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蒼い月の都  作者: 彩夏
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弓月は霧の中を歩いていた。

森の中だと分かったのは、緑の香を濃く感じたからだ。

辺りに人の気配はないが、すぐ側に柔らかな羽音があった。

雨が降っていたのか足元は湿っていて、風が吹くと、葉から落ちた雫が頬を濡らす。

これは夢だと、頭の何処かで分かっているのに、木々の香りも葉擦れの音も、頬に落ちた水滴の冷たさも、濡れた土を踏む沓底の感触も、何れもが現実のように思える。

歩き続けていると、段々と霧が薄れ、周囲に林立する木々が姿を現す。

どれも驚くほどに高い。

吹く風にゆうるりと枝を揺らし、はらりはらりと葉を落とす。

いつの間にか、斜め前に白い背中が見えていた。

ふわふわのしっぽとふわふわの耳、小さな羽をぱたぱたと動かしながら、浮かんでいる。


(静かだな……)


柔らかな羽音と自らの息づかい、落ちた葉や枯れ枝を踏む音、遠く近く聴こえる鳥のさえずり……

まるで自身が森に溶け込んでいくかのような感覚に、弓月は足を止めて目を閉じる。

そんな弓月を促すように、兎が「きゅっきゅ」と鳴きながら弓月の袖を引く。

「分かったよ」と苦笑しながら目を開けると、鼻先に丸い瞳があった。

思ったよりも近い距離で目が合って、弓月は思わず顎を引く。

弓月が反応すると兎は咥えていた袖を離し、くるりと背を向けた。

兎の後について更に歩き続けると、前方に丸い光が見えた。ようやく出口かと、枝葉をかき分けて背丈の半分ほどの穴を抜ける。

弓月は衣についた葉を払いながら視線を上げ、一気に広がる視界に息をのんだ。


深い谷を挟むように緑の山々が連なり、青い空に白い雲がくっきりと沸き立つ。

吹き渡る風に、青々とした稲の葉が波のように揺れ、川は空の青を映し、ゆるく蛇行しながら流れてゆく。

雄大な景色に、目を奪われた。


(ここは、どこなんだろう……)


初めて見る風景のはずだ、なのに何故かひどく懐かしい。

ふと、足元に違和感を感じて、弓月は足下を見る。ぶわり、と目に見えない何かが全身をおおうような感覚がした。

側にいた兎が「きゅい」と鳴いて、背を向ける。

飛んでゆく兎を追いかけようと一歩踏み出したところで、足が支えを失った。

まるで泥を踏んだときのように足がずぶずぶと地面にめり込んでゆく。


「え、うわっ……」


あっという間に首まで沈んで、思わず目を瞑った。


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