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蒼い月の都  作者: 彩夏
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帰宅

弓月の住む邸は、王宮からそう遠くない場所にある。

広い敷地に簡素な平屋の建物が点在し、見た目より実用性を重視した造りは主の人柄を表している。

邸の主は母方の叔父に当たる人で、弓月の育ての親であり、この世で最も恐れる人でもあった。


「た、ただいま戻りました」


「遅い」


門を潜った瞬間、飛んできた声に、弓月は首を竦める。視線を上げれば目の前に、腕を組み憮然とした表情で弓月を睨む男が立っていた。


「こんな時間まで何をっ…………客人か?」


男は後ろに立つ葛城を見て、僅かに眉を上げる。


「此方は葛城殿。帰路で襲われて、危ういところを助けて貰いました」


「襲われた?」


男は眉をひそめる。

顔立ちが端正なだけに、そうすると更にキツい印象になる。


「葛城と申します。都に戻ったばかりで住むところが決まっておらず、困っていたところを弓月殿に誘って頂き、図々しくも押し掛けてしまいました」


「申し訳ありません」と(ゆう)をする葛城に、男は表情を和らげ、微笑みを向けた。


「弓月を助けて頂き、ありがとうございます。私は弓月の叔父で吉野(よしの)と申します。大したもてなしは出来ませんが、都におられる間、どうか拙宅に滞在ください」


吉野は二人を連れて邸に入ると、家人に客室と夕餉の用意を言いつけ、「葛城殿を湯殿へ案内したら、私の房室(へや)に来なさい」と弓月に言った。






「あんた、叔父さんと住んでるんだな?」


「うん、両親は子供の頃に亡くなった。ひとりになった私を叔父さんが引き取ってくれたんだ」


その頃、吉野はまだ冠礼を終えたばかりだった。

冠礼は十五歳で行われる。

衣服を改め、髪を結い、初めて冠をつける儀式だ。男児はこれを持って成人と認められ、妻を娶ることを許される。

その頃の叔父の年齢を弓月は遠に越えたが、今同じことをやれと言われても出来る自信はない。


「……すまない」


弓月は「気にするな」と笑う。


「うちの湯殿は天然の温泉だ、疲れがとれる」


そう言って、弓月は湯殿の戸を閉めた。




吉野の房室は、母屋の最奥にある。

建物の内装には大陸から伝わった様式も多く取り入れられていて、例えば木枠に薄紙を貼った建具は光を通すので、外部からの視線を遮りつつ、明るさを保てる。


「……弓月です」


「入りなさい」


衝立の奥から聴こえた声に促され、弓月はおずおずと顔を覗かせた。

吉野は無言で手前の椅子を指差し、二人は卓子を挟んで向かい合う。


「それで、何があった?」




 揖 …… 一方の手で拳をつくり、反対の手を被せる

     挨拶の作法

     感謝、謝罪、嘆願などの意を表す



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