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蒼い月の都  作者: 彩夏
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出会い

気だるい空気の漂う宵闇の大路を、弓月はやや足早に歩いていた。

明るいうちに帰路につくつもりだったから、迎えも頼まなかったのだが、思いの外仕事が長引いて、すっかり日も暮れてしまった。

このところ、都で続く不審死のせいで、早々と店は閉じ、夜も賑やかだった通りは、息を潜めるように静かだ。

南の空に浮かぶ満月がやけに赤く、禍々しく見えて不安な心を掻き立てる。


弓月はちょっと変わった子供だった。

他人には見えないものが見えるのだ。

例えば「気」、例えば「怪異」と呼ばれるものも。

「飛鳥の都」は「気」の通り道にある。

人によっては「龍脈」とも呼ぶ。

「龍脈」は、力の源で、強力な護りの陣であると同時に、「怪異」の好物でもある。

だから弓月は思ったのだ、「何故王は、怪異の集まる場所に都を置くのか」と。


ふと、空気が変わった。

微かに異臭を含んだ風が背後から吹き抜けてゆく。


(何かがいる……)


見れば動けなくなると、本能的に思う。

けれど、振り向かずにいられなかった。

そこに「何もいない」と、確かめたかったのだ。


足を止め、ゆっくりと振り返る。

大路の真ん中、虎に似た巨大な獣が琥珀の瞳を輝かせて、弓月(えもの)を見つめていた。

「ひっ」と息を呑み、それでも後退りしなかったのは、そうすれば一瞬で喰われると分かったからだ。


「叔父上……」


思わず口にしたのは弓月が最も恐れ、同時に本音を吐き出せる相手だった。



(どうせ死ぬなら、一度くらい思い切り口答えしてやるんだった)


せんないことを考えながら、ふた駆けで目前まで跳んできた獣と見つめ合う。

前肢の爪が肩にかかる瞬間、思わず目を閉じた弓月の脇腹に、物凄い衝撃が走った。そのまま大路の端まで吹っ飛ばされ、壁で強かに背を打って止まる。

一瞬息が詰まった。鳩尾を押さえながら咳き込み、喘ぐように息を吸う。


「動くなよ」


その声は不思議なほどはっきりと、耳に届いた。

視線を上げれば、片目に傷を負い、大路に臥せる獣と月を背負って立つ人影があった。


(誰……?)


咆哮を上げながら地を蹴った獣を、人影は空を飛んでかわし、そのまま手にした剣を脳天へ突き刺した。

ぐりゃりと濡れた音がして、ゆっくりと獣の肢体が倒れる。

ひらりと着地した人影は、剣を振って血を払い、鞘に納めた。

振り返った顔を、月の光が照らす。

その瞳は、獣と同じ琥珀色だった。


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