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3:既成事実を作りたい(ルーカスside)

 エリーゼは惚れ薬が入っていた小瓶を掴み取ると、それを俺の目の前に突き付けた。


「っていうか、そもそもなんでこれを飲んだわけ?」


 ・・・だろうな・・・。


 エリーゼは鋭い目付きを光らせながら俺に追求してくる。

 それも当然だ。惚れ薬を飲んだ俺ですら、自分の行動が()せない。

 ユーリは適当にごまかせと言っていたが・・・。


 俺は動揺を悟られないよう、表情を崩さずにしれっと答えた。


「・・・エリーゼが捨てるって言ってたから・・・」


 ・・・我ながらかなり無理のある返答をしたな。


「いや、捨てるからって、なんであなたが飲むのよ?」


 ああ・・本当にな。


「・・・もったいなかったから」


 もったいなくて惚れ薬を飲む奴がいるか・・・?


 もはや自分の返答に対して、脳内でツッコミを入れずにはいられない。

 こんな返答でなんとかなると思う方がおかしい。


 正直にエリーゼに好きになってほしかったからと答えるべきか・・・?

 だが・・・好きになってもらいたいからと、惚れ薬に頼るような男だと思われるのも・・・いや・・・実際そうなのだが・・・。


「はあ・・・」


 エリーゼは大きな溜息を付くと、頭を押さえながらフラフラと向かい側のソファーに行き、その上へボフッと倒れ込んだ。

 そのまま何も言わなくなり、束の間の静寂の時間が流れた。

 

 ・・・まさか、今のでなんとかなったのか・・・?

 つまり、俺はもったいないからという理由で惚れ薬を飲む変な奴で納得されたってことか・・・。

 それはそれでちょっとショックだな・・・。


 だが、今はそんな事よりも微動だにしなくなったエリーゼの方が心配だ。

 どうやらこの数分でかなりの心労を与えてしまったようだ・・・。


「エリーゼ・・・大丈夫か・・・?勝手な事をしてすまなかった・・・」


「いいのよ・・・私がこんな所に惚れ薬なんて置きっぱなしにしてたのがいけないんだから・・・」


 あくまでも自分のせいだと言うエリーゼの優しさに、俺は罪悪感に襲われながらも、彼女の身を案じた。

 もしエリーゼが俺の事を好きなら、俺と結婚するのは嬉しいはずである・・・。だが、彼女は何かと葛藤しているようだ。


 それもそうだろう・・・俺を好きだという気持ちは、惚れ薬による偽物の感情なのだから・・・。

 それをエリーゼも分かっているのだから・・・。


 正直、ここまでエリーゼの理性が強いとは思わなかった・・・。

 俺を好きになったら、すぐに結婚を快諾してくれると思っていた。

 ・・・だが、惚れ薬の効果は一時的なものだと言うのならば、こちらも悠長な事は言ってられない。

 事態は急を要する・・・。


 ・・・とにかく今すぐにでも結婚するしかない!


「それじゃあ、俺と結婚してくれるか?」


 俺の言葉を聞いたエリーゼは、ソファーに顔がめり込む程にまで深く沈んだ。

 しばらくして、エリーゼは重力に逆らう様にゆっくりと体を起こし、俺と向き合うよう座り直すと、キッと力強く顔を上げた。


「とりあえず待ってちょうだい。今は惚れ薬の効果で好きな気持ちが強いかもしれないけど・・・出来ればその効果が切れるまでは待ってほしいの。それか・・・解毒剤が手に入るまで・・・」


 解毒剤・・・?

 その言葉に俺は崩れ落ちそうになる。

 そんな物まで存在してしまっては、もはや計画が水の泡である。

 これは一度ユーリに確認する必要がある。


 もちろんエリーゼの言う惚れ薬の効果が消えるまで待つなんて事も出来ない。

 何よりも、惚れ薬の効果が切れた時、俺は嫌われてしまうのではないか・・・?

 どうする・・・?

 どうにかして惚れ薬を手に入れて、それを使い続けて効果を引き伸ばすか・・・?


「・・・そのまま効果が切れなかったら・・・?」


「そうね・・・とりあえず1ヶ月・・・1年は待って・・・それでも効果が切れなかったら、その時は・・・考えましょう」


 1年・・・いや、たとえ1ヶ月でも長すぎる・・・。

 この惚れ薬が他に存在するとは限りない・・・出処(でどころ)を突き止めれば、もしかしたら手に入れることが出来るのかも知れないが、こんな薬がそう大量に出回っている筈が無い。


 もしも惚れ薬の効果が1日にも満たないのであれば・・・1ヶ月も効果を持たせるなんて、到底無理な話だ。


「1ヶ月・・・?それはさすがに待てないな・・・」


 ならばどうする・・・?

 どうしたらエリーゼは俺と結婚してくれる・・・?

 結婚さえしてくれれば・・・もし惚れ薬の効果が切れたとしても、俺とずっと一緒にいてくれるんじゃないか・・・?


 もう一度・・・約束を交わせられたのなら・・・。


『なんならそのままヤッちゃっても許してくれるんじゃない?』


 突然、俺の頭の中に再び悪魔の囁きが聞こえてきた・・・。


 いや、それはさすがに駄目だろう・・・

 ・・・だが・・・。

 もし・・・もしも誰か他の男が同じ惚れ薬を手に入れ、それをエリーゼに使ったとしたら・・・?

 ユーリが言うようなゲスな考えで、そのままエリーゼを襲うかもしれない。


 そんな想像をしてしまった俺は、爪が深く食い込む程両手の拳を握りしめ、怒りに肩を震わせた。


 エリーゼが他の男に触られるなんて・・・そんなの絶対に許せるはずがない。

 想像しただけでその男の首を即座に切り落としたくなる。


 そうなるくらいなら・・・。


「ならば・・・仕方ない。これだけはやりたくなかったんだが・・・」


 俺は意を決して立ち上がり、エリーゼが座るソファーへ移動した。


「え・・・何?」


 あからさまに警戒する様に身構えるエリーゼの隣りに座り、その瞳をジッと見つめた。

 そしてその華奢な両肩に手を乗せ・・・


「エリーゼ・・・」


 愛しくその名を呼びかけると、エリーゼの顔は一瞬で火がついたように赤くなった。

 その瞳からは戸惑いと喜びの感情を読み取る事が出来る。

 どうやら俺の意図は察してくれたようだ・・・ならば話は早い。


「ま・・・待って・・・」


 顔を真っ赤に染めながらも、何かに期待するエリーゼを見て完全にスイッチが入ってしまった俺は、待てるはずもなくエリーゼに顔を近付けていく。

 今の俺に恐れるものは何も無い・・・エリーゼの気持ちは俺に向いているのだから・・・。


 程なくして、エリーゼの瞳は覚悟を決めたようにギュッと閉ざされた。

 それを承諾の合図と捉えて、俺はエリーゼをソファーに押し倒した。


 その瞬間、パチッとエリーゼの瞳が見開いたが、目の前で無防備に横たわるエリーゼの姿に、俺の理性は引きちぎられようとしていた。

 火照(ほて)ってどうしようもなく熱くなった体を少しでも鎮めるため、俺はシャツのボタン上から外しだした。


「ちょ・・・ちょっとぉ!何考えてんのよ!!?」


 突然エリーゼは声を張り上げると、俺を必死に押し退けようと抵抗し始めた。

 ・・・さっき承諾してくれたと思ったのだが・・・どうやらきちんと説明する必要がありそうだな。


「既成事実を作って結婚するしかないと考えている」


 俺の言葉を聞いたエリーゼは更に目を見開いた。


「はあ!!?なんでそうなるのよ!!」


「こういう事は早い方がいい」


「良くないわ!早すぎるわよ!!」


 エリーゼ・・・そんなに早いのが嫌なのか・・・?

 だが、真っ赤になって慌てふためくエリーゼの姿はなんとも可愛い・・・そんな彼女に触れれば、俺はいとも簡単に達してしまいそうだ。


 事実、そんな彼女を想像して俺は・・・。


 ふっ・・・だが、そんな日々の繰り返しで分かった事だってある。


 俺はボタンを外し終えたシャツを脱ぎ始めた。


「そうだな・・・確かに俺は早いかもしれん・・・だが、回数には自信がある。お前を満足してやれる」


「いや何言ってんの!!!?」


 もはや俺の頭の中は冷静さを失い、エリーゼにはとても見せられない程、男の醜い欲望で埋め尽くされている。

 俺は脱いだシャツを投げ捨て、エリーゼの体に覆いかぶさった。

 ただ、彼女を今すぐ俺の物にしてしまいたいという衝動が俺の手を急いた。


「ちょ・・・あ・・・」


 初めて聞いたエリーゼの艶っぽい声に、僅かに繋ぎ止めていた俺の理性がプツッと音を立てて切れた時だった・・・。


「こんのクソエロせっかち早〇野郎があああああ!!!!」


 耳を疑うような単語がエリーゼの口から発せられると同時に、俺の頬に彼女の拳がめり込み、その衝撃で俺はソファーから投げ出された。


 チカチカと目の前が点滅し、ひんやりとした床の冷たさを背に感じながら、ジーンと熱くなる頬を押さえた。


 エリーゼ・・・なかなかやるじゃないか・・・。

 

 彼女の新たな一面を発見して関心していると、エリーゼはソファーから飛び起き、バタバタと隣の部屋へ駆け出して行った。・・・と思ったら、すぐにまたバタバタと足音を立てながらこちらへ戻ってきた。

 そして俺の耳元でその足音が止まり・・・。


バッシャアアアアア!!!!


 突然、俺の頭上から滝に打たれる様な衝撃に襲われ、気付くと全身がびしょ濡れになり、髪の毛からはポタポタと雫が滴り落ちていた。


 今ので完全に頭が冷えた俺は、何が起きたか理解出来ないまま困惑しながら顔を見上げると、空の水桶を持ったエリーゼが息を切らしながらこちらを見下ろしていた。


実際に浴びるように水を飲まされていたルーカス。


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