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らいん  作者: 三浦 一葉
3/4

3 フェニックス


朝早く…


俺は携帯の目覚まし時計で目が覚めた。

時間を見ると、午前7時。


起き上がってシャワーを浴び、服に着替えた。

私服で来いって言ってたよな。



着替え終わると、冷蔵庫の中に入っていた果物などを胃にかきいれた。


朝のボーっとした中でのんびり準備を終える頃にはもう9時過ぎだった。


時間が余っていたので、俺は部屋から出て鍵を閉め、玄関まで歩いていくことにした。



「限くん、早かったね」



玄関に着くと、琴音がいた。時間を見ると、9時半。



「早く起きたから」


「そっか、私も」



琴音はニコッと笑う。



「今日は長い1日になると思うけど、頑張ろうね。もしかしたら、フェニックスかもしれないけど」


「フェニックス?」


「あれ、まだ知らないんだっけ?ダストを神とか言ってあがめてる宗教集団だよ。ダストに血をもらって、特殊能力みたいなものを手にした人とかもいて、厄介だったりもするの。あ、ダストに血を分けてもらうとね、そのダストの能力の切れ端みたいなものを使えるようになるの」



琴音は眉を寄せる。


フェニックス…不死鳥か…。

ざわざわと胸が騒ぐ。



「2人とも早いな」



次に玄関に来たのは奈津だった。


奈津は24だから、いくら身体が12歳でも大人っぽい格好をすると思ってた。

以外と普通に12歳くらいの格好。



「ねぇ、奈津。今日はフェニックス?ダスト?」


「知らない。フェニックスの可能性の方が高いだろうな」



奈津はそっぽを向きながら言った。



「奈津さん!おはようございます!」



その時、ちょうど喜助がこちらに小走りできた。



「おはよう。今日は体調がいいみたいだな」



奈津が優しい微笑みを喜助に向ける。



「じゃあ、行こうか」



喜助が自分と目も合わせないことに慣れてきた俺は、平然と言った。



「誰が飛ぶ?私、B-8には言ったことないから、奈津か喜助君に飛んでほしいんだけど…」



琴音が言った。


「私が飛ぼう。私の地元だ」



奈津の一言で、俺たちは奈津の肩につかまった。



着いた先は仁の言っていた通り、どこにでもありそうなテーマパーク。

客足はそれなりに多めで、にぎわっているといえるだろう。



「うわぁ!奈津!少しなら遊んでもいいんだよね?」



顔をほころばせながら琴音が言う。



「あぁ。その前に、入場券を買ってこないとな」



奈津と琴音は入場券を買いに行った。



「今日は俺たちに迷惑はかけるなよ」



突然喜助に話しかけられて、驚いて見る。

喜助は俺を睨みながら、いかにも不機嫌そうに腕を組んていた。



「お前がな」



ほんの少しの言葉だが、喜助には効いたらしく、みるみる怒りの表情になった。



「お前は俺の強さを知らないからそんなことが言えるんだ!もう少ししてみろ。ダストと戦ったら、絶対お前が最初に死ぬぞ!」



年下相手に無機になった俺も俺だが、最初に死ぬとか言わないでほしい。

俺は無視を選んだ。くだらない年下の言葉を真に受けた俺がバカだった。



「おい、入場券買って来たぞ…って、なんか雰囲気悪いな」



奈津たちは、戻ってきてすぐに、この緊迫した空気を読み取った。

今にも取っ組み合いを始めそうだと思ったに違いない。



「別に」



俺はボソッと答えた。



「まあいい。入るぞ。仲間内でけんかしている場合じゃない」



奈津はふてくされた喜助を引っ張っていき、琴音は俺の背中を叩いた。



「痛っ!」


「はい、これ」



琴音は俺に入場券を差し出す。



「向こうにもいろいろと事情があるんだよ。…で、あまりにも限くんたちが仲悪いから、別行動することにした。喜助くんと奈津、私と限くん。いいよね?」



俺は頷く。



「ほら、行くよ。時間取りたくないんだから!早く終われば、早く遊べるでしょ!」





仲は午前中から人が多くて、ダストの存在すら知らない多くののんきな人々がいた。



「ダストやフェニックスが見つかり次第お互い連絡することになってるから」



琴音は恥ずかしいくらい辺りをキョロキョロ見回していた。



「と言っても、私もこんな仕事、初めてなんだ。だから、ダストやフェニックスがいそうな場所とかさっぱり分かんないんだよね」



そんなことを言いつつも、琴音は幾つか、人通りのほとんどない場所に目星をつけたようだ。



「やっぱ簡単には見つからないよね…」



かなり歩き回り、もうすぐ昼になろうという時、琴音が言った。



「そうだな。もう一回りして、何もなければ昼にしないか?戦いに備えて」


「いいね」



そして、もう1度ぐるりと回ろうとした時、見慣れない公衆トイレを見つけた。



「限くん!あんなトイレ、パンフレットにあったっけ?」


「いや…載ってない」



俺は、パンフレットを確認しながら言った。

パンフレットの中では、そこはコースターとコースターに挟まれた空きスペースになっている。



「行ってみる価値あるね。限くんはここで待ってて。私が先に行く。10分だけ待って、私が戻らなかったら奈津と喜助くんに連絡して、3人そろってから入って来て」



琴音は、今までにないくらい真面目な表情をしていたと思うと、走ってトイレに入っていった。





10分経っても、琴音は帰ってこなかった。


あー…あれだ。ヒロインの女の子が捕まっちゃうパターンだ。

でもあいつってヒロインって感じじゃないけどな。

そんなことを考えながら、俺は奈津の携帯に電話した。



「何だ?何か見つけたか?」



聞こえてきたのは、いつもの奈津の落ち着いた声。



「多分見つけた。琴音が先に入ったけど戻ってこない。○○コースターの所」




数分で奈津は喜助を連れてきた。


2人とも息が切れている。一般人にばれると悪いからゲートが使えない。

このでかいテーマパークを走ってくるのは2人にとって大変だったことだろう。



「琴音はあそこに入っていったんだな?行くぞ」



奈津は着いてから一息つくことなくまた走り出した。



「奈津さん!早いですよ!」



喜助はそう言って奈津を追いかけ、俺もその後に続いた。



トイレの中に入ると、トイレではなく、広いホールのようになっていた。


奥にはドアが1つだけポツンとある。



そこには同年代くらいの3人の少年少女がお喋りしていたが、俺たちの姿を見るとぴたりとやめた。



「あれ?あんたたち、さっきの子の友達?」



1人の女の子が言った。



「あたしたちみたいなフェニックスに普通の人間が勝てるわけないじゃんね。さっきの子なんて、一発で気絶しちゃったよ」



ケラケラ笑いながら言った。



「お前…琴をどこにやった?」



奈津はずっと背中に担いでいた刀に手を伸ばした。

目つきも鋭く変わっている。



「さあね、奥にいるんじゃない?」



女の子はルイと同じように、短いよく切れそうなナイフを出した。



「ルイ…の能力?」



名前を言うと、喜助と奈津は一斉にこちらを向く。



「誰だそれ?」


「ルイさんを知ってるの?あたし、ルイさんに血を分けてもらってるの。すごい力を持ってるよね、ルイさん!」



女の子は目を輝かせた。



「アイ。やめろ。ダストの肩の名前を知っていて、ダストやフェニックスではないということは…」


隣に立っていた金髪の男の子が、女の子に言った。



「ユウゴ…よく考えたらそうだね。ライン…か」


「アイ、ユウゴ!ルイさんにもヤクモさんにも貢物がたくさん用意できるぞ」



アイと呼ばれた女の子が話した後、傍にいた黒髪で驚くほど青く輝いた瞳を持つ男の子が言った。



「ミキ…人を殺すことは気が進まないけど、世界をよくするためだもんな…」



ユウゴと呼ばれた男の子が人懐っこい笑みを見せた。



「世界をよくするため…?」



俺は思わず聞き返す。

まさかそんなことを考えているやつがいるなんて思ってもみなかった。



「ラインは自己中心的で最もこの世に存在してはいけない者。あたしたち」ダスト直属のフェニックスが、ダストに変わって成敗する」



アイがピュッとナイフを投げた。



俺たちは飛びのく。奈津は刀を抜き、俺はフューを発動させ、喜助も戦闘態勢をとった。

喜助はパッと見何も変わっていないように見えるが、よく見ると爪が10センチほど伸びている。

あれが喜助のフューか。



「ちょっとストップ」



いつでも攻撃できるようにしていた俺たちを止めたのは、フェニックスの方だった。



「ラインたち。そんな無益な戦いをしてどうする?どうせなら楽しまないか?1対1の怠慢勝負で勝ち抜き戦をしたいと、俺たちフェニックスは考える。



ユウゴが言う。


両手には刃物の付いた手袋のようなものをしていた。



「私は無駄にし人を出したくないし、構わないけど、2人はどうだ?」


「別に…」



実は3人の中で誰と手合わせすべきか全く戦闘経験のない俺には分からなかったので、ちょうどよかった。



「じゃあ始めようか。互いに戦いに出た1人以外は手出し禁止。その他は相手が戦えなくなるまで戦って、その人が死のうと関係なし。それでいいよね?」


「俺が最初に行きます。奈津さん、行かせてください!」



喜助は奈津を見て真っ先に言った。



「いいのか?勝ち抜けば3人と戦わないといけなくなるんだぞ?」


俺の問いかけに、喜助は分かってるよ、とつぶやいた。



「分かってるなら、行って来い」



奈津はそう言った後に、とてもとても小さな声で『本気は出さないでくれ…』と付け加えた。



「じゃああたしが先に行くね」



向こうはアイが一歩前に出た。


喜助も2,3歩前に歩み出た。



アイが遠距離の姿勢をとってくれば、超近距離タイプの喜助は不利になる。



「準備はいい?坊や」


「喜助だ」



喜助は更に爪を鋭く、長くしながら言った。



「どうでもいいじゃん。いくよ!」



ぐんっとアイが前進する。

一気に2人の距離が縮まった。


喜助は半歩後ろに下がりながら右手を大きく振った。


アイのナイフは喜助の頬を、喜助の爪はアイの腕を、それぞれえぐった。



「っ…!」



アイは飛びのき、痛みに顔を歪ませ、また、喜助も痛みに眉を少し寄せた。

しかし喜助は、他は1つも動じなかった。



「お前にもっと血を吸わせてやるよ」



アイの腕を深くえぐって付いていたはずの血が、何故かもう消えていた。



「喜助のフューには名前が無い。ないけど力は使える。まぁ、呪いのせいで名前が聞き出せない状態なんだろう。それでも力が使えるのはあいつの才能だ。喜助の爪は、血液を欲する。自分の身体を変化させる形のフューの中では1番強いパワーを持つものだ。喜助にしか扱えない」



奈津が教えてくれた。


奈津を見てから喜助に顔を向けると、まだ2人はにらみ合っていたが、次に音がしたと思ったら、何十ものナイフが喜助に向かっていった。


喜助はひらりとかわす。しかし、ルイと戦った時の俺のように、喜助の右手足にワイヤーが絡みついた。


それを見て、喜助は身体を無理やり動かすのをやめる。



「喜助!力は使うな!」



奈津がすぐに大きな声で叫んだ。

喜助はハッと奈津を見る。



「奈津…さん…」


「何してんの?力?何かできるなら早くして見せなさいよ。待ってあげるから」



アイが余裕そうに言った。



「絶対にダメだ!反動にお前の身体が耐えられない!」



必死な顔の奈津。喜助はだらりと腕を下した。



「はい…奈津さん」



そして、戦意喪失したように見えた喜助だったが、次の瞬間、俺には思いつかなかった行動に出た。

アイの方に走り出したのだ。


確かにワイヤーで傷を増やすことはないかもしれない。

でも、前から攻撃されればよけることができる保証もなかった。



「ちっ!」



思った通り、アイは開いている方の手で喜助にナイフを投げた。


喜助はというと、よけるそぶりは人るも見せず、突っ込んだ。



ナイフは喜助のふともおみゃ腹に刺さったが、喜助は顔色一つ変えない。



「うわっ!」


喜助はアイに飛び蹴りをし、アイが軽く叫んだと共にワイヤーが外れて喜助の身体は自由になった。

以下にも嬉しそうな喜助に、奈津も俺も笑う。



「えへへへっ!ばーか!お前のその技は隙があり過ぎるんだよ!」



頬の傷から流れ出る血をふき取りながら、喜助は言い、力尽きるようにあお向けに倒れた。



際も起き上がらず、その戦いは引き分けに終わった。



「喜助…平気か?無理したらダメって仁が言ってただろ?」



喜助を俺が抱き起すと、奈津が近寄ってきて言った。



「貧血です。奈津さん…でも、勝ちました」


「そうだな。お前はもう端で見ていろ。もちろん止血しながらな」



奈津に止血は任せよう。



「次は俺が行くよ。お前は座ってな」


「いいのか?先に行かせて」



奈津が俺に聞いたが、俺は軽く手を振ってこたえるだけにした。

かっこつけだ。



「ユウゴ、行く?」


「あー、ミキ、行っていいぞ。俺よりお前の方が強いんだからお前が負けたら俺も戦わずに諦めるよ。戦うの面倒だし」



ユウゴが笑いながらポンポンと美樹の肩を叩き、ミキは頷いて、前に出た。



「始めようか、少年」



ミキは俺をまっすぐ見ながら小さな声で言った。青く澄んだ輝く瞳。見つめていると向こうがヒーローで俺が悪役のようだった。


ミキは黙ってかかってこいと手招きした。


俺はフューを発動した。

ブーツはエメラルドグリーンの光を放ち、俺の足を包んだ。


おれはいつでも動けるように少し足を開いて状態を下げた。



「君から来ないの?」



首を振りながら言った。



「じゃあ、僕から行くよ?楽しみたいから簡単に死なないでよ?」



ゆらりとミキの身体が揺れたかと思うと、姿が消えた。



「動けないの?少年。死なれたらつまらないんだってば。もっとついてきてよ」



次に声が聞こえてきたのは、背中から。

頭に銃を突き付けられていた。



「え…?」



全然わからなかった。



「限!」



奈津が俺の名を呼んだ。しかし、振り向くことはしない。



「少し話をしよう。僕がむかつくようなことを言ったら、ファイさんからもらったダストの血液と銃で、お前の頭ぶち抜いてやる。君なんか、僕やファイさんの敵じゃない」



俺は少しイラッとした。ミキは俺を離してくれる気は今のところないだろう。

どうやったら抜けられるか…。


とりあえず頭をぶち抜かれてはかなわないので、俺はブーツに頭を強化してくれるように頼んだ。



「うざっ!自意識過剰かよ。でもやっぱりダストは間違ってるよ!自分の為に世界を救うっていう肩書で大量虐殺!あり得ない。俺は許さない」



試しにため息交じりに挑発した。



「お前、死にたいんだな」



案の定、ミキは起って発砲した。

頭に衝撃が走り、飛ばされる。

痛みを覚え、考えることができるから、死んではいないみたい。


ゆっくり目を開けると、少しの痛みはあったものの、俺は無傷でいた。

逆に発砲の反動で、ミキの方が頭や顔から血を流して倒れていた。



「ミキ!」



ユウゴが叫ぶ。


ミキはゆっくりと立ち上がった。

青かった瞳は怒りで少し濁っているようにも見えた。



「ユウゴ…大丈夫。球の破片が当たっただけ。ファイさんの銃だから死なないよ」


「ほんとか?」




「限、大丈夫か?思いっきり打たれたな」



奈津が言う。


喜助は壁に背中を預けて座り、俺を見ていた。



「全然余裕。無傷だし」



俺は絶対普段なら恥ずかしくてやらないピースサインと飛び切りの笑顔を作って2人に向けた。



「そうか。無理はするなよ」



フット表情を崩して、奈津が言った。

喜助を見ると、安堵の表情。


俺を心配してくれていたのか。



「お前、むかつく」



ミキが俺を睨みながら言う。



「お前も充分むかつくよ」



俺も言い返してやった。



「そういうセリフ、僕を倒してから行ってくれる?マジイライラするんだけど」



天使の微笑みで言うミキ。

そして、俺の前に立った。



「それじゃあ改めて始めようか、少年」



ミキはすぐに踏み込んで俺の前に来た。

俺は後転しながらミキのあごにけりを入れる。



ミキは身体を少し反らせてそれをよけた。


今度はミキが俺に向けて銃を放つ。俺はジャンプしてそれをよけた。

同時にミキに回し蹴りをする。

ミキは腕で受けようとするが、身体が軽すぎて吹っ飛んだ。


飛ばされながら俺に向かって打った弾は、防御が追い付かずに太ももを貫通した。



「ミキ!」「限!」



ユウゴと奈津の声が重なった。



「大丈夫だ。ブーツに止血してもらう」



何といっても前進教科のブーツだ。

とにかく、何が何でも止血してもらうしかない。


俺はそっとブーツに触れた。


冷たい氷のような、でも優しい感覚。

こんな感覚になるなんて知らなかった。

とたんに出血が止まった。



俺は、痛みに顔をしかめながらも立ち上がった。


これで、貧血で倒れることはない。



ミキも遠くでゆっくり立ち上がったところだった。



「やってくれるね。今のは本気でいたかったよ。骨も何本か折れたかな?」



銃を俺に向けるミキ。


しかし、俺にもミキにももう、今までのような戦いを再び繰り返すことはできないだろう。

2人ともフューの使い過ぎで満身創痍だ。



「俺もいたかったよ。出血が止められなかったら倒れてたかもな」



俺は言いながら強く踏み込んだ。



ミキは右手を前につきだしてきた。

俺は屈んでよけ、下からアッパー。


ミキは軽く浮いて、自分がさっきぶつかった壁に頭をぶつけて倒れ、起き上がらなかった。



「あらら、俺たちの負けだね。でも、ある意味勝ちだ」


「どういう意味だ?」



奈津が聞き返す。



「俺たちの仕事は君たちを倒すことじゃない。時間稼ぎだ。君たちが助けたい仲間は、俺たちの仲間がここから移動させた。もうここにはいないよ。残念だったね。あの女の子を殺すのは次の土曜日。助けたければ出直しな。この場所での儀式があるから」


「ふざけるな!琴を返せ!」


「そうだ!言ってたことが違う!」



奈津と俺は次々と言った。


喜助は声を出す元気はないらしい。



「悪いな。ゲート」



ユウゴはそういうと2人を連れて消えた。


3人がどこに行ったかなんてわからない。追えない。



奈津は床を拳でたたいた。



「くそっ!」



俺はブーツの発動を解いて、自分の太ももの止血をしながら言った。



「俺もあの時一緒に行けばよかったんだ!俺のせいだ…」


「限の…せいじゃない。…自分を…責めるな…ばか」



奈津と俺は振り返る。


喜助が苦しそうではあったものの、そう言っていたのだ。



「喜助?今限に話しかけたのか?」


「そうです…うぅ…」



喜助は苦しそうにうめいた。



「喜助!限、今すぐ本部に帰る!お前は先に本部に飛んでくれ。私はあとから行く」



俺は頷いて喜助の腕をつかんだ。


人を連れてゲートするのは初めてだ。

緊張しつつ、



「ゲート」



要人の為に呟き、飛んだ。



本部に着くと、喜助を俺の部屋に寝かせた。


喜助の部屋の鍵は持ってないから開けられない。



そして急いで仁に電話した。



「限!?今どこだ?」


「俺の部屋にゲートで飛んできた。喜助のけがが酷いんだ。悪いけどこっちまで来てくれ」



仁はすぐに俺の部屋にゲートで飛んできた。


喜助を見て息をのむ。



「助けてやりたいけど、琴しか癒しの力を持ってないからここでは何もできない。とりあえず普通に応急処置をして、サンの病院に運ぼう。それが一番早い。ちょっと眼帯外すぞ。ダストかフェニックスの位置を探ってみる」



仁は眼帯を取り払った。


そこには普通の目はなかった。

黒目の部分は黒ではなく、青で、不思議なラインが数本入っていた。

目の周りには、縦に黒いタトゥーのようなラインが入っている。



「驚かせてごめん、これが俺のフューなんだ。生まれつき右目の代わりに入ってて。普段は眼帯して力を抑えてるんだけど。…力の強さの割に身体が幼過ぎなんだよね。とりあえず病院にはダストたちはいない。琴音たちは追えなかった。琴音の行方はもやがかかったように見えない。多分向こうの能力者に遮断されてる」


「そうか…。今度またあそこに集まるらしいから、その時に救出するのは?」



俺は喜助を背負いながら言った。



「そうするしかないけどな…俺たちにはあいつらの居場所は分からないんだから。限、俺がゲートするからつかまってくれ」



仁につかまるとすぐに飛んだ。



着いた先は大きな病院。



「ここはGRとつながりのある病院だ。ラインに理解もある。…行くぞ」



俺たちは病院に入った。仲は普通の大きな病院で、一般人ももちろんいた。


病院のカウンターに着く前に、制服やけがを見て、看護師が飛び出してきた。



「ラインの方ですね!急いで奥に!」



俺たちは廊下の一番奥のドアに入った。


中はいかにも、今から治療が始める。というようなベットが置かれていた。



「すぐに傷をふさぎます。付き添いの方は廊下でお待ちください。それと、君も治療を…」


「俺は大丈夫です」



俺と仁は言われた通り廊下に出る。


扉が占められる直前、ちらりと喜助が見えると、だらりと手をぶら下げていた。


喜助…ごめんな…無理させて。




「限。悪いけど、俺はいつダストが出るか分からないから、本部に戻るよ。終わり次第帰って来てくれ」


「分かった。出来たら奈津をこっちに向かわせてくれ」


「電話してみてくれ。いつもの病院といえば奈津ならわかる」


「分かった」



仁の余裕のなさを感じた。何に焦ってる?



電話ができる場所に移動して、俺は奈津に電話した。



『もしもし?』



少ししてから奈津は電話に出た。



「あぁ。今喜助を病院に連れてきた。仁には『いつもの病院』って言えば分かるって言われたんだけど…」


『分かった。今から行くから待ってろ』




数分後、

奈津は息を切らして俺のところまで走ってきた。



「喜助は?」


「まだだよ」



奈津が来てから気が付いた。

奈津より俺の方が落ち着いてる。


廊下に置いてあるベンチに2人で並んで座った。



「喜助には呪いがあるんだ。大量出血は命にかかわる。正直、今の喜助はいつ死んでもおかしくないんだ」


「え…?」


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