリ・・・
扉が開く音で、ドキリと心臓が跳ねた。
熱くなった顔を見られまいと、私はシーツに顔を埋めた。そしてチラリと目だけ覗かせて様子を伺う。
開いた扉から、ルーカスが大きなテーブルワゴンを押して部屋に入ってきた。その上には肉料理、パン、サラダ、フルーツがこれでもかというほど盛られている。
それを見た瞬間「ぐぅぅ・・・」と私のお腹が主張する様に鳴った。それも仕方がない。だって昨日の朝から何も食べてないんだもん!!時々ルーカスが唇越しに飲み物くれたくらいで、何も食べれなかったんだもん!!
うう・・・よだれが止まらない・・・けど・・・体が動かない・・・。
その時、フワッと体が宙に浮いた。ルーカスが私の体を抱き上げたのだ。
私を抱き抱えたまま、ルーカスはベッドの端に腰を降ろし、その膝の上に私を降ろした。
その瞳が私を愛しそうに見つめたかと思うと、先程ルーカスが持ってきたテーブルワゴンの上へと視線を移した。
ルーカスは私を膝に乗せたまま、そちらへ手を伸ばして葡萄を1粒摘み取り、私の口元へと運んだ。
「エリーゼ・・・あーん・・・だ」
ルーカスは優しく微笑みながら、期待に満ちた眼差しを私に向けている。
「あ・・・あーん・・・」
口を開けると、葡萄がゆっくりと中に入ってくる。それをパクッと口で摘み、かじると口の中は葡萄の甘い果汁で満たされた。
甘い・・・美味しい・・・。
葡萄を味わっている私の前に、今度は1口サイズに切り取られた桃が運ばれた。その桃に刺さったフォークを握り、ルーカスはどこか真剣な表情で私を見つめている。
その眼差しにドキドキしながら、私は口をあけて桃を受け入れた。
その後もルーカスの手は止まらず、私は次々と目の前に運ばれてくる食べ物をひたすら食べ続けた。
これも美味しい・・・ああ・・・幸せ・・・。
ひっきりなしに運ばれてきた料理が、急にピタリと止まった。
どうしたのかと顔を上げ・・・私は思わずギョッとする。
私の視線の先では、息が荒くなり、顔を赤く染め熱を帯びた視線で私を見つめるルーカスの姿・・・
「ルーカス・・・?ど、どうしたの?」
「ああ・・・エリーゼ・・・!!今すぐ君を食べ尽くしたい!!」
次の瞬間、ルーカスは私を抱き抱えて立ち上がった。
くるりと方向転換し、ベッドに片膝をのせた所で、私は慌てて声をかけた。
「待って!!ルーカスもお腹空いてるでしょ!?ほら、先に食事にしましょ!?私じゃお腹は膨れないでしょ!?」
「問題ない。お腹は満たされなくても、俺の胸は満たされる」
上手い返しをしたと思ったのか、ルーカスはフッと鼻で笑う。
・・・が、こちらは笑えない。
「待ってルーカス、お願いだからちょっと待って!!」
「待てない・・・俺は待つのが苦手なんだ」
「うん、知ってる。知ってるけどぉぉぉ!!」
「エリーゼ、愛してる・・・早く、俺達の子供に会いたい・・・」
そう言うと、私の体をベッドにゆっくり降ろし、私の手にルーカスの指が絡められた。
あ・・・そうか・・・。ルーカスもなんだ・・・。
ルーカスはせっかちだ。
何かも待ちきれず行動してしまう彼は、我が子と会う事も待てないほどに、待ち焦がれているのだ。
だからこんなに何回も何回も・・・
いや、これはさすがにやりすぎじゃない・・・?
回数って意味あったっけ?
私の顔に、ルーカスの顔がゆっくりと降りてくる。
・・・私達の子供と会えるのも割と早いかもしれない。
コンッ、コンッ・・・
その時、扉を叩く音にルーカスの動きが止まった。
「旦那様・・・例の物が準備出来ました」
扉の外から聞こえてきたのは、この屋敷に使える執事の声だった。
「ああ・・・分かった。エリーゼ、ちょっと待っててくれ」
ルーカスは体を起こし、再び扉の方へと向かった。
扉を開けて外へ出たかと思うと、直ぐにどデカい台車の様な物を押しながら入ってきた。その上にあるのは・・・水桶?
・・・何故か水桶が何個も置かれている。しかも、水がたっぷり入っているので、台車の動きに合わせて水が跳ね、少しずつ零れている。
・・・え、何?何が始まるの・・・?
ルーカスは台車をベッドのすぐ近くまで持ってくると、私の前で両手を広げた。
「さあ、エリーゼ・・・思う存分にやってくれ。愛の証明をしよう」
「・・・え?」
・・・なになに?どゆこと?
これで一体何をすれば良いの・・・?
私は目の前の状況が飲み込めず、ただ戸惑い狼狽えるしかない。
「どうした?エリーゼ・・・」
いや・・・どうした?・・・って、こっちが聞きたい。
ルーカス、一体どうしたの?
すると、ルーカスは何かに気付いたかの様に八ッとして口を開いた。
「そうか、俺が抱き潰してしまったから起き上がれないんだったな・・・」
「・・・!!」
その言葉に、カッと顔が熱くなる・・・が、認めるしかない。確かにその通りだと・・・。
「なら、俺が自分でやるしか無いか・・・」
・・・いや、だから・・・何を・・・?
この人さっきから一体何を言ってるの・・・?
ルーカスは水桶をひとつ掴んで持ち上げ・・・
バッシャアアア!!!!
ルーカスはそのまま自分の頭の上から水を思いっきりぶちまけた。
「!!!?」
え、なになに!?何が始まったの!?
一気に頭の先から足の先まで水浸しになったルーカスは濡れた髪を掻き上げ、顔の水を腕で拭った。
髪の先から水が滴り、濡れた体はさらに色気を演出し、その動作に思わず見蕩れてしまう・・・が、その前の行動の意図が分からず、私の頭は更に混乱した。
「エリーゼ、愛している」
そう囁いたルーカスはめちゃくちゃ良い笑顔を私に向けているが、私は一体いまどんな顔で彼の事を見ているのだろうか・・・自分でもちょっとよく分からない。
「どうだ?俺のエリーゼへの愛は伝わったか?」
「えっと・・・」
ちょっと誰かに聞きたい。
突然、水を被って愛を囁かれて・・・愛は伝わったか?と聞かれた場合、どう答えるのが正解なのか・・・。
ロマンス小説でもそんな描写は見たことがない・・・。
ルーカスは私が何も言えずに固まっている姿を見て、更に水桶をもう1つ持ち上げ、バシャァッと再び頭から被った。
「エリーゼ、愛しているよ」
そう言って微笑むルーカスは、やはり良い笑顔だ。
だけどルーカスの足元は水溜まりが出来上がり、周りは水浸し。高級そうな絨毯もビショビショだ・・・。
なのにルーカスは再び次の桶へと手を伸ばした。
「うん!!伝わった!!すごく、伝わってきたよ!!ルーカスの愛は本物だネ!!!!」
私は精一杯の笑顔を作り、ルーカスに叫ぶと、ルーカスはようやく満足した様に、これでもかというくらいに弾けた笑顔を私に向けた。
「そうか!俺の愛を再確認する事が出来た様だな」
ルーカスはそう言うと、私を抱き寄せギュッと力強く抱きしめた。
・・・やっぱりルーカスってちょっと変わってるわね。
その事を再確認した私は深く考える事をやめた。
その後、びしょ濡れのルーカスと一緒に湯浴みすることになった私は、途中から記憶が途切れ・・・。
再び目覚めた私は、やはりルーカスの腕の中にいるのだった・・・。
ご愛読ありがとうございますm(_ _)m
ルーカスのこの奇行は「3.5:愛を証明したい」で、エリーゼは水責めの趣味があるというルーカスの思い込みからですw
エリーゼがルーカスの事を少し変な人と思ってるのも、こんな感じのやり取りが時々行われるからなのですね。
番外編は不定期で更新予定です。
こんな2人を見てみたい・・・というリクエストも受け付けております(*^^*)




